世界遺産委員会

世界遺産委員会とは

世界遺産委員会は、国際連合教育科学文化機関（ユネスコ）の委員会の一つで、世界遺産の保護に関する重要な役割を担っています。正式名称は「顕著な普遍的価値を有する文化遺産及び自然遺産の保護のための政府間委員会」です。

委員会の構成

世界遺産委員会は、世界遺産条約を締結している国の中から、総会で選出された21か国の委員国で構成されています。委員国の選出にあたっては、地域間のバランスが考慮されており、各地域からの選出枠は以下の通りです。

グループI （西ヨーロッパ・北アメリカ）：2か国
グループII （東ヨーロッパ）：2か国
グループIII （ラテンアメリカ・カリブ海）：2か国
グループIV （アジア・太平洋）：3か国
グループV(a) （アフリカ）：4か国
グループV(b) （アラブ諸国）：2か国

委員国の任期は6年ですが、自発的に4年に短縮することも可能です。

会議には、諮問機関である国際自然保護連合 (IUCN)、国際記念物遺跡会議 (ICOMOS)、文化財の保存及び修復の研究のための国際センター (ICCROM) の代表者や、非政府組織（NGO）も参加します。

事務局は、ユネスコの世界遺産センターが務めています。

委員会の役割

世界遺産委員会は、原則として年1回会合を開き、以下の議題について話し合います。

世界遺産の新規推薦物件および拡大登録申請物件の審議
世界遺産リストへの新たな登録候補地を審査し、登録の可否を決定します。また、既に登録されている遺産の範囲を拡大する申請も審議します。
危機遺産リスト登録物件の加除
深刻な危機に瀕している世界遺産を「危機遺産リスト」に登録し、保護のための措置を講じます。また、改善が見られた場合はリストから除去します。
既存の世界遺産リスト登録物件の保全状況
既に登録されている世界遺産の保全状況を定期的に確認し、必要な対策を検討します。
世界遺産基金の運用
世界遺産の保護活動を支援するための基金を管理・運用します。
その他、世界遺産条約履行に関する諸事項
世界遺産条約の円滑な履行のために必要な事項を議論します。

