慕容仁

慕容仁：前燕を揺るがした反逆者

慕容仁（ぼよう じん、生年不詳 - 336年）は、五[[胡十六国時代]]の前燕に生きた人物です。字は元愷、小字は千年。彼は、後の前燕の初代君主となる慕容皝の同母弟でした。

生涯

慕容廆の時代

慕容仁は、慕容部の大人（たいじん）であった慕容廆（ばい）と、段部の単于（ぜんう）の娘である段氏の間に生まれました。

319年、父の慕容廆が遼東の覇権を争っていた西晋の平州刺史、崔毖（さいひ）を破り、その勢力を一掃すると、慕容仁は父から征虜将軍に任じられ、遼東の鎮守を命じられました。慕容仁は、官府や村落に干渉せず、民衆の生活をこれまで通り保障したため、人々の支持を集めました。

当時、高句麗の美川王（びせんおう）は度々兵を派遣して遼東を襲撃していました。慕容廆の命により、慕容仁は慕容翰（ぼよう かん）と共にこれを迎え撃ちましたが、美川王が和睦を申し出ると攻撃を中止し、軍を退却させました。

しかし、320年には再び高句麗が遼東へ侵攻。慕容仁はこれを撃退し、大いに破りました。これにより、高句麗は慕容仁の領土を侵すことはなくなりました。

321年、慕容廆が遼東公に封じられると、慕容仁は平郭（へいかく）の鎮守を命じられました。

325年1月、宇文部の大人、宇文乞得亀（うぶん きつとくき）が慕容部を襲来すると、慕容廆は慕容皝を迎撃軍の総大将に命じると共に、慕容仁を平郭から呼び寄せ、柏林（はくりん）に赴かせ、軍の左翼に配置しました。宇文乞得亀は、兄の宇文悉跋堆（うぶん しつばつたい）に慕容仁軍を攻撃させましたが、慕容仁はこれを打ち破り、乱戦の最中に宇文悉跋堆を斬り殺し、その兵を尽く捕虜としました。さらに、慕容皝と合流して宇文乞得亀の本隊に攻撃を仕掛け、大勝しました。これにより宇文部軍は崩壊し、宇文乞得亀は逃亡。慕容仁は慕容皝と共に宇文部の都城へ侵入し、多くの戦利品と人民を獲得しました。

平郭で自立

333年5月、慕容廆が亡くなると、同母兄である慕容皝が後を継ぎました。慕容仁は、かねてより慕容翰や同母弟の慕容昭（ぼよう しょう）と共に父から寵愛を受けており、慕容皝はこれを妬んでいました。そのため、兄弟の関係は良好とは言えず、慕容皝が後を継いだことでその問題が表面化しました。

同年10月、慕容翰は慕容皝から災いを被ることを恐れ、段部へ亡命してしまいました。

同月、慕容仁は自ら統治する平郭を出発し、父の葬儀に参列するため棘城（きょくじょう）へ向かいました。この時、密かに慕容昭に会い、「我々は嗣君（慕容皝）に対して傲慢に振る舞ってきた。嗣君は厳格な性格であり、罪がなくとも恐れられているのに、罪のある我々はどうすれば良いのか！」と相談しました。慕容昭は、「我々は正嫡であり、国土を分けてもらう権利がある。兄上（慕容仁）は士卒から慕われており、私は内部から彼を亡き者にする。兄上が外で挙兵し、私が内部から呼応する。成功した暁には、私に遼東を頂きたい」と答え、反乱を勧めました。慕容仁はこれを承諾し、計画を胸に秘めたまま平郭へ帰還しました。

11月、慕容仁は計画を実行に移し、慕容皝に気づかれないように西へ向けて進軍を開始しました。しかし、棘城内にいた人物が慕容仁と慕容昭の謀略を慕容皝に密告しました。慕容皝は使者を派遣して慕容仁の動向を確認させました。慕容仁は、計画が露呈したことを知り、使者を殺害して平郭に帰還しました。慕容皝は、慕容昭に自害を命じると共に、慕容仁討伐の兵を挙げました。高詡（こうく）に5千の兵を与え、慕容幼（ぼよう よう）・慕容稚（ぼよう ち）・慕容軍（ぼよう ぐん）・慕容汗（ぼよう かん）・冬寿（とうじゅ）らを率いて平郭へ侵攻させました。慕容仁は汶城（ぶんじょう）の北で討伐軍を迎え撃ち、大勝し、慕容幼・慕容稚・慕容軍らを捕えました。冬寿は慕容仁に降伏し帰順しました。

