鍾繇

鍾繇（しょうよう）：魏を支えた政治家であり、後世に影響を与えた書家

鍾繇（しょう よう、151年 - 230年）は、後漢末期から三国時代の魏にかけての政治家であり、著名な書家でもありました。字は元常（げんじょう）。豫州潁川郡長社県（現在の河南省許昌市長葛市）の出身です。曹操に仕え、魏の建国に大きく貢献しました。また、書家としても独自の書体を確立し、後世に多大な影響を与えました。

生涯

曹操に仕えるまで

若い頃、鍾繇は人相見から「貴人になる相があるが、水難の相もある」と予言されます。その直後、橋から落ちそうになるという出来事があり、鍾瑜（族父）は鍾繇を大切に育て、学問に励ませました。孝廉に推挙されて官吏となり、献帝が長安にいた混乱期には、曹操に使者を送るよう李傕らを説得するなど、その才能を発揮します。曹操は荀彧の推薦と鍾繇の功績を知り、彼を重用するようになりました。

関中統治

曹操は、関中の馬騰・韓遂の勢力を警戒し、鍾繇を司隷校尉に任命して関中を統治させました。鍾繇は、馬騰らを説得して和解させ、彼らの子を人質として都に送らせることに成功します。官渡の戦いでは、軍に2000頭余りの馬を供給し、曹操からその功績を賞賛されました。また、匈奴の反乱や河東郡での反乱を鎮圧するなど、軍事的な才能も発揮しました。しかし、漢中郡の張魯討伐の際に関中の諸将に圧力をかけたことが、馬超らの反乱を招く一因となりました。一方で、洛陽の再興にも尽力し、関中の住民を移住させるなどの政策を実施しました。

魏の重臣へ

鍾繇は、魏の建国に貢献し、大理、相国などの要職を歴任しました。しかし、魏諷の反乱に連座して免職となることもありました。曹丕が皇帝に即位すると大理に復職。その後、廷尉、太尉、太傅と昇進を重ね、曹叡の時代には、高齢と膝の疾患のため、車での参内と虎賁による着席を許されるという特例を受けました。また、死刑の代替として肉刑を復活させることを主張しましたが、王朗らの反対により実現しませんでした。230年、80歳で死去し、成侯と諡されました。

評価

曹丕は、鍾繇、華歆、王朗の三公を「一代の偉人」と称賛しました。陳寿は、鍾繇を「道理に通じ、司法の才があった」と評しています。裁判官としても優れた洞察力で法を運用し、その才能を発揮しました。

一族

鍾繇の先祖は、秦末期の将軍である鍾離眜であるとされています。息子には、鍾毓と鍾会がいます。鍾毓は後将軍まで上り詰めましたが、鍾会は蜀漢平定後に反乱を企てて敗死しました。

逸話

鍾繇は、自身を推挙した荀彧を尊敬し、荀攸にも敬意を払っていました。また、元部下の吉黄を処刑したにもかかわらず、その弟である吉茂を推挙するなど、公正な人物であったと伝えられています。春秋左氏伝を好む鍾繇は、春秋公羊伝を好む厳幹と議論を交わし、打ち負かしたという逸話も残っています。

三国志演義における鍾繇

小説『三国志演義』では、馬超の長安襲撃時に太守として登場します。馬岱との一騎打ちで敗走するなど、史実とは異なる描写もありますが、その後は史実と同様に魏の重臣として活躍します。

書家として

鍾繇は、書家としてもその名を残しており、特に小楷の書法に優れていました。彼の書体は「鍾繇体」と呼ばれ、王羲之をはじめとする後世の書家に大きな影響を与えました。代表作には『急就章』『薦季直表』『宣示表』などがあります。

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