四辻善成

四辻善成：皇族から大臣へ、そして歌人・学者として

四辻善成(よつつじ よしなり)は、南北朝時代から室町時代前期にかけて活躍した、稀代の公家、学者、そして歌人です。順徳天皇の曾孫にあたる彼は、皇族としての血筋を持ちながらも、波乱に満ちた生涯を送ることになります。

華麗なる出世の階段

摂関家、二条良基の養子となった善成は、康永2年(1343年)、異例ともいえる速さで従四位下に叙任され、左近衛少将に任じられます。これは、三世王でありながら、王族として近衛少将に任官されたという、特例中の特例と言えるでしょう。その後も彼の昇進はめざましく、文和5年(1356年)には従三位に叙せられ、源朝臣姓を与えられて臣籍降下します。臣籍降下後も皇族に準ずる待遇を受け、「四辻宮」と称されました。

延文年間(1358-1361年)には正三位、左近衛中将へと昇進。さらに康安元年(1361年)には従二位、貞治2年(1363年)には正二位と、順調に出世の階段を駆け上がります。貞治6年(1367年)には、参議を飛ばして権中納言に任じられるなど、まさに摂関家の子弟に匹敵するほどの速さで出世を遂げました。応安3年(1370年)には権大納言に昇進しますが、翌年にはこれを辞任します。

足利義満の台頭後も、善成の昇進は止まりません。永徳元年(1381年)には従一位、嘉慶元年(1387年)には准大臣に叙任され、応永元年(1394年)には内大臣に任じられます。しかし、わずか半年後には内大臣を辞任。そして応永2年(1395年)7月には左大臣に昇進しますが、これもわずか1ヶ月で辞任し、8月29日に出家しました。最終官位は前左大臣従一位、法名は常勝です。出家を決意した善成は親王宣下を望んだものの、斯波義将の反対により果たせなかったと伝えられています。出家後は嵯峨で余生を過ごしました。応永9年(1402年)9月3日、77歳でこの世を去りました。

歌人・古典学者としての顔

善成は、公家としての華々しい経歴だけでなく、歌人、古典学者としても知られています。若い頃は、河内流の源氏学者であり、二条派歌人であった丹波忠守に師事し、その薫陶を受けていました。大臣や将軍だけでなく、地方の国人にも古典を講じ、広く人望を集めたと伝えられています。

特に有名な業績として、『源氏物語』注釈書である『河海抄』があります。正六位上物語博士源惟良の筆名で、貞治年間に足利義詮に献上されました。『河海抄』は、『源氏物語』の古注を集大成した、最初の本格的な注釈書であり、後世の注釈書にも大きな影響を与えています。また、『河海抄』で注を省略した秘説を集めた『珊瑚秘抄』も著しています。さらに、勅撰歌人として、『風雅和歌集』以降の勅撰和歌集に15首もの歌が採録されています。

系譜と断絶

善成には、僧籍にあった松蔭常宗という息子が一人いましたが、彼の応永14年(1407年)の死によって、四辻宮の系統は途絶えました。一方、彼の姉の智泉聖通は、石清水八幡宮の祀官であった紀通清の妻となり、その娘の良子は足利義詮の側室となり、足利義満を生んだという興味深い系譜も残っています。

まとめ

四辻善成は、皇族出身でありながら、臣籍降下し、華麗な経歴を歩んだ公家でした。同時に、優れた歌人、古典学者としての顔も持ち合わせていた、まさに多才な人物と言えるでしょう。彼の功績は、『河海抄』を始めとする古典研究に留まらず、足利義満をはじめとする当時の権力者との関わりにも見ることができます。その生涯は、激動の時代を生き抜いた一人の稀代の天才の物語として、後世に語り継がれるべきでしょう。

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