三木滋人

三木滋人：映画撮影に情熱を注いだ名キャメラマン

三木滋人（みきしげと、1902年 12月26日 - 1968年10月21日）は、日本の映画撮影技師です。大正末期から昭和にかけて、その卓越した技術で多くの映画作品を支えました。

マキノのスターキャメラマンとして

愛媛県に生まれた三木は、14歳で東京のM・カシー商会に入社し、撮影の道へ進みました。その後、東亜キネマ甲陽撮影所を経て、マキノ・プロダクションに入社。「三木稔」の名で、マキノ省三監督のもと、スターキャメラマンとして活躍しました。特に、若手監督のマキノ正博、脚本家の山上伊太郎とともに、マキノの黄金期を築きました。

マキノ入社後、三木は曾根純三監督の作品でキャメラを担当し、その才能を発揮しました。1926年には、マキノ省三と人見吉之助の共同監督作品『赭土』の撮影を担当し、マキノ輝子やマキノ正唯（後のマキノ正博）といった若手俳優たちの魅力を引き出しました。また、三木はストーリーや脚本の才能も持ち合わせており、1927年にはマキノ正博の監督デビュー作にオリジナルストーリーを提供しました。

1928年には、自身が脚本とキャメラを担当したコメディ『八笑人』が制作され、マキノ正博が監督、杉狂児が主演を務めました。また、同年の『神州天馬侠』では、脚本も担当しました。さらに、嵐寛寿郎のマキノ入社作では、山上伊太郎と初めて仕事をし、才能ある脚本家との交流を深めました。

1928年の俳優大量退社事件後も、マキノに残り、マキノ正博監督、山上伊太郎脚本とともに『浪人街第一話美しき獲物』を制作し、「新鋭トリオ」「青春トリオ」として注目を集めました。三木は、わずか26歳で撮影部長に就任し、その才能が認められました。

溝口健二との出会い

1930年にマキノ・プロダクションを退社後、帝国キネマ（後の新興キネマ）に移籍。曾根純三監督の作品でキャメラを担当し、1933年には溝口健二監督の『祇園祭』の撮影を任されました。その後、第一映画に移籍し、『折鶴お千』、『マリヤのお雪』、『虞美人草』、『浪華悲歌』、『祇園の姉妹』など、溝口監督の多くの作品でキャメラを担当し、「溝口組」に欠かせない存在となりました。

1939年、三木は「三木滋人」と改名し、溝口健二監督の『残菊物語』の撮影を担当しました。その後も、森一生監督の作品や、戦時統合で大映に移籍後も、引き続き映画製作に携わりました。

マキノとの再会、そして東映へ

戦後、三木はマキノ正博が所長を務める松竹京都撮影所に移籍し、マキノ作品の撮影を多く担当しました。その後、フリーランスを経て、東横映画に移籍し、マキノ監督作品に関わりました。東横映画が東映に合併した後も、マキノ雅弘監督作品を中心に、数々の名作の撮影を担当しました。

三木は、リメイク版『浪人街』である『酔いどれ八萬騎』や、佐々木康監督の『一本刀土俵入』、マキノ雅弘監督の『弥太郎笠』、『次郎長三国志』シリーズ、『日本侠客伝』シリーズなど、時代劇から任侠映画まで幅広いジャンルの作品で、その才能を発揮しました。

1965年に引退するまで、三木は常に撮影技術の向上を追求し、映画界に多大な貢献をしました。1968年10月21日、65歳でその生涯を閉じました。

人物・エピソード

マキノ省三は、「一スジ、二ヌケ、三ドウサ」を映画憲法としていましたが、三木は「二ヌケ」（画面の写りの綺麗さ）の要求に完璧に応えました。当時の撮影機材では難しかった雲の表現を、紗を使うことで可能にし、マキノ省三から破格の祝儀を受け取ったエピソードは有名です。また、マキノ正博監督の作品撮影中には、機転を利かせて名ショットをものにしたという逸話も残っています。

撮影技術だけでなく、射撃の名手でもあり、空気銃で雀を撃つ腕前は「西部劇のスタア並み」だったというエピソードも伝えられています。

三木滋人は、その卓越した技術と映画への情熱で、多くの映画人に影響を与えた偉大なキャメラマンでした。

主なフィルモグラフィ

以下に三木滋人の主なフィルモグラフィを記載します。

三木稔時代

1916年：『先代萩床下』
1925年：『母』
1925年：『お艶殺し』
1925年：『寺小屋騒動』
1926年：『赭土』
1927年：『週間苦行』
1928年：『八笑人』
1928年：『神州天馬侠第三篇』
1928年：『神州天馬侠第四篇』
1928年：『浪人街第一話美しき獲物』
1930年：『嬰児殺し』
1931年：『堀江六人斬妻吉物語』
1932年：『出征前』
1932年：『恋と十手と巾着切』
1933年：『祇園祭』
1935年：『折鶴お千』
1935年：『マリアのお雪』
1935年：『虞美人草』
1936年：『浪華悲歌』
1936年：『祇園の姉妹』
1937年：『愛怨峡』

三木滋人時代

1939年：『吉野勤王党』
1939年：『残菊物語』
1940年：『浪花女』
1943年：『海賊旗吹っ飛ぶ』
1944年：『不沈艦撃沈』
1944年：『団十郎三代』
1944年：『宮本武蔵』
1945年：『名刀美女丸』
1947年：『愉快な仲間』
1947年：『金色夜叉前篇』
1947年：『金色夜叉後篇』
1948年：『肉体の門』
1948年：『幽霊暁に死す』
1951年：『お艶殺し』
1951年：『酔いどれ八萬騎』
1954年：『一本刀土俵入』
1960年：『弥太郎笠』
1961年：『鳴門秘帖』
1961年：『鳴門秘帖完結篇』
1963年：『次郎長三国志』
1963年：『続・次郎長三国志』
1964年：『次郎長三国志第三部』
1964年：『日本侠客伝』
1965年：『日本侠客伝浪花篇』

註

マキノ正博は、のちにマキノ雅弘と改名。