医王山

医王山（いおうぜん）

医王山は、石川県金沢市と富山県南砺市にまたがる標高939mの山塊です。白兀山、奥医王山、前医王山などの総称で、最高峰の奥医王山には一等三角点が設置されています。その美しい自然と歴史的背景から、日本三百名山と新・花の百名山に選ばれています。

地形と地質

金沢市街地から医王山を望むと、戸室山の背後に位置するため、全貌を捉えるのは難しいかもしれません。医王山は火山と呼ばれることが多いですが、第四紀火山ではなく、約1500万年前の新第三紀中新世の海底火山活動によって形成された医王山累層が主体です。これは、大門山付近に広がる岩稲累層などと同様に、グリーンタフの一部とされています。

医王山累層は、火砕流、火山灰、溶岩流などで構成されており、夕霧峠には流紋岩溶岩、黒瀑山周辺には黒曜岩や真珠岩の溶岩が見られます。特に多いのは、火山灰や軽石が堆積した流紋岩質凝灰岩で、夕霧峠から石川県側へ下る林道沿いでよく観察できます。医王山累層は場所によっては厚さが1000mを超え、現在の医王山山塊を北限とし、手取扇頂部を経て、福井県との県境付近の丘陵地まで広がっています。この層は日本海側に傾斜しており、金沢市街の下にも広がっていると考えられています。

地質学的には古い火山岩からなる医王山ですが、長年の侵食により、火山地形は失われています。また、医王山ではメノウやソロバン石（オパール）、かつては紫水晶や孔雀石なども産出していました。

自然

医王山の中腹はコナラが主体で、スギの植林も多く見られます。稜線沿いにはブナの純林が広がり、特に奥医王山周辺のブナ群集は規模が大きいです。春にはキクザキイチゲ、ショウジョウバカマ、イワナシ、エンレイソウ、オオイワカガミなどの花々が咲き乱れ、山頂部にはチシマザサが繁茂しています。また、ヒメシャガやササユリといった希少な植物も自生しています。

眺望

医王山の東側からは、八乙女山や牛岳などの山々が連なり、遠くには立山連峰、白馬岳、穂高連峰などの雄大な山々を望むことができます。眼下には、砺波平野の散居村の美しい景観が広がります。
南東から南側にかけては、人形山、大笠山、笈ヶ岳、白山などの山々を見渡すことができます。

歴史

医王山の歴史は古く、719年（養老3年）に泰澄大師によって開山されたと伝えられています。薬草が豊富だったことから、唐の育王山になぞらえて「育王仙」と名付けられました。722年（養老6年）には、元正天皇の大病を泰澄大師が医王山の薬草で治したことから、天皇によって「医王山」と命名され、泰澄は神融法師の称号を授けられたとされています。また、薬師如来（大医王仏）が祀られたことが山名の由来とする説もあります。

中世には、医王山は修験道の霊場として栄え、「医王山四十八坊」と呼ばれる多くの寺院が存在しました。しかし、1481年（文明13年）に浄土真宗の井波瑞泉寺との戦い（田屋川原の戦い）で多くの寺院が焼失し、修験道は一時衰退しました。その後、石動山修験が医王山の修験文化を継承しました。

藩政時代には、医王石（戸室石）の産地として、前田家によって一般人の立ち入りが禁止されていました。近代では、1934年（昭和9年）に室生犀星が小説『医王山』を発表し、1947年（昭和22年）には国民体育大会の登山競技が開催されました。1975年（昭和50年）には富山県立自然公園に、1996年（平成8年）には石川県立自然公園に指定されています。また、1995年（平成7年）には田中澄江が『新・花の百名山』でこの山とベニバナイチヤクソウなどの植物を紹介しました。

登山

医王山は、国民体育大会で初めて登山競技が行われた山としても知られています。山頂付近には、鳶の頭に似た流紋岩の岩場「鳶岩」がありますが、最大斜度40度の鎖場があるため、雨天時の登山は避けるべきです。各方面から登山道が整備されており、初心者から上級者まで楽しめます。

登山道

石川県側からは、二俣道、見上道、白兀道、小原道、栃尾道、ナカオ新道など、富山県側からは祖谷道、横谷道などの登山道が整備されています。

山小屋

白兀平ヒュッテ（夕霧峠の無人小屋）と国見ヒュッテ（国見平）があります。

地理

医王山には、夕霧峠（菱広峠）、見上峠、横谷峠、地蔵峠などの峠があります。

河川

医王山を源流とする河川は、日本海へと流れています。石川県側では浅野川、森下川（医王ダム）、豊吉川（森下川の支流）など、富山県側では小矢部川の支流である明神川、糸谷川、太谷川などがあります。

施設

医王山周辺には、医王山スキー場、医王山スポーツセンター、銀河の里キゴ山、金沢市キゴ山ふれあい研修センター、医王の里オートキャンプ場、医王山ビジターセンター、金沢市立医王山小中学校などの施設があります。富山県側には、イオックス・アローザ、国見ヒュッテ、三千坊展望台、医王権現堂、南砺市福光里山体育館、南砺市クレー射撃場などがあります。

その他

奥医王山の山頂には、「939-16記念事業 福光 標高939.16 郵便番号939-16 設置日1993.9.16」と書かれた記念碑があります。これは、奥医王山の一等三角点の標高がかつて939.16mであり、富山県側の麓の町である福光町の郵便番号（郵便区番号）が939-16だったことを記念したものです。

兼六園の夕顔亭には、竹根石と呼ばれる熱帯性ヤシの一種であるマエダヤシの珪化木が置かれています。この珪化木は、医王山層で稀に見られるもので、この層が形成された約2000万年前の石川県周辺が熱帯環境であったことを示唆しています。

医王山は、豊かな自然と歴史に彩られた、登山や観光に最適な場所です。ぜひ一度訪れて、その魅力を体感してみてください。

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