第一次怪獣ブーム

第一次怪獣ブームとは

第一次怪獣ブームは、1966年から1968年頃にかけて、日本の子供たちの間で爆発的に盛り上がった社会現象です。そのきっかけとなったのは、円谷プロダクションが制作したテレビ番組『ウルトラQ』や『ウルトラマン』でした。これらの番組に登場する巨大な怪獣たちは、それまで映画でしか見ることができなかった存在でしたが、テレビを通して毎週のように子供たちの目に触れるようになり、たちまち人気を集めました。

ブームの背景

1966年、円谷英二が設立した円谷特技プロダクションが、TBSで『ウルトラQ』の放送を開始しました。それまで映画でしか見られなかった怪獣たちが毎週テレビに登場するようになったことや、『マグマ大使』や『ウルトラマン』の放送開始が重なったことが、子供たちの間で「怪獣ブーム」と呼ばれる社会現象を引き起こしました。

このブームは当時、「怪獣ブーム」と呼ばれていましたが、後に「第一次怪獣ブーム」と呼ばれるようになりました。これは、1971年以降に始まる「第二次怪獣ブーム」と区別するためです。第二次怪獣ブームでは等身大ヒーローが主流となり、当時のマスコミは「変身ブーム」と呼んでいました。

ブームの過熱とともに、出版物や玩具市場にも怪獣関連商品が溢れかえり、テレビ・映画界では各社が競って怪獣が登場する作品を制作しました。当時の主な製作会社は、円谷特技プロ、ピー・プロダクション、東映などです。カラーテレビがまだ普及していなかった時代のため、作品はカラー、モノクロを問わず制作されました。

『ウルトラQ』に続く番組枠では、東映が『ウルトラマン』の後番組として『キャプテンウルトラ』を制作し、円谷特技プロは『ウルトラセブン』を制作するなど、ブームをさらに加速させていきました。

また、『ウルトラマン』が確立した「変身する巨大ヒーロー」というコンセプトは、東映の『ジャイアントロボ』のように、巨大ロボットが怪獣と戦うというバリエーションを生み出し、人気を博しました。

これらの作品はどれも高視聴率を記録しましたが、当時は商品化ビジネスが確立していなかったため、莫大な製作費が制作プロダクションの負担となっていました。

社会への影響

このブームにより、「怪獣」という言葉は子供だけでなく大人にも広く使われるようになりました。教育評論家の阿部進は、ブーム後、自らを怪獣化して「カバゴン」と名乗り、主題歌まで作られています。また、子供の教育に熱心な母親は「ママゴン」という怪獣に例えられました。

子供たちの遊びも、「忍者ごっこ」や「チャンバラごっこ」から、「怪獣ごっこ」へと変化していきました。1970年に開催された大阪万博では、巨大ジェットコースターに「ダイダラザウルス」という怪獣の名前がつけられるなど、ブームの影響は社会の様々な場所に及んでいました。

他分野への影響

怪獣ブームは、テレビや映画だけでなく、様々な分野に影響を与えました。

東映京都撮影所制作の『仮面の忍者 赤影』では、忍者を題材とした時代劇にもかかわらず、ブームを意識して巨大怪獣が登場しました。

アニメ業界では、アニメ映画『サイボーグ009』の副題が「怪獣戦争」とされ、『ゲゲゲの鬼太郎』にも巨大な敵妖怪が登場しました。また、怪獣をキャラクター化したアニメ作品も制作されました。

1967年には、「キングコング・ブーム」が仕掛けられ、映画『キングコング対ゴジラ』のライセンス契約が切れる直前に、怪獣ブームとの相乗効果を狙ったメディアミックス企画が展開されました。

映画界への影響

テレビで始まった怪獣ブームは、映画界にも波及しました。

大映は、東宝の怪獣映画に対抗して『大[[怪獣ガメラ]]』を制作し、大ヒットを記録しました。その後も『ガメラシリーズ』を制作し、ドル箱シリーズとして展開しました。

当時、邦画は斜陽期を迎えていましたが、『ガメラシリーズ』の好調を受け、日活や松竹といった他の映画会社も怪獣映画に参入しました。海外セールスに有利な怪獣映画は、政府もドル箱として有効性を認め、制作に融資を行うほどの過熱ぶりでした。

ゴジラ映画やこれらの怪獣映画は、観客層を低年齢層に絞り、怪獣の名前を少年週刊誌で公募するなど、子供たちを積極的に巻き込んでいきました。

商品展開

ブームの火付け役となった『ウルトラQ』は、大手広告代理店によって大々的に宣伝され、日本全国を席巻しました。

出版界では、『週刊少年マガジン』などの子供漫画雑誌で『ウルトラQ』をはじめとする作品が取り上げられ、番組を漫画化した「怪獣漫画」というジャンルが誕生しました。

出版社は、各番組の独占掲載権を獲得し、特集記事を掲載したり、怪獣の絵物語や図鑑を刊行したりしました。

大伴昌司による「怪獣の内部図解」は、子供たちに大人気となりましたが、後に円谷特技プロから反発を受けることになりました。

音楽界では、『ウルトラマン』の主題歌レコードがミリオンセラーとなり、怪獣の活躍する音源ドラマがソノシートとして多数リリースされました。

玩具市場では、ソフトビニール製の怪獣人形が登場し、ブリキ人形に代わって子供たちに人気となりました。また、怪獣やヒーロー、メカを題材にしたプラモデルも多数発売されました。

