仮説上の天体

この項目では、学術的な仮説として存在が提唱されたものの、後に否定されたり、現在も存在が確認されていない天体について解説します。また、科学的な根拠はないものの、占星術や神秘学などで語られる仮説上の惑星についても触れていきます。

フィクション作品に登場する架空の[天体]]については、[Category:架空の天体を参照してください。

天文学上の仮説

太陽系の惑星

バルカン

バルカンは、水星軌道のさらに内側に惑星が存在するという仮説です。この説は、水星の軌道にわずかなずれがあったことから、ユルバン・ルヴェリエによって提唱されました。彼は、天王星の軌道のずれから海王星の存在を予言したように、水星のずれも内側の惑星で説明できると考えたのです。しかし、後にこのずれはアインシュタインの相対性理論によって説明され、バルカンの存在は否定されました。現在では、バルカンに代わって、小惑星帯「バルカノイド」の存在が提唱されています。バルカンの名前は、ローマ神話の火の神ウゥルカーヌスに由来します。

惑星X

惑星Xは、海王星や冥王星の外側に、さらに惑星が存在するという仮説です。かつては、第9番惑星（超海王星）または第10番惑星（超冥王星）として探索が行われてきました。天王星と海王星の軌道にずれが見られたため、パーシヴァル・ローウェルらは外側に大型の惑星が存在すると考えました。1930年に冥王星が発見されましたが、その後の観測で質量が小さすぎることが判明し、惑星Xの探索は再び振り出しに戻りました。現在では、天王星や海王星の質量推定が修正され、この意味での惑星Xは否定されています。一方で、エッジワース・カイパーベルト外縁の天体軌道を説明するために、新たな惑星X仮説が提唱され、2008年には神戸大学の研究チームがその軌道を理論的に予測しています。

太陽系の衛星

水星の衛星

1974年、マリナー10号が水星フライバイ中に極端な紫外線の放射を観測しました。これは未知の衛星によるものだと考えられましたが、すぐに水星の背後にあった恒星によるものだと判明しました。

金星の衛星

17世紀から19世紀にかけて、金星の衛星がたびたび観測され、「ネイト」と名付けられました。しかし、長年の議論の末、その存在は否定されました。

地球の衛星

1846年、フレデリック・プティが地球の衛星軌道に乗る流星を発見したと主張しましたが、その軌道決定の不確実さから疑問視されました。この衛星は「クラインヒェン」とも呼ばれました。
1898年、ヴァルテマットは月の軌道の揺らぎから、地球の第2の衛星の存在を仮定し、太陽面通過を予言しましたが、その現象は黒点でした。この衛星は「リリス」や「ダークムーン」とも呼ばれました。
1950年代から70年代には、地球と月のトロヤ点に「コーディレフスキー雲」が観測されたとする報告がありましたが、現在ではその実在を疑われています。

火星の衛星

1610年、ケプラーはガリレオのアナグラムを誤読し、ガリレオが火星の衛星を発見したと誤解しました。
1643年、スキルレウスは火星に複数の衛星を発見したと主張しましたが、その信憑性は低いとされています。
1747年、キンダーマンは火星の衛星を発見したと主張しましたが、これも誤りでした。

小惑星の衛星

1978年、小惑星エルクリーナの掩蔽観測で衛星の存在が示唆されましたが、その後の観測で発見されていません。
1979年、テデスコは小惑星パレス、オフィーリア、ニサが巨大な衛星を持つ二重小惑星だと仮説を立てましたが、確認されていません。
1979年から1980年、王思潮らは小惑星メティスの写真に衛星らしきものを発見しましたが、未確認です。小惑星の衛星として初めて確認されたのは、1993年にガリレオ探査機が発見したイダの衛星ダクティルです。

木星の衛星

1643年、スキルレウスは木星に5つの衛星を発見したと主張しましたが、その信憑性は低いとされています。
1975年にコワルらが発見したテミストは、後に見失われ、2000年に再発見されるまで未確認の衛星とされていました。

土星の衛星

1610年、ガリレオは土星の環を衛星と誤認しました。
1861年、ゴルトシュミットが発見したと発表した土星の第9衛星「キロン」は、再観測されませんでした。
1904年、ピッカリングが発見したと発表した土星の第10衛星「テミス」も再観測されず、最終的にヤヌスが第10衛星となりました。

天王星の衛星

1798年、ハーシェルは天王星の4つの衛星を発見したと発表しましたが、後に恒星の誤認であると判明しました。

外縁天体の衛星

2003年、セドナは自転周期が非常に長いことから大型衛星の存在が推測されましたが、後に否定されました。

太陽系外縁天体

セドナの同類

小惑星セドナのような、長大な軌道を持つ未発見の天体が多数存在すると考えられています。これらは「内オールトの雲」、「E-SDO」、「DDO」などと呼ばれています。

オールトの雲

オールトの雲は、長周期彗星の起源と考えられている太陽系を球殻状に取り巻く仮想的な天体群です。2007年現在、オールトの雲に属すると考えられる天体は、長周期彗星と非周期彗星のみです。

テュケー

テュケーは、太陽から約15,000天文単位離れた場所に存在する、木星の4倍ほどの質量を持つとされる仮説上の天体です。長周期彗星の軌道からその存在が予測されましたが、WISEによる観測で否定されています。

