多々良浜の戦い (戦国時代)

多々良浜の戦い：戦国時代の九州を揺るがした戦い

多々良浜の戦い（たたらはまのたたかい）は、1569年（永禄12年）5月、戦国時代の九州において、大友宗麟と毛利元就の間で繰り広げられた戦いです。この戦いは、筑前の要衝である立花山城の支配権を巡るものでしたが、実際の戦場は多々良浜よりやや東の多々良川両岸に位置していました。そのため、「多々良川の戦い」とも呼ばれることがあります。

戦いの背景

1550年代から、大友氏と毛利氏は、豊前と筑前の二国を巡って度々衝突を繰り返していました。一度は室町幕府13代将軍・足利義輝の仲介により和睦が成立しましたが、1567年（永禄10年）1月、秋月種実が毛利元就の支援を得て旧領回復のために兵を挙げたことで、再び戦乱の時代へと突入しました。

大友宗麟は、挙兵した秋月種実と、これに呼応した重臣の高橋鑑種を討伐するため、戸次鑑連（後の立花道雪）、臼杵鑑速、吉弘鑑理の三家老に兵を与えて出陣させました。しかし、休松の戦いにおいて秋月勢の奇襲を受け、大友軍は敗北を喫してしまいます。この敗北により、筑前、筑後国衆の間に動揺が広がり、特に1568年（永禄11年）1月には、筑前の重要拠点である立花山城の城主、立花鑑載が反旗を翻したことで、大友勢は劣勢に立たされました。

毛利元就は、この好機を捉え、援軍を送ることで大友勢を筑前、豊前から駆逐しようとしました。これに対抗するため、大友勢は、戸次鑑連ら三家老が立花山城へ攻め寄せました。三ヶ月に及ぶ攻城戦の末、内応者が出たことで立花山城は陥落し、立花鑑載は自害しました。しかし、毛利元就も、次男の吉川元春、三男の小早川隆景、重臣の宍戸隆家らを派遣し、肥前の龍造寺隆信とも連携して大友氏への圧力を強めました。1569年（永禄12年）4月には、再び立花山城を奪還しました。

一方、大友宗麟は、反旗を翻した筑前国衆の秋月氏を攻め、動揺を鎮めようとしましたが、その間に立花山城は再び毛利氏の手に落ちてしまいました。

大友勢は、立花山城を失いつつも筑前国衆の動揺を抑え、立花山城を再奪還するために、立花山城へと迫ります。一方、吉川元春ら毛利勢も城から打って出て、立花山城の南の多々良川付近で両軍が対峙することになりました。

戦いの経過

多々良川付近で対峙した両軍でしたが、毛利軍は立花山城の防衛を重視しており、積極的な出撃は考えていませんでした。一方の大友軍も、立花山城の攻略前に無駄な消耗を避けたいと考えており、決戦をためらっていました。当時の多々良川付近は、干潟が広がっており、大友軍にとっては攻めにくい地形、毛利軍にとっては守りやすい地形であったことも、決戦回避の要因となりました。こうして、両軍は多々良川から多々良浜にかけての川沿いで対陣を続けることになりました。

その結果、多々良浜の戦いは長期間に及び、18回もの合戦が繰り広げられましたが、大きな決戦は行われませんでした。その中で最も激しかったのは、1569年（永禄12年）5月18日の戦いです。この戦いは、大友軍が多々良川の防衛線を突破しようと、川上にある長尾を攻略しようとしたことがきっかけで起こりました。長尾を守っていたのは小早川隆景でしたが、大友勢は戸次鑑連の奮戦により小早川勢を駆逐し、長尾を奪取することに成功しました。

この戦いで、多々良川の防衛線の一部が崩れたことで、毛利勢は立花山城との連絡が断たれる可能性が出てきました。そのため、毛利軍は立花山城へと撤退しました。しかし、大友軍も多くの損害を被っており、また立花山城が堅城であるため、攻城戦もできず、再び両軍は手詰まりとなって対陣を続けることになりました。

膠着状態が続く中、大友宗麟は吉岡長増の献策を受け入れ、周防の旧領主である大内輝弘に兵を与えて周防に送り込み、旧領回復の兵を挙げさせました。1569年（永禄12年）8月、大内輝弘が周防で挙兵したことで、毛利氏の拠点である高嶺城が脅かされる事態となりました（大内輝弘の乱）。

同じ頃、尼子氏の旧臣である山中幸盛、立原久綱らが尼子勝久を擁立して隠岐で挙兵し、出雲の新山城に入り、出雲の諸城を攻略する事件も発生しました（尼子再興軍の雲州侵攻）。これにより、毛利氏の出雲の拠点である月山富田城も脅かされるなど、毛利氏の領国支配体制が危機に晒されることになったのです。

この危機を脱するため、毛利元就は、筑前方面に展開していた吉川元春、小早川隆景ら毛利軍の主力を呼び戻すことを決定しました。毛利軍は、立花山城に乃美宗勝らわずかな兵を残したまま、宗像氏の支援を得て北九州から撤退し、多々良浜の戦いは大友氏の勝利に終わりました。翌年、立花山城は開城し、守備兵も約定により本州へ撤退しました。

戦後の影響

大友氏による筑前支配体制の確立

戦後、大友宗麟は苦戦の原因として、立花山城主の立花鑑載、宝満城とその支城の岩屋城を領する高橋鑑種といった、筑前の重要拠点を預かっていた両氏が反旗を翻したことであると判断しました。そこで、宗麟は、自身の腹心を送り込むことにしました。具体的には、立花鑑載の立花氏の名跡を家老の戸次鑑連に継承させ、高橋鑑種の家督を奪い毛利氏へ追放し、高橋氏の名跡を同じく家老の吉弘鑑理の次男鎮理に継承させました。これにより、戸次鑑連は立花道雪、吉弘鎮理は高橋鎮種（後に剃髪して紹運と号す）と名を改め、筑前の軍権を立花道雪が握るようになりました。これにより、大友氏の筑前支配は磐石なものとなったのです。

毛利氏の外交転換と大友氏の北九州支配

毛利氏は、1571年（元亀2年）に当主の元就が死去し、後を継いだ毛利輝元は、外交戦略を、それまでの織田信長との友好を保つ方針から、足利義昭が主導した信長包囲網に加わる方針に転換しました。このため、毛利氏は、北九州で失った拠点を奪還する兵を挙げることはなくなり、1550年代から10年以上に渡って続いた大友氏と毛利氏の筑前・豊前における覇権争いは、大友氏の勝利に終わりました。

この支配体制は、立花道雪が病死した1585年（天正13年）以降も、高橋紹運と、紹運の子で道雪の養子である立花宗茂の2人に継承されました。島津氏が筑前に攻め寄せた際にも、高橋紹運が岩屋城に、紹運の次男の高橋統増が宝満城に、立花宗茂が立花山城に拠って抗戦しています。この戦いで高橋統増は筑紫氏の家臣団の裏切りにより捕虜となってしまいましたが、高橋紹運は岩屋城の戦いで玉砕するまで戦い抜き、立花宗茂は立花山城に拠って島津勢を相手に奮戦するなど、大友氏の衰退期にあっても、この宗麟の築いた支配体制は機能していたのです。

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