乞活

乞活（きつかつ）とは：動乱の時代を生きた漢民族の武装集団

乞活（きつかつ）は、西晋末期から五胡十六国時代にかけて、黄河一帯で活動していた漢民族の武装流民集団です。戦乱の時代、彼らはどのようにして生まれ、どのような活動を繰り広げたのでしょうか。

乞活の誕生

304年、并州で匈奴の劉淵が挙兵すると、略奪と殺戮が繰り返され、并州は荒廃しました。306年、并州刺史の司馬騰が鄴へ移ると、食糧を求めて2万戸余りの人々が彼に従いました。司馬騰は彼らを冀州へ派遣し、食糧を集めさせました。この時、田甄、田蘭、任祉、祁済、李惲、薄盛らの并州の将が彼らを率い、彼らは自らを「乞活」と号しました。

汲桑討伐と内部対立

307年、汲桑が挙兵すると、司馬騰は討伐に失敗し殺害されました。汲桑はさらに幽州刺史の石尟が守る楽陵へ攻め込みました。司馬騰の仇を討つため、乞活の田禋は田蘭、薄盛らと共に兵を挙げ、5万の兵を率いて石尟の救援に向かいましたが間に合わず、石尟は戦死。田禋は汲桑配下の石勒に敗れました。その後、兗州刺史の苟晞と冀州刺史の丁紹が汲桑を打ち破ると、田甄らは再び兵を動かし、楽陵で汲桑を討ち取りました。この功績により、田甄は汲郡太守、田蘭は鉅鹿郡太守に任じられました。しかし、田甄が魏郡太守の位を求めたものの司馬越に拒否されたため、司馬越を恨むようになりました。

離散と再起

308年、司馬越が滎陽に移ると、田甄らを呼び寄せましたが、司馬越に不信感を抱いていた田甄は応じませんでした。司馬越は監軍の劉望に討伐を命じ、劉望が黄河を北に渡ると、田甄は撤退しました。配下の李惲と薄盛は田蘭を斬り、その部下を率いて司馬越に降伏。田甄、任祉、祁済は軍を捨てて上党へ逃走しました。

11月、石勒が中丘に攻め込むと、田禋と赦亭は敗れて殺害されました。洛陽が漢（後の前趙）の侵攻を受けると、李惲と薄盛らは兵を率いて救援に向かい、劉聡を敗走させました。さらに、新汲にいる漢の大将軍、王弥も打ち破りました。

李惲の最期と薄盛の降伏

310年、司馬越が亡くなると、その棺は封国である東海へ運ばれることになりました。右衛将軍となった李惲は、司馬越の妃である裴氏と世子の司馬毗を伴い洛陽から東海へ向かいましたが、洧倉で石勒の強襲に遭い、司馬毗らを見捨てて広宗へと逃亡しました。

洛陽が陥落すると、大司馬の王浚は帝位に就くことを目指し、皇太子を立てて百官を置きました。この時、李惲は青州刺史に任じられました。313年、李惲は上白城において石勒と戦いましたが、敗れて殺害されました。石勒は降伏した兵を生き埋めにしようとしましたが、兵の中に恩人の郭敬がいることを知り、全員を許しました。郭敬は上将軍となり、降伏した兵士は彼の配下となりました。李惲の敗死を知った王浚は、青州刺史の地位を薄盛に与えました。しかし、薄盛は勃海郡太守の劉既を捕らえると、5千戸を率いて石勒に降伏しました。その後、王浚も石勒に滅ぼされました。

陳午率いる乞活

薄盛の降伏によって乞活は滅亡したかに見えましたが、別の形で存続を続けました。陳午という将が率いる別の乞活は、李惲が永嘉の乱後に北へ向かった際、彼と別れて黄河以南の浚儀に留まりました。そして、蓬陂に塢壁（外敵を防ぐための土壁で囲まれた集落）を作り、精兵5千で守りました。以後、石勒と蓬関一帯を争いました。319年、陳午が亡くなると、彼は部下たちに「決して胡人に仕えてはならぬ」と言い残しました。有力者達の推挙により、子の陳川が盟主となりましたが、法規によって集団を管理したため、陳午のように部下の心を掴むことはできませんでした。陳川は自ら寧朔将軍・陳留郡太守と号しました。

東晋との関係と石勒への降伏

東晋の豫州刺史である祖逖が流民の張平、樊雅らと争っていると、祖逖は陳川に救援を求めました。陳川は将軍の李頭を遣わして祖逖を助け、勝利に導きました。祖逖が樊雅の駿馬を手に入れると、褒美として李頭に与えました。李頭は祖逖の厚遇に感じ入り「もしこの人を主にできれば、何も怨むことはないぞ」と言いましたが、陳川がこれを聞くと怒って李頭を殺害しました。李頭配下の馮寵が400人を引き連れて祖逖に身を寄せると、陳川はさらに怒り、魏碩を遣わして豫州の諸郡を掠奪させ、子女車馬を奪い取りました。祖逖は衛策を遣わして谷水において襲撃を掛け、奪われた人々を取り戻しました。陳川は大いに恐れ、部下を連れて石勒に降伏を申し入れました。石勒は5万の兵をもって陳川の救援に向かいましたが、祖逖は奇兵をもってこれを打ち破りました。そのため、石勒は陳川を連れて襄国へ撤退しました。

その後

この後しばらく、乞活に関する記録は途絶えますが、冉閔・李農の反乱の際に再び記述が見られます。



参考文献

『晋書』巻5 帝紀第5、巻6 帝紀第6、巻37 列伝第7、巻39 列伝第9、巻59 列伝第29、巻62 列伝第32、巻104 載記第4
『資治通鑑』巻85-巻92

もう一度検索