洞院実熙

洞院実熙：栄光と苦悩に生きた室町時代の公卿

洞院実熙（とういん さねひろ）は、室町時代前期から中期にかけて活躍した公卿です。内大臣・洞院満季の子として生まれ、最終的には従一位・左大臣にまで昇りつめましたが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。

波乱に満ちた経歴

実熙は、左近衛中将や伊予権守といった官職を経て、応永31年（1424年）に従三位に叙せられ、公卿としてのキャリアをスタートさせます。正長元年（1428年）には、異例の昇進で権中納言に任命されます。しかし、その翌年、院御所女房との密通が発覚し、勅勘を受け解官、父からも義絶されるという不名誉な事態に見舞われます。

それでも、永享2年（1430年）には赦免され権中納言に復帰、その後も順調に昇進を重ね、権大納言、内教坊別当などを歴任。嘉吉2年（1442年）には右近衛大将と右馬寮御監を兼任するなど、その地位を確立していきます。

文安3年（1446年）には内大臣に昇り、文安4年（1447年）には左近衛大将を兼任しますが、文安5年（1448年）には大将を辞任。宝徳2年（1450年）に従一位に叙された後、内大臣も辞しました。享徳3年（1454年）には右大臣、康正元年（1455年）には左大臣に任じられますが、康正3年（1457年）に辞職し、出家。東山で隠居生活を送りました。法名は元鏡。

実熙の没年は長らく不明でしたが、近年の研究により、長禄3年（1459年）に51歳で亡くなったことが判明しました。

文化人としての側面

実熙は、学者としても優れた才能を発揮し、朝儀典礼に通暁していました。自身で『名目鈔』という辞典を編纂しており、これは故実の名目に片仮名で訓を付し、一部に注釈を加えたものです。また、雅楽にも造詣が深く、後小松上皇から箏を相承し、後花園天皇に伝授するなど、文化的な貢献も果たしました。

洞院家の苦境と実熙の苦悩

室町時代の公家は、経済的に不安定な状況に置かれていましたが、特に洞院家のような清華家は、衣装代や多数の随行者の維持費などが重くのしかかり、困窮を極めていました。実熙は、「番々の輩（羽林家・名家以下）の如く成り下がる事はできない」と嘆いていたと伝えられています。

その言葉通り、実熙の時代から洞院家の財政は悪化の一途をたどり、最終的には、子の公数が家領や文書を売却し、出家することで、洞院家は事実上断絶しました。実熙の苦悩は、洞院家の終焉へと繋がる布石となったと言えるかもしれません。

人となりを偲ばせる消息

宮内庁書陵部には、実熙が後花園天皇などに宛てた35通の仮名消息が残されており、その中には彼の人となりを窺える内容のものも含まれています。

肖像画の謎

東京国立博物館が所蔵する重要文化財「伝足利義政像」は、近年、その像主が義政ではなく、洞院実熙であるという新見解が提唱されています。もしこの見解が正しければ、実熙の肖像が今日に伝わっていることになります。

洞院家の終焉

実熙の子である公数は文明2年（1470）に権大納言・左近衛大将を辞し、文明8年（1476）に出家したことで、洞院家は断絶しました。本家筋の西園寺家が公連に洞院家を相続させようとしましたが、再興は叶わず、文亀元年（1501）に出家し、洞院家の断絶が確定しました。

洞院家が所蔵していた記録や文書類は中院通秀らに売却され、郢曲や内侍所御神楽の所作人は四辻季春が継承しました。

洞院実熙は、室町時代という激動の時代に、公卿として、文化人として、そして家長として、様々な役割を担い、苦悩しながらも生きた人物でした。彼の生涯は、当時の公家社会の光と影を映し出す鏡と言えるでしょう。

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