アカデミック美術

アカデミック美術（Academic art）とは、主に西洋美術における用語あるいは様式を指します。具体的には、フランスの芸術アカデミーの規範に影響を受けた絵画や画家たち、あるいはヨーロッパのアカデミーや大学の影響を受けて作られた絵画や彫刻の様式を指します。

アカデミーの歴史

最初の美術アカデミーは、1563年にジョルジョ・ヴァザーリがフィレンツェに設立した「アカデミア・デッレ・アルティ・デル・ディゼーニョ」（現フィレンツェ美術学校）です。ここでは解剖学や幾何学も含む「arti del disegno」（素描の芸術）が教えられました。

その後、ローマに「アカデミア・ディ・サン・ルカ」が設立され、こちらは美学理論を重視しました。1582年には、アンニーバレ・カラッチがボローニャに「Accademia dei Desiderosi」を開設し、伝統的な工房とアカデミーの要素を融合させました。

1648年にはフランスで「王立絵画彫刻アカデミー」が設立され、これが後の「芸術アカデミー」となりました。このアカデミーは「arti del disegno」を「beaux arts（ボザール）」と訳し、知的要素を重視しました。17世紀には、ルーベンスとプッサンのどちらを手本とするかという論争が起こり、線と色のどちらを重視するかという対立が生まれました。

19世紀には、新古典主義とロマン主義の対立が再燃し、自然を観察して学ぶべきか、過去の巨匠の作品を見て学ぶべきかという論争も起こりました。フランスのアカデミーを手本としたアカデミーがヨーロッパ中に広まりましたが、女性の入学は制限されるなど、制約もありました。

アカデミック様式の発展

プッサン派とルーベンス派の論争以降、多くの画家が両方の様式を融合させようと試みました。19世紀には、新古典主義とロマン主義を統合する動きが生まれ、テオドール・シャセリオー、アリ・シェフェール、フランチェスコ・アイエツらがその代表的な画家とされています。ウィリアム・アドルフ・ブグローは、色と線を同じものとして捉えることの重要性を説きました。

また、絵画に描かれた時代を示す「歴史主義」という様式も発展しました。ジェームズ・ティソの影響を受けたジャン・オーギュスト・エンドリック・レイスの作品がその代表例です。さらに、新ギリシア様式も発展しました。歴史主義は、過去の絵画の伝統を調和させることを目指しました。

美術界は絵画の中の「寓意」にも注目し、画家たちは寓意を通じてテーマ、感情、概念を表現しようとしました。絵画がプラトンの「イデア」を想起させるならば、抽象的な永遠の真実が見えるはずだと考えました。画家たちは、作品に「夜明け」「黄昏」といった寓意的なタイトルを付け、裸体の人物で擬人化し、イデアの本質を明らかにしようとしました。

観念論的な傾向が強まり、描かれる人物像はより簡潔に、抽象的になりました。歴史や神話は、劇や概念の弁証法、寓意のための豊かな基盤と見なされ、それらをテーマにすることが重厚な絵画だと考えられました。17世紀から始まった「ジャンルのヒエラルキー」では、歴史画が頂点に置かれ、その下に風俗画、肖像画、静物画、風景画が続きました。

19世紀末には、アカデミック絵画はヨーロッパ社交界に浸透し、展覧会が頻繁に開催されました。サロン（サロン・ド・パリ）やサロン・ドートンヌは、大勢の観客を集めるセンセーショナルなイベントでした。アカデミック絵画が隆盛した時代には、ロココ時代の絵画がリバイバルし、ラファエロがミケランジェロ以上に崇拝されました。

アカデミック絵画はヨーロッパやアメリカだけでなく、ラテンアメリカなどにも影響を与えました。

アカデミーの授業

若い画家たちは数年間厳しい訓練に明け暮れました。フランスでは、試験に受かり、著名な美術教授からの推薦状を得た者だけが、エコール・デ・ボザールに入学を許されました。ここでは、ヌードのデッサンと彩画が重視されました。学生たちはまず古典彫刻の印刷物を模写し、輪郭や光の陰影に慣れ、その後石膏模型のデッサンに進みました。ポーズをとったモデルを写生できるのは、これらの技術を身につけた者だけでした。面白いことに、エコール・デ・ボザールでは1863年になるまで絵の具を使った彩画は教えられませんでした。デッサンで実力を示した者だけが、アカデミー会員のアトリエに入り、彩画を学ぶことができました。学生たちは与えられたテーマと時間でコンペに挑み、ローマ賞を目指しました。ローマ賞の優勝者は、ローマのヴィラ・メディチ校で最長5年間学ぶための奨学金を得られました。

