嵆紹

嵆紹（けいしょう）

嵆紹（253年 - 304年）は、西晋時代の政治家。竹林の七賢の一人である嵆康の息子として生まれ、その忠義心で名を残しました。

生涯

若き日

嵆紹は、魏の重臣であった嵆康の息子として生まれました。263年、父が讒言によって処刑されると、10歳という若さで謹慎生活を送ることになります。しかし、彼は母に孝行を尽くし、その行いは評判となりました。

274年、吏部尚書の山濤は、かつて嵆康から嵆紹のことを託されていたことから、武帝に上表し、嵆紹の罪を許して秘書郎に取り立てるよう訴えました。武帝はこれを受け入れ、嵆紹を秘書丞に任じました。当初、嵆紹は辞退しようとしましたが、山濤の説得によりこれを受け入れ、仕官することになりました。

その後、汝陰郡太守、豫章郡内史と昇進しましたが、母の死により辞職。服喪期間後、徐州刺史に任じられます。当時の都督であった石崇は驕慢な性格でしたが、嵆紹は道理をもって彼を諭し、石崇から深く敬われました。しかし、長男の死により職を辞しています。

内乱の時代

291年、復職して給事黄門侍郎に任じられます。当時、恵帝の外戚である賈謐が権勢を振るっていましたが、嵆紹は彼に媚び諂うことを拒否しました。

300年、趙王司馬倫が政変を起こし、賈氏一派を誅殺すると、嵆紹は賈氏に与していなかったため難を逃れました。司馬倫政権下では弋陽子爵に封じられ、散騎常侍、国子博士を兼務しました。

301年、司馬倫が恵帝を廃位して帝位を簒奪すると、嵆紹は侍中に任じられます。しかし、司馬倫が王輿らに誅殺され恵帝が復位すると、引き続き侍中を務めました。

司馬倫の死後、斉王司馬冏が朝権を掌握しますが、その奢侈な生活は民衆の失望を招きました。302年、嵆紹は司馬倫の二の舞にならないよう恵帝を戒め、司馬冏にも諫言しましたが、彼は改めることはありませんでした。

同年、嵆紹は朝廷での職を免じられ、司馬冏の大司馬府に招かれ左司馬に任じられます。しかし、その10日後には長沙王司馬乂が政変を起こし、司馬冏を誅殺。異変を察知した嵆紹は宮殿へ向かいますが、弩兵に射掛けられそうになったところを蕭隆に救われました。政変後、滎陽の旧宅へと帰還します。

303年、御史中丞として招聘を受けますが辞退し、再び侍中に復職。同年、河間王司馬顒・成都王司馬穎が司馬乂討伐を掲げて挙兵すると、司馬乂は嵆紹を使持節・平西将軍に任じました。

304年、司馬乂軍は連戦連勝でしたが、東海王司馬越の裏切りにより洛陽は陥落。司馬乂が処刑されると、嵆紹も捕縛されますが、侍中に復帰。その後、司馬穎が朝廷を掌握し、嵆紹は司馬穎に謝罪することを強いられ、庶人に落とされました。

忠義に殉じる

304年、司馬越が司馬穎に反旗を翻すと、嵆紹は再び召喚され、以前の爵位に戻されました。司馬越が恵帝を伴い司馬穎の本拠地である鄴へ侵攻を開始すると、嵆紹は皇帝に付き従うことを決意します。秦準から身の危険を案じられ逃亡を勧められますが、「皇輿に危機が訪れようとも、臣は忠節を果たすのみ」と答えました。

皇帝軍は蕩陰で司馬穎配下の石超に奇襲され大敗。百官や侍御が逃げ惑う中、嵆紹は礼服姿で恵帝を庇い、司馬穎の兵に殺害されました。恵帝は「忠臣である。殺してはならん！」と叫びましたが、兵士たちは聞き入れませんでした。嵆紹の血飛沫は恵帝の服に飛び散り、恵帝はその死を深く悲しんだといいます。

恵帝が鄴に連行された後、側近が血の付いた服を洗おうとしましたが、恵帝は「これは嵆侍中（嵆紹）の血である。拭き取ってはならん！」と拒否しました。

死後

恵帝が長安に連れ去られた後、司馬顒は嵆紹の忠節を評価し、司空を追贈しようとしましたが、司馬顒が敗れたため実現しませんでした。

308年、司馬越は嵆紹の墓に立ち寄り慟哭し、石碑を立て、改めて官爵を追贈するよう上表しました。恵帝は勅使を派遣し、侍中・光禄大夫を追贈、金章紫綬を加え、侯に進爵させました。

313年、司馬睿は嵆紹の忠節を称え、太尉を追贈するよう上表。318年、司馬睿が東晋を興すと、嵆紹は忠穆と諡され、太牢の祠が加えられました。

人物・評価

嵆紹は心が広く慎み深く、全ての事において雑になる事がありませんでした。また、従兄弟の子を養育し、自分の子と同じように慈しみ育てました。

嵆紹の死後、弟子や部下たちは彼の遺徳を慕い、喪に服して墓に仕える者が多くいました。

嵆紹の事績は後世にも語り継がれ、謝霊運の辞世の詩や文天祥の『正気の歌』などに取り上げられています。

逸話

嵆紹が洛陽に入った頃、ある人が王戎に「嵆紹はまるで野鶴が鶏の群れの中にいるようだ」と評しました。
裴頠は嵆紹の才能を高く評価し、「嵆紹に吏部尚書を任せれば、天下に遺才はいなくなるだろう」と語っていました。
* 司馬冏が宴会を開いた際、董艾が嵆紹に楽器の演奏を勧めましたが、嵆紹はこれを拒否し、奢侈な政治を批判しました。

後継者

嵆紹の長男である嵆眕は早世したため、従孫の嵆翰が後を継ぎました。嵆翰の孫である嵆曠は東晋の孝武帝に仕えました。

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