岡村輝彦

岡村輝彦：明治期を彩った法律家の生涯

岡村輝彦（おかむら てるひこ）は、明治時代に日本の司法界で重要な役割を果たした人物です。判事、弁護士として活躍し、東京弁護士会会長、中央大学学長も務めました。彼の生涯は、激動の時代における法律家の姿を鮮やかに映し出しています。

生い立ちと上京

岡村輝彦は、安政元年（1854年）に浜松藩士の家に生まれました。幼少期は、祖父や父の影響で漢学だけでなく海外事情にも触れる機会が多く、西洋の知識に早くから関心を持つようになりました。

明治維新後、一家で上京。箕作秋坪に外国語を学び、その後、鶴舞藩の貢進生として大学南校（後の東京大学）に入学し、開成学校で法律を学びました。学生時代からナポレオンを尊敬し、北海道開拓を論じるなど、その個性的な一面から「岡村ナポレオン」「岡村北海」という渾名で呼ばれていました。

イギリス留学と法曹資格取得

1876年（明治9年）、文部省の留学生としてイギリスに渡り、ミドル・テンプルで法学を学びました。当初は鷹揚な性格だったものの、留学中に勤勉な性格に変わり、試験勉強に没頭するあまり神経衰弱になることもありました。露土戦争中はオスマン帝国を支持し、フェズ帽を被ってロンドンを闊歩したという逸話も残っています。

1880年（明治13年）には法曹院試験に合格し、バリスター（法廷弁護士）の資格を取得。巡回裁判所や海事裁判所にも参加し、実務経験を積みました。

判事としての活躍

1881年（明治14年）に帰国後、司法省に入省し、東京控訴院判事に就任。その後、大審院（現在の最高裁判所）に移り、刑事局に配属されました。大審院では、長野県での境界争論に関わり、現地で実検を行うなど、精力的に職務を遂行しました。

また、英吉利法律学校（後の中央大学）の設立にも名を連ね、証拠法を教えるなど、後進の育成にも力を注ぎました。横浜始審裁判所長時代には、イギリスの制度に倣い、代言人（現在の弁護士）の地位向上に努めました。

弁護士としての転身と千島艦事件

1891年（明治24年）に裁判所を辞職し、弁護士として活動を開始。京橋区南鍋町に加え、横浜にも事務所を設け、外国人からの依頼も多く受けました。

1892年（明治25年）には、千島艦事件が発生。イギリスで海商法を学び、政府顧問ウィリアム・カークウッドとも親交があった岡村が、この事件の弁護を担当することになりました。横浜英国領事裁判所、上海英国高等領事裁判所での敗訴を経て、ロンドン枢密院での勝訴を勝ち取り、その手腕を高く評価されました。

その後と晩年

1908年（明治41年）には、東京弁護士会会長に選出。1913年（大正2年）には中央大学学長に就任しましたが、病のためすぐに辞任しました。晩年は、肺気腫性喘息に苦しみ、弁護士業を引退。療養生活を送りました。

1916年（大正5年）2月1日、胃潰瘍を併発し、千駄ヶ谷町の自宅で息を引き取りました。享年62歳。その功績を称え、戒名は大哲院殿高歩自在大居士とされました。

家族

岡村輝彦は、二度の結婚を経験し、多くの子女をもうけました。特に、五男の於菟彦は海軍士官として活躍し、孫の昭彦、春彦もそれぞれ活躍しました。また、長女の絹子は林春雄に、次女の幸子は緒方知三郎に嫁ぎました。

まとめ

岡村輝彦は、明治という激動の時代において、法律家としてだけでなく、教育者、国際的な弁護士としても多岐にわたる活躍を見せました。その生涯は、日本の法曹界の発展に大きく貢献しただけでなく、多くの人々に影響を与えたと言えるでしょう。

参考文献

荻原善太郎『日本博士全伝』岡保三郎、1888年。
荻原善太郎『帝国博士全伝』敬業社、1890年。
日下南山子『日本弁護士高評伝』誠協堂、1891年。
内尾直二『人事興信録』（3版）人事興信所、1911年。
内尾直二『人事興信録』（4版）人事興信所、1915年。
井関九郎『大日本博士録』 1巻、発展社出版部、1926年。
穂積陳重「嗚呼岡村輝彦君」『穂積陳重遺文集』 4巻、岩波書店、1934年。
原嘉道「岡村博士と千島艦事件」『弁護士生活の回顧』法律新報社、1935年。
岡村龍彦『岡村父祖事跡』岡村龍彦、1943年。
川島仟司、高野金重『中央大学二十年史』法学新報社。
“岡村輝彦氏の辞退”. 東京朝日新聞. (1892年1月9日)
“転居”. 東京朝日新聞. (1910年6月1日)
“岡村輝彦博士逝く”. 東京朝日新聞. (1916年2月2日)
“朝のビル街・飛降り自殺 故岡村博士の息三菱商事社員 “円タクに轢かれた”と謎の言葉”. 毎日新聞. (1935年8月18日)

もう一度検索