河津祐邦

河津祐邦（かわづ すけくに）

河津祐邦は、文政4年（1821年）に生まれた江戸幕府の旗本です。別名として河津三郎太郎とも呼ばれました。生年は不明確で、明治元年（1868年）とする説もあります。家禄は100俵で、官職名は伊豆守です。龍門という号も持っていました。

略歴

嘉永3年（1850年）に家督を継ぎ、小普請入りとなります。同年12月には表火之番に就任し、翌年には徒目付となりました。安政元年（1854年）には箱館奉行支配調役となり、蝦夷地の開拓や五稜郭の築造に携わりました。その後、箱館奉行支配組頭となり、御目見の身分となります。安政5年（1858年）に布衣を許され、家禄は100俵となりました。

文久3年（1863年）には新徴組支配となり、同年9月には外国奉行に就任します。当時、幕府は攘夷の体面を保つために横浜の鎖港を計画しており、河津は池田筑後守長発と共にフランス公使との交渉にあたりました。その後、遣欧使節団の副使として欧米へ派遣され、パリで交渉に臨みましたが、開国の必要性を感じ、鎖港を断念しました。このパリ約定は、帰国後に幕府から咎めを受け、河津は免職、逼塞を命ぜられました。

その後、逼塞を解かれ、慶応2年（1866年）には歩兵頭並となり、関東郡代を5ヶ月間務めました。その後、関東在方掛に任命され、慶応3年（1867年）には長崎奉行に就任しました。

慶応4年（1868年）正月、鳥羽・伏見の戦いで幕府軍が敗北した報を受け、河津は長崎を脱出し江戸に戻ります。その後、外国事務副総裁、外国事務総裁、若年寄と要職を歴任し、江戸幕府の終焉を見届けました。

河津祐邦の墓は、東京都台東区谷中の玉林寺にあります。

家族

河津家の遠祖は伊豆国河津荘の地頭で、曾我兄弟の仇討ちで有名な工藤祐経の子孫です。河津祐邦の女婿には、大津事件の際に刑事局長を務めた官僚の河津祐之がおり、孫には経済学者の河津暹（東京帝国大学経済学部教授）がいます。

長崎脱出

河津が長崎奉行として着任した慶応3年当時、長崎では海援隊や諸藩の浪人たちが横行し、幕府の権威は失墜していました。大政奉還や王政復古の大号令、鳥羽・伏見の戦いでの幕府軍敗北などの情報が相次いで長崎に伝わると、河津は長崎からの退去を決意しました。

河津は、福岡藩の聞役である粟田貢に退去の意思を伝え、薩摩藩の松方助左衛門（松方正義）や土佐藩士の佐々木三四郎（佐々木高行）と協議しました。奉行所の金子を運び出す計画も立てられましたが、最終的には断念しました。河津は、奉行所の移転を名目に荷物を運び出し、イギリス船に乗り込みました。

河津の脱出後、長崎では各藩の藩士や地役人たちが協議し、長崎会議所を設立して長崎の運営にあたりました。長崎奉行所は、中台信太郎によって残務整理が行われた後、その役割を終えました。

河津の長崎脱出は、当時「脱走同様の筋」と酷評されましたが、一方で、長崎での武力衝突を回避するための行動だったという評価もあります。

浦上キリシタン問題

河津は長崎奉行として、前任者から浦上村の隠れキリシタン問題を引き継ぎました。河津は、信徒の中で転宗を拒んだ高木仙右衛門と対話し、転宗を勧めましたが、仙右衛門は拒否しました。河津は、キリスト教は良い教えだが、今は信仰が許されないので、心の中で信仰するようにと伝えました。しかし、この問題の解決前に河津は長崎を脱出したため、浦上の信徒たちの処遇は維新政府が決めることになりました。

参考文献

赤瀬浩『「株式会社」長崎出島』講談社選書メチエ ISBN 4-06-258336-4
小川恭一編著『寛政譜以降旗本家百科事典』第2巻東洋書林 1997.11.20 ISBN 4-88721-304-2
五野井隆史『日本キリスト教史』吉川弘文館 ISBN 4-642-07287-X
外山幹夫『長崎奉行 江戸幕府の耳と目』中公新書 ISBN 4-12-100905-3
外山幹夫『長崎 歴史の旅』朝日新聞社 ISBN 4-02-259511-6
『国史大辞典』3巻 吉川弘文館 ISBN 978-4-642-00503-6
『国史大辞典』10巻 吉川弘文館 ISBN 978-4-642-00510-4
『国史大辞典』14巻 吉川弘文館 ISBN 978-4-642-00514-2
『長崎県大百科事典』 長崎新聞社
『長崎県の地名 日本歴史地名大系43』 平凡社
『長崎県の歴史』 山川出版社 ISBN 4-634-32420-2
長野暹編 『街道の日本史50 佐賀・島原と長崎街道』吉川弘文館 ISBN 4-642-06250-5
『新版 日本外交史辞典』 外務省外交史料館 山川出版社

関連項目

江戸開城

外部リンク

* 從五位下伊豆守 河津祐邦『函館市功労者小伝』 (函館市, 1935)

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