狩野山雪

狩野山雪（かのう さんせつ）

狩野山雪は、天正18年（1590年）に肥前国（現在の佐賀県、長崎県）で生まれ、慶安4年（1651年）に62歳で没した江戸時代初期の狩野派絵師です。京狩野の祖である狩野山楽（光頼）の婿養子兼後継者となり、狩野派の重要な担い手となりました。本姓は秦氏、諱は光家、号は蛇足軒、桃源子、松柏山人などを使用しました。息子の狩野永納もまた絵師として知られています。

生涯

山雪は幼名を彦三といい、父の千賀道元に従って大坂に移り住みましたが、慶長10年（1605年）に父と死別。叔父の勧めで、当時豊臣氏の絵師として活躍していた狩野山楽に弟子入りしました。山楽は、かつて自身が狩野永徳の門人となった頃の境遇と似た彦三に同情し、内弟子として迎え入れたと考えられています。

頭角を現した山雪は、山楽の長男・光教の早世後、後継者となります。元和5年（1619年）までには山楽の娘・竹を妻とし、平四郎と改名、狩野姓を授けられました。山雪の号をいつから名乗ったかは定かではありませんが、30代半ばには使用していたと推測されています。また、縫之助と称したこともありました。

正保4年（1647年）には、九条幸家の命により、東福寺所蔵の明兆筆「三十三身観音像」の欠けていた2幅を補作し、その功績により法橋に叙せられました。

しかし、慶安2年（1649年）9月、山雪は揚屋（未決囚を入れる牢屋）に収容されるという不運に見舞われます。その理由は長らく不明でしたが、近年の研究により、義弟である狩野伊織が起こした金銭トラブルに巻き込まれたことが判明しました。伊織が山雪の名を偽って借金を作り、その責任を問われたのです。京都所司代の板倉重宗は、山雪に対し、義弟の借金を返済し、伊織の代わりに揚屋に入るよう命じました。その後、九条家らの尽力により出獄できたものの、この一件が心労となり、慶安4年（1651年）に62歳で亡くなりました。墓所は京狩野代々の墓がある泉涌寺にあります。

人物・作風

山雪は、垂直や水平、二等辺三角形を強調した幾何学的構図を特徴とする絵画を描きました。孤独を好み、蔵書家で学者としての側面も持ち合わせており、絵画史研究にも熱心でした。その研究成果は、子の狩野永納が著した『本朝画史』に活かされており、同書は日本絵画史の基本史料として知られています。

代表作

天球院襖絵 （京都・妙心寺天球院） 1631年 重要文化財
桂春院襖絵「松に三日月図」（旧仏間壁貼付） （京都・桂春院） 1632年
歴聖大儒像 （東京国立博物館、筑波大学） 1632年 林羅山依頼
繁馬図絵馬 （京都・清水寺） 1637年 重要文化財（令和6年度指定予定）
藤原惺窩閑居図 （根津美術館） 1639年
老梅図襖絵 （メトロポリタン美術館） 1647年 旧妙心寺塔頭天祥院襖絵
群仙図襖絵 （ミネアポリス美術館） 1647年 旧妙心寺塔頭天祥院襖絵
蟠龍図天井画 （京都・泉涌寺） 1647年
雪汀水禽図屏風 （個人蔵、京都国立博物館寄託） 重要文化財
蘭亭曲水図屏風 （京都・随心院、京都国立博物館寄託） 重要文化財
洛外名所図屏風 （京都国立博物館）
明皇・貴妃図屏風 （京都国立博物館）
富士三保松原図 （静岡県立美術館）
夏冬月夜山水図屏風 （個人蔵）
住吉社頭・須磨明石図 （彦根城博物館）
龍虎図屏風 （個人蔵）
四季耕作図屏風 （東京芸術大学大学美術館、個人蔵）
四季耕作図 （滋賀・大通寺）
寒山拾得図 （京都・真正極楽寺） 重要文化財
紫宸殿賢聖図巻 （個人蔵）
長恨歌絵巻（アイルランド、チェスター・ビーティ図書館）

参考資料

土居次義編 『日本の美術172 山楽と山雪』 至文堂、1980年。
五十嵐公一 『京狩野三代の生き残り物語 山楽・山雪・永納と九条幸家』 吉川弘文館、2012年。ISBN 978-4642079143
山下善也 奥平俊六 五十嵐公一執筆 『特別展覧会 狩野山楽・山雪』展図録、京都国立博物館 毎日新聞社企画・編、2013年。
山下善也『狩野探幽・山雪　悉く新意を出し、狩野氏を一変す』 ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ日本評伝選〉、2022年2月。ISBN 978-4623093489

関連項目

京狩野
* 狩野派

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