北原氏

北原氏は、大隅国肝付氏の庶流で、日向国で戦国大名として活躍した一族です。元々は伴氏を称していましたが、兼俊の代に肝付氏を名乗り、その子である兼綱が分家して大隅郡串良院を治めました。兼綱は、築城した場所の地域名である木田原から北原氏を名乗るようになり、救仁郷氏とも称しました。

勢力範囲

北原氏の勢力範囲は、真幸院（現在の宮崎県えびの市）5ヶ郷、三ツ山（現在の宮崎県小林市）に加え、東方面は穆佐院の野尻、三俣院の高原、高崎、山田、志和池、西岳付近まで、西方面は、財部、吉松、栗野、横川、踊、日当山あたりまで及んでいました。真幸院を本貫地とし、宗家である肝付氏から独立して政治や文化を支援し、最盛期には一万余の兵を動員するほどでした。

歴史

南北朝・室町時代

南北朝時代、真幸院司であった日下部氏は、九州探題・北条英時に従い北条氏残党の乱に加わったため没落しました。兼綱の曾孫である北原兼幸は、南朝方の命を受け、康永4年（1345年）に後任の真幸院司に就任し、飯野城に入りました。系図では、兼幸を北原氏の初代としています。

5代目の北原範兼は、日向伊東氏から妻を迎え、以降も伊東氏との姻戚関係を重ね、日向における勢力を強固なものにしました。また、飯野原田村には、後に50余りの末寺を持つ「長善寺」を建立したり、「碧巌録」や「聚分韻略」などの禅書を刊行するなど、文化的な支援も積極的に行いました。

応永2年（1396年）、範兼は徳満城で相良氏の相良祐頼と宴会中に口論となり、刺し違えて両者とも死去しました。この事件により両家の関係が悪化し、範兼の子である久兼は薩摩の島津元久と親交を深めました。これを機に、北原氏は真幸院のみならず、吉松、栗野、野尻にまで勢力を拡大しました。

戦国時代

文明16年（1484年）の「飫肥の役」では、9代目の北原立兼は伊東祐国、入来院重豊、菱刈氏重らと結び、伊作島津家の島津久逸の側につきました。立兼らは島津家臣・新納忠続の守る飫肥城を攻めましたが、島津忠昌らの援軍に阻まれ、攻略に失敗しました（第一次飫肥役）。

翌文明17年（1485年）、伊東祐国は再び飫肥城を攻撃し、立兼も8000の兵を率いてこれに呼応しました。しかし、援軍を得た島津軍との戦いで、大将の祐国と立兼を含めた800余人が討たれ、再び飫肥侵攻は失敗に終わりました（第二次飫肥役）。

立兼の戦死後、家督争いが発生し、次男・北原兼門の子である茂兼が後継と定められたものの、幼少であったため、叔父の兼珍が家督を簒奪しました。長享2年（1488年）、茂兼は球磨の相良氏に亡命し、母方の実家である相良頼泰を頼り、頼泰の娘を娶りました。この娘との間に嫡子兼泰が生まれ（孫の兼親の頃までに北原氏に帰属）。

飫肥役以降、北原氏は伊東氏との連携を強め、伊東尹祐と共に北郷忠相と戦い、大永2年（1522年）には北郷氏の山田城を占領し、北原氏の勢力は真幸院（三ツ山を含む）、高原、志和地、山田に及びました。

大永6年（1526年）7月14日、相良氏に内訌が発生すると、これを好機と見て北原氏は大軍で人吉城を包囲しました。しかし、相良氏は皆越地頭・皆越安芸守貞学に計略を伝え、人吉城の城兵に「明朝に援兵が来る」と叫ばせました。貞学の皆越勢100余人は夜半過ぎに人吉に到着し、「我らは伊東家の援軍であり、この後も軍兵が参陣する」と叫びました。この計略に騙された北原氏は、明朝には撤退しました（大岩瀬合戦）。

人吉城攻撃の際、北原氏は一向宗門徒を扇動して相良氏を攻めたとされており、このことが後の相良氏の一向宗禁令につながったとも言われています。

天文2年（1535年）、伊東家当主の伊東祐充が没すると、伊東家中で家督争いが発生しました。12代目の北原祐兼の弟である北原兼孝はこれに乗じ、伊東義祐の援軍と称して綾に3000の兵を布陣させ、綾城か三俣院の高城（日和城）の割譲を要求しました。義祐はやむなく高城の割譲を約束しましたが、高城は伊東氏配下の落合兼佳が北郷忠相に内応したため、結局は北郷氏の城となりました。

天文4年（1537年）、島津宗家は北郷氏と共に、従わなくなった志布志の新納氏を攻撃しました。これに対し、北原兼孝と伊東祐吉は新納氏へ援軍を出しましたが敗れてしまいました。

北原氏と北郷氏の争いは激しさを増し、一時的に和睦することもあったものの、すぐに破られるという状況でした。

天文11年（1542年）、北郷氏は志和池に攻め寄せてきました。北原氏は伊東氏の援軍を得て北郷氏の高城を攻めましたが、北郷氏の援兵と挟撃され、退却を余儀なくされました。援軍を出すには距離で劣ることもあり、翌年には山田城、更に志和池城が北郷氏に奪われてしまいました。特に志和池城での戦いでは、重臣の白坂下総守兼次と平良尾張守らを失う大敗を喫しました。兼孝は敗戦の責任を取り、宗家の座を三ツ山方面を治める甥の兼守に譲りました。

