対馬国分寺

対馬国分寺は、長崎県対馬市厳原町天道茂に位置する曹洞宗の寺院です。山号を天徳山と称し、本尊には釈迦如来を祀っています。この寺院は、奈良時代に聖武天皇の詔によって日本各地に建立された国分寺のうち、対馬島に置かれた国分僧寺の後継としてその歴史を刻んでいます。

概要

対馬国分寺は、対馬の南部に位置する厳原にあります。聖武天皇の詔によって創建された国分寺の法灯を受け継ぎ、再興された寺院です。対馬における国分寺の成立は他の地域に比べて遅く、多くの史料では「島分寺（とうぶんじ、嶋分寺）」と記されています。古代における変遷は詳しく分かっていませんが、文明年間（1469-1487年）に「国分寺」として再興されて以来、宗氏からの崇敬を受けてきました。寛文5年（1665年）には金石城の拡張に伴い日吉へ移転、さらに天和3年（1683年）には現在の天道茂の地に移されました。特に江戸時代には朝鮮通信使の客館としての役割を果たし、現存する山門は、そのために建立されたものです。

古代の島分寺や中世の国分寺の正確な所在地は不明ですが、中世の国分寺については、金石城の近くにある清水ヶ丘グラウンド付近であるという説が有力です。また、島分尼寺の存在についても詳しいことは分かっていませんが、島分寺の西方200メートルの場所に存在したという説もあります。

歴史

創建

創建の時期ははっきりしていません。国分寺建立の詔が天平13年（741年）に出されましたが、天平17年（745年）に国分僧尼両寺の費用を正税の利息で賄うと定められた際、対馬は対象外とされました。また、天平勝宝7歳（755年）に対馬など西海道5国の講師（国分寺の僧官名）が停止され、翌年の天平勝宝8歳（756年）に26カ国の国分寺に灌頂幡が頒下された際も、これらの5国は対象外でした。このことから、当時は寺院がまだ確立していなかったか、未成立であったと考えられています。寺院の成立が確実となるのは、斉衡2年（855年）まで下ります。

なお、『対州編年略』や『津島紀事』では、対馬島分寺の創建を天平9年（737年）としており、『対馬島誌』では天平13年（741年）としています。

古代

確実な史料として確認できるのは、斉衡2年（855年）のことです。この年に停止されていた講師が復活したことから、この年までに寺院が成立していたと見られます。しかし、天安元年（857年）には上県郡と下県郡の郡司が対馬守の立野正岑を襲撃する事件が起こり、島分寺も焼失したとされています。

その後、貞観7年（865年）には対馬島分寺の料用として三綱供の三宝布施大豆100石の利息を充てることが定められ、貞観17年（875年）には対馬島分寺料の幡16旒が作られました。これにより、寺院の法灯が続いていたことが分かります。また、寛平6年（894年）には新羅から賊船45艘が来襲しましたが、その際、島分寺の上座僧である面均が押領使として活躍しました。

中世

南北朝時代には、宗宗慶が「こくふんし」について指示を出した書状があり、国分寺が存在していたことが確認できます。

文明年間（1469-1487年）には、宗貞国（通称国分寺殿）の弟である熊松（甫庵崇睦）によって、島分寺跡の西側の山際に「国分寺」として再建されました。「国分寺」という名称は、15世紀後半頃から対馬が「対馬島」から「対馬国」と呼ばれるようになったことによるものと考えられています。再建された場所については、清水ヶ丘グラウンド付近（北緯34度12分16.46秒東経129度17分9.63秒）が有力視されており、発掘調査では再建当時のものと推測される布目瓦の包含層も発見されています。

『朝鮮王朝実録』によると、成宗7年（1476年）に「国分寺住持」の崇睦が弟子の崇堪を対馬島宣慰使として派遣しています。また、崇睦は成宗7年から11年（1476-1480年）にかけて朝鮮に遣使した記録があり、「国分禅寺住持」の崇統も成宗16年から20年（1485-1489年）に遣使したとされています。

享禄元年（1528年）には、島分寺跡の南側に宗氏の館として金石城の築城が開始されました。この頃の古文書には、文明14年（1482年）、文明16年（1484年）、延徳元年（1489年）、天正元年（1573年）、天正13年（1585年）などに国分寺に関する記述が見られます。

近世

寛文5年（1665年）には、金石城の拡張に伴い、国分寺は日吉（現在の以酊庵跡）に移転しました。天和2年（1682年）には朝鮮通信使の客館としても利用されましたが、日吉の地が手狭であったため、天和3年（1683年）に以酊庵と寺地を交換し、現在の天道茂に移転しました。その後も、正徳元年（1711年）、享保4年（1719年）、寛延元年（1748年）、明和元年（1764年）、文化8年（1811年）の朝鮮通信使来島時には、国分寺が客館として利用されました。

享保17年（1732年）には府中大火によって堂宇が焼失しましたが、その後再建されました。また、寛保2年（1742年）には山号を「福利山」から「天徳山」に改称しました。文化4年（1807年）には、幕府からの下賜金で本殿（客館）の改築と八脚門（現在の山門）の新築が行われました。文化8年（1811年）に作成された『接鮮旅館図』には、当時の境内が描かれています。

近世には、本寺を大寧寺（山口県長門市）とし、末寺として島内に131寺があったとされています。『伊能忠敬測量日記』には、国分寺領が200石と記されています。

近代以降

明治時代に入り、境内が広大であったため一部が解体されました。明治5年（1872年）には、末寺の暢願寺、三光寺、善慶庵、立亀庵、多福庵、泊船庵、唯心軒、掬水軒が合併されました。

大正13年（1924年）には、文化4年に建立された本堂が焼失しました。

文化財

対馬市指定文化財

有形文化財
国分寺の山門（建造物） - 江戸時代、文化4年（1807年）に建立。1992年（平成4年）10月1日指定。
国分寺の木造薬師仏（彫刻）

現地情報

所在地
島分寺跡（国分寺跡）推定地：長崎県対馬市厳原町今屋敷
現国分寺：長崎県対馬市厳原町天道茂
交通アクセス（現国分寺まで）
厳原港から徒歩約15分

脚注

原典

出典

参考文献

国分寺の山門説明板
地方自治体発行
『金石城 -長崎県下県郡厳原町所在-（厳原町文化財調査報告書第1集）』厳原町教育委員会、1985年。http://sitereports.nabunken.go.jp/15756。- リンクは奈良文化財研究所「全国遺跡報告総覧」。
『金石城（厳原町文化財調査報告書第3集）』長崎県厳原町教育委員会、1994年。http://sitereports.nabunken.go.jp/15757。- リンクは奈良文化財研究所「全国遺跡報告総覧」。
『日本歴史地名大系 43 長崎県の地名』平凡社、2001年。ISBN 4582490433。
「国分寺」、「対馬島分寺跡・対馬国分寺跡」。
* 中世諸国一宮制研究会編編『中世諸国一宮制の基礎的研究』岩田書院、2000年。ISBN 978-4872941708。

外部リンク

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