島田忠臣

島田忠臣：平安初期を彩った文人貴族

島田忠臣（しまだ の ただおみ）は、平安時代前期に活躍した貴族であり、同時に優れた漢詩人としても知られています。伊賀守・島田清田を祖父に持ち、官位は正五位下・伊勢介にまで昇りました。また、号を田達音（でんたつおん）と称しました。彼は、菅原道真の師であり、道真の才能を早くから見抜き、その後の活躍を支えた人物としても重要です。さらに、娘の宣来子を道真の正室としたことで、二人の関係はより深いものとなりました。

出自と学問の道

忠臣の父母については詳しい記録が残っていませんが、祖父の島田清田は、尾張国の地方豪族出身でありながら、大学寮で学び、学者・官僚として頭角を現し、朝臣の姓を賜った人物です。清田は『日本後紀』の編纂にも携わるなど、立志伝中の人物でした。

忠臣は、文章博士である菅原是善に師事し、学問の道を歩みます。嘉祥2年（849年）頃には省試に合格し、文章生となりました。是善は忠臣の才能を高く評価し、特にその漢詩の才能を愛したと言われています。その後、是善の願いによって、忠臣は嫡男・菅原道真の教育係を務めることになります。『菅家文草』には、道真が11歳の時に忠臣から漢詩を学び、初めて漢詩を作ったと記されています。

官僚としての活躍

忠臣は学問の才能だけでなく、官僚としてもその能力を発揮しました。初めは従七位下・越前権少掾に任ぜられ、天安3年（859年）には、越前国に漂着した渤海使の接客使を務めました。この際、属文に優れていたことから、副使の周元伯と漢詩の唱和を命じられるなど、外交の場でも活躍しました。接客使としては身分が低かったため、臨時に加賀権掾に任ぜられています。貞観2年（860年）頃からは藤原基経の近習となり、基経との間には主従関係を超えた親密な交流があったことが、彼らの間で交わされた漢詩のやり取りや、忠臣の弟の死を悼む基経の姿からうかがえます。さらに、忠臣の大伯母が藤原冬嗣の室となり藤原良仁を儲けたこと、藤原良相の開府に招かれて漢詩を賦したことなど、藤原北家との繋がりも深く、政界でも重要な役割を担っていたと考えられます。

その後、少外記を経て、貞観11年（869年）には従五位下・因幡権介に叙任されます。さらに貞観15年（873年）頃には大宰少弐に任ぜられるなど、清和朝後半から陽成朝初頭にかけて、地方官を歴任しました。元慶2年（878年）には帰京し、新羅の虜船が日本に向かおうとしているという橿日宮の託宣を上奏しています。

元慶3年（879年）には従五位上に昇叙し、散位を経て元慶5年（881年）に兵部少輔に任ぜられました。元慶7年（883年）には美濃介として再び地方官に転じますが、既に健康状態は優れなかったようです。しかし、任地に赴き、右大臣・源多から馬を与えられています。同年に渤海からの使者が来日した際には、式部少輔として応対していた道真の推挙で、急遽平安京に呼び戻され、玄蕃頭として応対にあたっています。この際、渤海大使・裴頲との間で漢詩の唱和も行われました。

仁和3年春に任期を終えて帰京し、仁和5年（889年）には典薬頭に任ぜられました。その後も公式の場で詩賦を続けましたが、寛平4年（892年）の七夕宴での詩賦を最後に、公の場に出席することはなくなり、同年8月頃に亡くなったと考えられています。享年は65歳。最終官位は正五位下典薬頭兼伊勢介です。

忠臣は、京都市上京区にある北野天満宮の末社である老松社に主祭神として祀られています。

交友関係と文学的評価

忠臣は、門人であり後に娘婿となる菅原道真との交友関係が特に深く、生涯にわたり手紙による交流が続けられました。その内容は詩のみならず、「阿衡事件」などの政治問題にまで及びました。また、藤原基経も忠臣の漢詩を愛し、元慶5年（881年）には藤原敏行に命じて忠臣の漢詩500首を屏風に仕立て、自宅に飾ったと言われています。忠臣が病没した際には、道真は「今後再びあのように詩人の実を備えた人物は現れまい」と嘆き、紀長谷雄も「当代の詩匠」と評してその死を惜しんだと伝えられています。

忠臣の詩は、当初『田達音集』10巻に収められていましたが、ほとんどが散逸し、後に弟の良臣らの詩と併せて『田氏全集』全3巻にまとめられました。その詩風は、中国六朝時代の詩人や唐代の白居易の影響を受けつつ、平明で率直な感情を表現したものが多く、現代においても高く評価されています。

官歴

嘉祥2年（849年）頃：文章生
時期不詳：従七位下、越前権少掾
天安3年（859年）3月13日：仮加賀権掾（渤海使応接）
貞観8年（866年）2月13日：少外記
貞観11年（869年）1月7日：従五位下、少外記如元。2月16日：因幡権介
貞観15年（873年）頃：大宰少弐
元慶2年（878年）12月11日：見大宰少弐。この年大宰少弐任期満了
元慶3年（879年）11月25日：従五位上
元慶5年（881年）日付不詳：兵部少輔
元慶7年（883年）春：美濃介。4月21日：仮兼玄蕃頭（渤海使応接）
仁和5年（889年）2月：典薬頭
時期不詳：正五位下
寛平3年（891年）頃：伊勢介
寛平4年（892年）8月頃：卒去（正五位下典薬頭兼伊勢介）

系譜

父：不詳
母：不詳
生母不明の子女
男子：島田仲平（852?-?）
男子：島田仲方（853?-?）
長女：島田宣来子（850-?） - 菅原道真室

参考文献

金原理「嶋田忠臣伝考」『語文研究』第20巻、九州大学国語国文学会、1965年6月、25-40頁
金原理, 平安文学研究会「嶋田氏の系譜」『平安文学研究』第45号、平安文学研究会、1970年11月、4-13頁
蔵中スミ「嶋田忠臣年譜覚之書」『帝塚山学院短期大学研究年報』21号、1973年
中尾正己「平安文人の仏教信仰 -島田忠臣の場合-」『印度學佛教學研究』第35巻第1号、日本印度学仏教学会、1986年、164-167頁

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