天文23年（1554年）、島津貴久に対して、祁答院良重、入来院重嗣、蒲生範清が叛乱を起こすと、これに13代目の北原兼守は菱刈隆秋と共に呼応しましたが、岩剣城が陥落し、連合軍は敗走しました（岩剣城の戦い）。

弘治3年（1557年）、球磨の相良頼房（後の義陽）に背いた上村頼孝兄弟の求めに応じ、500名の援軍を派遣しましたが、敗れて援兵の大将だった平野兵部忠義、中城出羽ら120余名が討ち取られ、頼孝らも飯野へと逃れてきました。

没落

永禄元年（1558年）、兼守が居城の三ツ山城で病没しました。兼守には男子がおらず女子が一人いたため、兼守の叔父である北原兼孝の子に嫁がせるよう遺言されていましたが、その女子も3、4歳のうちに夭折してしまいました。当時、伊東義祐は兼守の妻が自らの次女（麻生）であったこと、また北原家中で禅宗と真宗で対立していた隙をついて、北原氏の内政に干渉しました。

北原家では協議の末、兼孝を後継に据えようとしましたが、義祐は兼守の妻を、北原氏の庶家の者である馬関田右衛門佐に嫁がせ、これを三ツ山城に置き、反対派を都於郡城に呼び出して詰問した後、その帰途を待ち伏せて粛清しました。さらに、飯野城にいた兼孝を殺害しました（兼孝は病的なまでの真宗派で、対する義祐は禅宗に深く帰依していたという事情もありました）。

その後、義祐は永禄4年（1561年）（『真幸院記』では永禄6年）10月24日に残る反対派を飯野の長善寺で討滅し、翌年には北原氏の領地である真幸院、栗野、横川、高原は全て伊東氏の領地となりました。

残された一族の北原兼親（9代・立兼、10代・兼珍の次兄・兼門の曾孫）は球磨に逃れ、相良氏を頼っていました。北原旧臣の白坂下総介が、島津家臣の樺山幸久（後の善久）を通じて島津貴久に対し、兼親に北原氏を継がせたい旨を打診し、これに同意した貴久は相良頼房、及び北郷時久にも協力を働きかけました。その結果、兼親は島津氏・相良氏・北郷氏の援助を受けることができました。

永禄5年（1562年）5月、相良氏は伊東氏のものになっていた馬関田城まで軍勢を動かし、これにより兼親は飯野城に入り真幸院に復帰することができました。貴久は横川城、さらに三ツ山城を落とし、兼親の真幸院再興を助けました。島津氏、北郷氏、相良氏は白鳥神社にて、北原兼親の前で相互に助勢し合うとの起請文を提出しました。

しかし、吉松城の兼親の叔父の左衛門尉が、密かに伊東氏と相良氏に通じ、飯野から島津氏を追い出そうと画策していたことが露呈したため、出奔しました。また、永禄6年（1563年）、伊東氏と相良氏が連合して飯野の大明神城（大明司塁）を落城させました。さらに、永禄7年（1564年）5月、伊東義祐は北原氏に従属する大河平氏の今城を攻めて城兵を全滅させました。徳満城主や高原城主も後難を恐れ真幸院を去ったため、北原氏は伊東氏、相良氏、大口の菱刈氏からの圧迫を受け、領地維持が困難になりました。

これを憂慮した貴久は、兼親に薩摩伊集院神殿（こどん）村に30町の領地を与えて移住させました。これにより武家の棟梁としての北原氏は終わりを迎えました。その後、永禄7年（1564年）11月、真幸院には貴久の次男である義弘が入り、廃藩置県に至るまで島津氏が領有することになりました。

また、兼親には嗣子がなく、比志島義基の次男である兼茂を養子に迎えましたが、上井兼政の嫡子諏訪兼安の付衆中とされるなど、子孫の没落は甚だしかったとされています。

歴代当主

北原兼幸
北原兼貞
北原玄兼
北原玄幸
北原範兼
北原久兼
北原兼興
北原貴兼
北原立兼
北原兼珍
北原久兼
北原祐兼
北原兼守
北原兼親
北原兼茂

庶流

北原寛兼
北原兼門
北原茂兼
北原兼泰
北原兼孝
北原左衛門尉
馬関田右衛門佐

庶家

馬関田氏

戦国期主要家臣

白坂下総守兼次
平良尾張守

脚注

参考文献

「えびの市史上巻」：えびの市郷土史編さん委員会
太田亮「国立国会図書館デジタルコレクション北原　キタハラ」『姓氏家系大辞典』第2、上田萬年、三上参次監修、姓氏家系大辞典刊行会、1934年、1897-1900頁。
「小林市史第一巻」：小林市史編纂委員会
『本藩人物誌』鹿児島県史料集(13) （鹿児島県史料刊行委員会）
『三俣院記真幸院記甑島諏訪神社御神事由緒』鹿児島県史料拾遺(9) （鹿児島県史料拾遺刊行会）
『「さつま」歴史人名集』（高城書房出版）ISBN 4-924752-28-2

関連項目

真幸院
肝付氏
伊東氏
北郷氏
伊作家
相良氏
大河平氏
* 隠れ念仏

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