プロの画家たちの最終目標は、アカデミー・フランセーズ会員に選ばれることでした。画家たちは、自分の絵を最善の「線上」に展示して欲しいと頼みました。もし絵が天井近くの高い場所に展示されていたら、不平を訴えました。

批判と遺産

アカデミック絵画への最初の批判は、ギュスターヴ・クールベら写実主義の画家たちから、その観念性に対して浴びせられました。彼らは、アカデミック絵画が現代社会との関係性を無視し、観念的なクリシェや神話・伝説のモチーフに基づいていると指摘しました。また、写実主義は、彩画の「筆使いをわざと消した表面のなめらかさ」も批判しました。

印象派は、アカデミック絵画の垢抜けして理想化されたスタイルを批判し、目で見たものをその場で描く「屋外」での絵画を主張しました。アカデミック画家たちが、最初にデッサンし、それから油絵具でスケッチし、さらにイメージを理想化するために「fini」（入念な仕上げ）を施すことを「嘘」だと見なしました。

写実主義や印象派は、静物画や風景画を下位に置くジャンルのヒエラルキーを否定しました。注意すべきは、アカデミスムに抵抗した初期のアヴァンギャルドの画家たちが、元々はアカデミック画家のアトリエにいたということです。近代美術が力をつけるにつれて、アカデミック絵画は「感傷的」「クリシェ」「保守的」「ブルジョワ的」「趣味が良くない」と見なされるようになりました。アカデミック絵画は、フランスでは「アール・ポンピエ」とも呼ばれました。美術評論家クレメント・グリーンバーグは、アカデミック絵画を「キッチュ」と断じました。しかし、前衛絵画の黄金期が過ぎると、アカデミック美術の再評価が進み、美術史上で「取るに足らない存在」と扱われていた新古典主義派の画家たちが再評価される流れとなりました。また、一般社会でも古典的な価値観が求められるようになり、アカデミック絵画の再評価を後押ししています。

主要な作家

フランス：アルフレッド・アガッシュ、ルイ・エルネスト・バリアス、ポール・ボードリー、アルベール＝エルネスト・カリエ＝ベルーズ、ウィリアム・アドルフ・ブグロー、シャルル＝エドゥアール・ブーティボンヌ、シャルル・ジョシュア・シャプラン、ピエール・オーギュスト・コット、トマ・クチュール、アレクサンドル・カバネル、アレクサンドル＝ガブリエル・ドゥカン、ポール・ドラローシュ、デルファン・アンジョルラス、アレクサンドル・ファルギエール、ジャン＝レオン・ジェローム、ジャン＝ジャック・エンネル、ポール・ジャマン、ジャン＝ポール・ローランス、アントナン・メルシエ、エミール・ムニエル、ギヨーム・セイニャク

イギリス：ローレンス・アルマ＝タデマ、アルフレッド・ギルバート、フレデリック・レイトン、アルバート・ムーア、アルフレッド・スティーヴンス、ジョージ・フレデリック・ワッツ

イタリア：オイゲン・フォン・ブラース（エウジェーニオ・デ・ブラース）、フランチェスコ・アイエツ、ドメニコ・モレッリ

オーストリア：ハンス・カノン、ハンス・マカルト、ヴィクトール・ティルグナー

オランダ：アリ・シェフェール

スイス：シャルル・グレール

スペイン：マリアノ・フォルトゥーニ

チェコ：ヴァーツラフ・ブロジーク

ドイツ：フランツ・フォン・レンバッハ

ハンガリー：ロッツ・カーロイ、ジュラ・ベンツール

ベルギー：ジャン・オーギュスト・エンドリック・レイス、アルフレッド・ステヴァンス

ポーランド：ヘンリック・シエミラツキー

カナダ：マルク＝オーレル・ド・フォワ・スゾール＝コテ

ウルグアイ：フアン・マヌエル・ブラネス

ブラジル：ビクトル・メレーレス、ペドロ・アメリコ、ロドルフォ・アモエド

メキシコ：アンヘル・サラガ

インド：ラヴィ・ヴァルマ

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