世界遺産委員会の歴史

世界遺産委員会の第1回会合は1977年にパリで開催され、以降、毎年（または隔年）世界各地で開催されています。各回の開催地と主な出来事は以下の通りです。

第1回 (1977年、パリ)：初の委員会開催。
第2回 (1978年、ワシントンD.C.)：世界遺産リストの作成開始。ゴレ島、ガラパゴス諸島など12件が初登録。
第3回 (1979年、ルクソール)：ティカル国立公園が初の複合遺産として登録。ヌビア遺跡がリスト入り。
第4回 (1980年、パリ)：オフリド湖が複合遺産に。
第5回 (1981年、シドニー)：カカドゥ国立公園などオセアニア初の世界遺産が登録。
第6回 (1982年、パリ)：エルサレム旧市街が危機遺産リスト入り。
第7回 (1983年、フィレンツェ)：フィレンツェ歴史地区が開催地。
第8回 (1984年、ブエノスアイレス)：イグアス国立公園などが登録。アフリカの3つの自然遺産が危機遺産入り。
第9回 (1985年、パリ)：アボメイの王宮群が危機遺産に同時登録。
第10回 (1986年、パリ)：チャン・チャン遺跡が危機遺産入り。
第11回 (1987年、パリ)：文化遺産32件、自然遺産8件、複合遺産1件が登録。
第12回 (1988年、ブラジリア)：ブラジリアが開催地。バハラ城塞が危機遺産リスト入り。
第13回（1989年、パリ）：ヴィエリチカ岩塩坑が危機遺産入り。
第14回（1990年、バンフ）：トンブクトゥが危機遺産入り。
第15回（1991年、カルタゴ）：プリトヴィツェ湖群国立公園とドゥブロヴニク旧市街が危機遺産入り。
第16回（1992年、サンタフェ）：リオ・アビセオ国立公園が複合遺産に。ニンバ山厳正自然保護区など6件が危機遺産入り。
第17回（1993年、カルタヘナ）：姫路城など日本の世界遺産が初登録。トンガリロ国立公園が複合遺産に。エバーグレーズ国立公園が危機遺産入り。
第18回（1994年、プーケット）：ウルル＝カタ・ジュタ国立公園が複合遺産に。ヴィルンガ国立公園が危機遺産入り。
第19回（1995年、ベルリン）：メッセル採掘場が登録。イエローストーン国立公園が危機遺産入り。
第20回（1996年、メリダ）：原爆ドームが登録。リオ・プラタノ生物圏保護区などが危機遺産入り。
第21回（1997年、ナポリ）：ポンペイなどが登録。オカピ野生生物保護区などが危機遺産入り。
第22回（1998年、京都）：古都奈良の文化財が登録。ドゥブロヴニク旧市街などが危機遺産リストから除去。
第23回（1999年、マラケシュ）：ルウェンゾリ山地国立公園などが危機遺産入り。コンゴ民主共和国の世界遺産が全て危機遺産に。
第24回（2000年、ケアンズ）：60件以上が新規登録。グレーター・ブルー・マウンテンズ地域が登録。
第25回（2001年、ヘルシンキ）：フィリピン・コルディリェーラの棚田群などが危機遺産入り。
第26回（2002年、ブダペスト）：トカイのワイン産地などが登録。ジャームのミナレットなどが危機遺産入り。「世界遺産に関するブダペスト宣言」が出された。
第27回（2003年、パリ）：コトルの自然と歴史・文化地域などが危機遺産リストから除去。コモエ国立公園などが危機遺産入り。
第28回（2004年、蘇州）：高句麗古墳群などが登録。ケルン大聖堂が危機遺産入り。
第29回（2005年、ダーバン）：フレデフォート・ドームなどが登録。ハンバーストーンとサンタ・ラウラの硝石工場群などが危機遺産入り。
第30回（2006年、ヴィリニュス）：世界遺産の登録基準が変更。ドレスデン・エルベ渓谷などが危機遺産入り。
第31回（2007年、クライストチャーチ）：アラビアオリックスの保護区が世界遺産リストから抹消。ガラパゴス諸島などが危機遺産入り。
第32回（2008年、ケベック・シティ）：ジョギンズの化石断崖群などが登録。
第33回（2009年、セビリア）：ドレスデン・エルベ渓谷が世界遺産リストから抹消。ベリーズ珊瑚礁保護区などが危機遺産入り。
第34回（2010年、ブラジリア）：サン・クリストヴァンの町のサン・フランシスコ広場などが登録。アツィナナナの雨林などが危機遺産入り。
第35回（2011年、パリ）：スマトラの熱帯雨林遺産などが危機遺産入り。
第36回（2012年、サンクトペテルブルク）：世界遺産の総数が962件となる。
第37回（2013年、プノンペン）：東レンネルなどが危機遺産入り。シリアの世界遺産が全て危機遺産入り。
第38回（2014年、ドーハ）：オカバンゴ・デルタが1000件目の世界遺産に。セルース猟獣保護区などが危機遺産入り。
第39回（2015年、ボン）：シバームの旧城壁都市などが危機遺産入り。
第40回（2016年、イスタンブール）：ナンマトルなどが危機遺産入り。リビアの世界遺産が全て危機遺産入り。
第41回（2017年、クラクフ）：ゲラティ修道院が構成資産を抹消された例として登録。ウィーン歴史地区などが危機遺産入り。
第42回（2018年、マナーマ）：トゥルカナ湖国立公園群が危機遺産入り。
第43回（2019年、バクー）：カリフォルニア湾の島々と自然保護区群が危機遺産入り。
第44回（2021年、オンライン開催）：海商都市リヴァプールが抹消。ロシア・モンタナの鉱山景観が危機遺産入り。
第45回 (2023年、リヤド): リヴィウ歴史地区などが危機遺産入り。
第46回（2024年、ニューデリー）：聖ヒラリオン修道院 / テル・ウンム・アメルが登録。ニョコロ＝コバ国立公園が危機遺産から除去。
第47回（2025年、ソフィア）：開催予定。

臨時委員会

世界遺産委員会は、通常会合の他に、必要に応じて臨時会合を開催することがあります。臨時委員会では、緊急性の高い案件や、通常会合で決定できなかった事項について審議が行われます。

まとめ

世界遺産委員会は、世界遺産の登録、保全、管理において、中心的な役割を担っています。委員会の決定は、世界遺産の将来に大きな影響を与えるため、その活動は世界中から注目されています。

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