伴星ネメシス

ネメシスは、2600万年周期で太陽を回る伴星という仮説です。地球上の大量絶滅は、ネメシスがオールトの雲を乱し、彗星が太陽系に大量に降り注ぐことで発生したとされています。WISEによる観測で否定されています。

仮説上の系外惑星

ピート・ファンデカンプは、バーナード星の惑星の存在を主張していましたが、その後の観測で否定されています。彼の時代には、他にもいくつかの系外惑星の発見が報告されましたが、いずれも誤認でした。

人工的な電波源

地球外知的生命体探査（SETI）は、特徴的な電波を発する天体を探しています。1977年に観測された「Wow! シグナル」は、その可能性があるとされましたが、再観測には成功していません。

グレート・アトラクター

グレート・アトラクターは、銀河系近傍の銀河の動きから、銀河系から2億光年の位置にあると予測される重力源です。直接観測は困難ですが、大規模な銀河団が存在すると考えられています。

太陽系生成論上の仮説

第5惑星

小惑星帯の起源として、火星と木星の間に存在したとされる「第5惑星」が仮定されることがあります。この惑星は、木星の重力によって破壊されたと考えられています。また、後期重爆撃期を説明するためにも、この位置に惑星「Planet V」が存在したとする仮説があります。この惑星は、地球に小天体が衝突する原因になったとされています。

テイア

月の形成を説明するジャイアント・インパクト説で、地球に衝突したとされる天体を「テイア」と呼びます。この天体は、月の形成の原因になったと考えられています。

その他の原始惑星

水星のマントルの薄さは、原始惑星の衝突によるものとする仮説。
火星の北半球と南半球の地形の違いは、原始惑星の衝突によるものとする仮説。
天王星の自転軸の傾きは、原始惑星の衝突によるものとする仮説。
冥王星の衛星カロンは、地球と同じようなジャイアント・インパクトで形成されたとする仮説。

破壊された衛星・彗星

土星の環は、衛星が破壊されたことで形成されたとする仮説。
木星の衛星の「群」は、それぞれかつては一つの大型衛星が破壊されたとする仮説。
彗星の「クロイツ群」は、かつては一つの彗星だったとする仮説。

神秘学・占星術などの仮説

反地球

反地球は、地球と同じ軌道上の、太陽を挟んで反対側に存在するとされる仮説上の惑星です。ピュタゴラス学派によって提唱されましたが、重力的な影響が見られないため、存在は否定されています。

ニビル/氷惑星

ニビルは、小惑星帯や地球にまで迫る極端な楕円軌道を持つとされる仮説上の惑星です。シッチンによって提唱されましたが、科学的根拠は乏しいとされています。氷惑星も同様に地球に迫る軌道を持ち、地球に水をもたらしたとする仮説です。

ラーフとケートゥ

インド占星術では、ラーフとケートゥという二つの惑星が想定されています。これらは、日食や月食を引き起こすと考えられています。ラーフは、黄道と白道の交点のうち、月が南から北へ通過する点にあるとされ、ケートゥはその逆です。

太歳

古代中国の天文暦学では、木星の鏡像となる仮想の惑星「太歳」が設定されていました。

仮説上の天体分類

以下は、特定の天体ではなく、特定のカテゴリに分類される天体が存在する（あるいは存在しうる）という仮説です。

惑星

海洋惑星: 表面が完全に海で覆われた惑星。
砂漠惑星: 表面が完全に砂漠で覆われた惑星。
炭素惑星: 地殻がグラファイトやダイヤモンドでできた惑星。
クトニア惑星: 木星型惑星の外層が剥がれ、核が露出した惑星。
トロヤ惑星: 巨大惑星のラグランジュ点を公転する惑星。
コア無し惑星: 中心部に金属質のコアを持たない岩石惑星。

恒星

種族IIIの恒星: 宇宙で最初に生まれた、金属元素を全く含まない恒星。
ダイソン球: 恒星を覆う人工的な球殻。
ソーン-ジトコフ天体: 赤色巨星や赤色超巨星の核に中性子星が含まれている恒星。
Quasi-star: 中心にブラックホールを含んだ初期宇宙に存在したと予測される恒星。

ブラックホール

ダークエネルギー星: ダークエネルギーを吸い込んでいるブラックホール。
超極限カーブラックホール: 非常に自転が速いカーブラックホール。
マイクロブラックホール: 量子サイズの微小なブラックホール。
原始ブラックホール: ビッグバン直後の宇宙で形成された可能性のあるブラックホール。

コンパクト星など

Qスター: 超対称性粒子などを含む中性子星。
クォーク星: ストレンジレットでできた天体。
黒色矮星: 冷え切った白色矮星。
gravastar: ブラックホールに似るが特異点を持たない天体。
プレオン星: プレオンでできた天体。
ボソン星: ボソンでできた天体。
ホワイトホール: ブラックホールの逆の性質を持つ天体。
* MECO: ブラックホールに似るが非常に強い磁場を持つ天体。

これらの仮説上の天体は、科学的探求や想像力を掻き立てる興味深い存在であり、宇宙に対する理解を深める上で重要な役割を果たしています。

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