遊びの現場では、めんこやブロマイド、キャラクターお面などが人気を集めました。また、ヒーローや怪獣のキャラクターをプリントした学用品や日用品も販売され、子供のいる家庭は怪獣であふれかえりました。

これらの商品には、商標登録をしていない「ニセモノ」も多く存在しましたが、当時は著作権意識があいまいだったため、制作プロダクションも商品化ビジネスを重視していませんでした。

年末年始には、凧や独楽、双六、かるたといった定番玩具にも怪獣キャラクターが登場し、キャラクター玩具の「クリスマス・正月商戦」が重要な商機となりました。

アトラクション興行

怪獣を展示・実演させるアトラクションは、1965年にデパートの屋上で行われたゴジラの実演ショーが最初期のものとされています。

本格的な展示イベントとしては、1966年に松屋デパートで行われた『ウルトラQ』怪獣の展示会が初めてです。当初、円谷英二はアトラクション公開に反対していましたが、TBSのプロデューサーの説得によって実現しました。

円谷特技プロのそばの保育園からの依頼で怪獣の着ぐるみを貸し出したことがきっかけで、遊園地などで「怪獣ショー」が行われるようになりました。

ブームの過熱期には、TBSもアトラクション用の怪獣の制作を発注するほどでした。1967年には、『キャプテンウルトラ』の「怪獣七夕祭り」が開催され、出演者のトークショーが行われました。

当時のアトラクションは、子供たちとの触れ合いを主体としたものが多く、後年の「変身ブーム」期のような過激なアクションはあまり見られませんでした。

ブームの終息とその後

1967年に入ると、各社の番組内容について「息切れ、マンネリである」といった評価がされるようになり、ブームは1968年に沈静化していきました。その後、「妖怪ブーム」や「スポ根ブーム」に人気が移り変わっていきました。

円谷英二は、「もう怪獣の時代じゃなくなった」と語り、円谷特技プロは『ウルトラセブン』を終了しました。映画界でも、東宝が大作怪獣映画の制作を中止するなど、各社が怪獣映画から撤退していきました。

しかし、テレビではブーム期の作品の再放送が重ねられ、アトラクションショーも開催されるなど、ブームの火種は残っていました。これらの再放送によって次世代のファンを獲得し、3年後の「第二次怪獣ブーム」につながっていきました。

ブームを支えた裏方たち

怪獣制作のノウハウを持った技術者は限られており、様々な造形者が各社を渡り歩き、過密なスケジュールの中で高品質なキャラクター作りに励んでいました。

高山良策は、「怪獣作りの名人」と呼ばれ、『ウルトラQ』に始まる怪獣たちを手がけました。

東宝特殊美術課は、戦前から特撮映画の造形を担当しており、円谷特技プロにも協力していました。

開米栄三は、東宝特美課を退社後、怪獣制作会社を設立し、「ガメラシリーズ」にも参加しました。

大橋史典は、特殊造形家の草分けとして活躍し、「日本特撮株式会社」を設立して『怪獣王子』を製作しました。

エキスプロダクションは、大映の美術チーフだった八木正夫が設立し、各社にわたって活躍しました。

年次別主な代表作品

1966年

テレビ実写作品

ウルトラQ
マグマ大使
ウルトラマン
悪魔くん
快獣ブースカ

映画作品

大魔神シリーズ
大[[怪獣決闘 ガメラ対バルゴン]]
海底大戦争
フランケンシュタインの[[怪獣 サンダ対ガイラ]]
ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘
黄金バット
怪竜大決戦

1967年

テレビ実写作品

仮面の忍者 赤影
キャプテンウルトラ
忍者ハットリくん+忍者怪獣ジッポウ
光速エスパー
ウルトラセブン
怪獣王子
ジャイアントロボ

テレビアニメ作品

ちびっこ怪獣ヤダモン
おらぁグズラだど

映画作品

大[[怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス|大怪獣空中戦_ガメラ対ギャオス]]
サイボーグ009 怪獣戦争
宇宙大怪獣ギララ
大巨獣ガッパ
キングコングの逆襲
怪獣島の決戦 ゴジラの息子

1968年

テレビ実写作品

戦え!マイティジャック

映画作品

ガメラ対宇宙[[怪獣バイラス]]
怪獣総進撃

まとめ

第一次怪獣ブームは、子供たちの心を掴み、社会現象にまで発展した一大ムーブメントでした。このブームは、テレビ、映画、出版、玩具など、様々な分野に影響を与え、その後の特撮文化に大きな足跡を残しました。

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