遼東では、孫機（そんき）や王永（おうえい）らが遼東城ごと慕容仁に呼応し、封抽（ふうちゅう）・乙逸（いついつ）・韓矯（かんきょう）らは城を放棄して逃走しました。これにより、慕容仁は遼東の殆どを領有し、鮮卑の諸部族は慕容仁に味方しました。

334年2月、慕容仁は翟楷（てきかい）を領東夷校尉に、龐鑒（ほうかん）を領遼東相に任じ、遼東の統治を委ねました。

4月、慕容仁は車騎将軍・平州刺史・遼東公を自称し、自らが慕容廆の後継者であると主張しました。

8月、東晋朝廷は慕容皝に鎮軍大将軍・平州刺史・大単于・遼東公・持節を与えることを決定し、徐孟（じょもう）らを派遣しましたが、徐孟らは慕容仁に捕縛され、1年余りに渡って抑留されました。

11月、慕容皝自ら遼東討伐の兵を挙げ、襄平（じょうへい）まで進撃すると、遼東城の守将の一人である王岌（おうきゅう）が降伏を申し出ました。慕容皝軍は抵抗を受けずに襄平に入城し、翟楷・龐鑒は逃走、居就（きょしゅう）・新昌（しんしょう）などの諸県は全て降伏しました。慕容仁は平郭の守りを固めました。

335年10月、慕容仁は王斉ら東晋の使者を建康（けんこう）へ帰そうとしましたが、彼らは慕容皝への詔命を告げるという目的を果たすため、海路より棘城へ向かいました。

最期

335年12月、段部と宇文部が使者を派遣し、慕容仁の下を訪問しました。会見の後、両使者は平郭の城外に宿泊しましたが、慕容皝の帳下督（ちょうかとく）である張英（ちょうえい）が奇襲し、宇文部の使者10人余りが殺され、段部の使者は捕らえられました。

336年1月、慕容皝は弟の慕容評（ぼよう ひょう）らを率いて昌黎（しょうれい）より氷上を渡って東へ進撃し、歴林口（れきりんこう）まで到達しました。ここで輜重を捨てると、軽兵のみで平郭を奇襲しました。慕容皝が平郭城から七里の所にまで来ると、慕容仁の斥候がこれを報告し、慕容仁は慌てて迎え撃ちました。しかし、慕容皝が自ら来たとは思わず、張英のような一軍が略奪しようとしているのだと考えました。慕容仁は、張英が二国の使者を攻撃した際、捕えられなかったことを悔やんでいたので、「今度は馬一匹すら無事には帰さぬぞ！」と言い放ち、城の西北に全軍を布陣させました。しかし、慕容軍が配下を率いて慕容皝に寝返ったため、慕容仁軍は動揺し、慕容皝は攻撃してこれを大破しました。慕容仁は敗走を図りましたが、配下の兵がみな反旗を翻し、遂に生け捕られました。慕容皝は、まず慕容仁を裏切って捕らえた者を処刑すると、その後に慕容仁に自害を命じました。慕容仁の信任を受けていた丁衡（ていこう）や游毅（ゆうき）・孫機らも処刑され、王冰（おうひょう）は自殺し、慕容幼・慕容稚・冬寿・郭充（かくじゅう）・翟楷・龐鑒は東へ逃走しました。冬寿・郭充は高句麗へ亡命しましたが、翟楷・龐鑒は追いつかれて殺害されました。その他の官吏や民については、やむなく慕容仁に従っていたとして罪には問われませんでした。こうして、慕容皝と慕容仁の抗争は終わりを告げました。

人物

慕容仁は勇猛さと知略を兼ね備えており、父の慕容廆から寵愛を受けていました。戦場に出ては幾度も功績を上げ、士卒からも深く信頼を得られていました。慕容廆の時代、慕容翰は胡人・漢人問わず良く慰撫しており、威厳と慈愛を兼ね備えていると称えられていましたが、慕容仁もこれに次ぐ評判を得ていたと言われています。

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