樋脇町市比野

樋脇町市比野（ひわきちょういちひの）

鹿児島県薩摩川内市に位置する樋脇町市比野は、古くから温泉地として知られる地域です。市比野温泉を中心に、豊かな自然と歴史が息づいています。

地理

市比野は、薩摩川内市のほぼ中央部に位置し、川内川の支流である市比野川上流域に広がっています。北部は低地の沖積平野で、シラス質の堆積物によって小盆地を形成しています。一方、南東部やその他の地域はシラス台地や山地が迫る谷間の地形となっています。

隣接する地域としては、北に塔之原、南に日置市東市来町養母や鹿児島市郡山岳町、東に入来町浦之名、西に永利町、百次町、いちき串木野市冠嶽などが挙げられます。

歴史

先史時代

市比野では、弥生時代の遺跡である「高おかみ神社」と「宇都遺跡」が発見されています。高おかみ神社からは翡翠の勾玉が、宇都遺跡からは磨製石斧が出土しており、古代からこの地に人々が生活していたことが伺えます。

市比野の成立

市比野は平安時代から見られる地名で、当時は薩摩国入来院の一部でした。「延喜式」には、「檪野（いちのの）駅」という駅が設置されたという記述があり、これが現在の市比野であるという説があります。しかし、入来町浦之名の市野々であるとする説も存在します。

中世の市比野

中世には、新田八幡宮の領地であった時期や、渋谷氏（入来院氏）が支配を強めた時期がありました。南北朝時代には、渋谷氏の支配が確立し、以降は渋谷氏の相伝の地となりました。しかし、島津氏との戦いにより市比野城が攻め落とされたこともありました。

近代の市比野

江戸時代には、薩摩藩の樋脇郷に属していました。この頃から人口が増加し、開田事業も盛んに行われました。市比野温泉も島津光久によって整備され、湯治場として栄えました。また、農村として米や麦、粟、蕎麦、甘藷、ツバキなどが栽培されていました。

明治時代になると、廃藩置県により鹿児島県に属することになりました。町村制施行により、周辺の村々と合併して樋脇村となり、市比野は樋脇村の大字となりました。

町村制施行以降

町村制の施行後、道路の整備や駐在所の設置などが行われました。また、市比野温泉の旅館経営者が中心となり、樋脇町観光協会が結成され、観光地としての発展が図られました。1968年には市比野大火が発生し、大きな被害が出ましたが、復興に向けて取り組みが行われました。2004年には、周辺の市町村と合併し、薩摩川内市となりました。合併後、大字名は「樋脇町市比野」に改称されました。

人口

1995年以降の国勢調査によると、市比野の人口は減少傾向にありますが、依然として多くの人々が生活しています。

産業

市比野の主な産業は、医療・福祉、製造業、卸売業・小売業、建設業、農業・林業、宿泊業・飲食サービス業などです。かつてはタバコの栽培も盛んでしたが、現在は茶やミカンの栽培が行われています。

農業

農業では、市比野信用組合が設立され、農家の支援を行っていました。また、タバコの栽培が盛んであった時期には、煙草収納所が建設されました。

商業・観光

市比野温泉は、江戸時代から続く名湯で、明礬湯の泉質を持つ無色・無臭の温泉です。温泉街には旅館や商店が立ち並び、多くの観光客が訪れます。市比野温泉の湧出量増加に伴い、複数の泉源が開発されています。

史跡

市比野には、多くの史跡や文化財が残っています。市指定の文化財としては、樋脇郷鳥瞰図、上手太鼓踊、野下鎌踊、藤本棒踊、市比野駅の跡、玄豊寺跡石塔群、阿弥陀殿の岩仏、牛鼻の逆修塔群などが挙げられます。

施設

市比野には、樋脇保健センター、樋脇郷土館、薩摩川内市立図書館樋脇分館、市比野地区コミュニティセンターなどの公共施設があります。また、市比野小学校、永照寺保育園、諏訪保育園などの教育施設もあります。郵便局は市比野温泉郵便局、藤本簡易郵便局、野下簡易郵便局の３つです。

寺社

市比野には、菅原神社、高おかみ神社、市比野神社、八幡神社、荒人神社、盛立神社、一之宮神社、日枝神社、諏訪神社、智賀尾神社、永照寺、大泉寺など、多くの寺社があります。

教育

市比野には、薩摩川内市立市比野小学校があります。かつては、市比野中学校、野下小学校、藤本小学校がありましたが、過疎化などの影響で閉校し、市比野小学校に統合されました。中学校区は、薩摩川内市立樋脇中学校となっています。

交通

市比野には、鹿児島県道36号、39号、42号などの主要道路が通っており、交通の便は比較的良いです。また、道の駅樋脇も所在しています。バス路線としては、南国交通と鹿児島交通が運行しています。薩摩川内市コミュニティバスも利用できます。

脚注

薩摩川内市公式サイト
市比野温泉

参考文献

橋口兼古、五代秀堯、橋口兼柄 著、島津久光 編『三国名勝図会』薩摩藩、1843年。
南日本新聞社鹿児島大百科事典編纂室『鹿児島大百科事典』南日本新聞、1981年。
角川日本地名大辞典編纂委員会『角川日本地名大辞典 46 鹿児島県』角川書店、1983年。
樋脇町史編さん委員会『樋脇町史 上巻』樋脇町、1993年。
樋脇町史編さん委員会『樋脇町史 下巻』樋脇町、1996年。
芳即正、五味克夫『日本歴史地名大系47巻 鹿児島県の地名』平凡社、1998年。
“令和3年度薩摩川内市の教育” (PDF). 薩摩川内市教育委員会. 2021年5月30日閲覧。

関連項目

市比野温泉
* 温泉街

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