磯部町上之郷

三重県志摩市磯部町上之郷

地理

磯部町上之郷は、志摩半島のほぼ中央、志摩市北部に位置しています。町の西部は磯部川（神路川）が形成した沖積平野が広がり、水田として利用されています。一方、北中部には台地が広がり、その斜面は畑として活用されています。この台地は、暗青灰色と褐色の粘土、そして円礫で構成されており、上部の礫は風化が進んでいます。元々、この地は磯部地域の中心地でした。

北は磯部町沓掛、東は磯部町山田、南は磯部町下之郷、西は磯部町恵利原と隣接しており、上之郷と下之郷の境界には野川が流れています。

歴史

中世まで

上之郷では、伊雑宮の境内や周辺の小字から、土師器や須恵器、磁器片が出土しており、この地が古くから人々の生活の場であったことを示唆しています。伊雑宮の創建は、伊勢神宮内宮が鎮座した後、倭姫命が神饌を奉る地を求めて巡幸中、「磯の宮」に入り、伊佐波登美命に天照大神を祀らせたことに始まると伝えられています。

中世の上之郷は「上村」と呼ばれていました。この「上村」は、現在の磯部町上之郷、磯部町山田、磯部町沓掛の3つの大字に相当します。上之郷の成立については、山田と沓掛の住民が開拓した地域が後に上之郷として独立したとする説と、上之郷から山田・沓掛の2村が分離したとする説の2つがあります。御巫清直は、上之郷が元々伊雑宮の宮域であり、後に村人が侵入して集落を形成したと主張しています。

『冖一山記』の奥書には、鶏栖亭（鶏居家）の旧跡が山田に残っていることが記されており、このことは御巫説を裏付けるものとして『磯部郷土史』で紹介されています。また、神宮文庫が保管する記録には、熊野三山の神人が伊浜に襲来した際、伊雑宮のある上村への接近が懸念され、内宮へ連絡したという記述が残されています。

近世

江戸時代、上之郷村は鳥羽藩の配下に置かれ、志摩国答志郡磯部組に属していました。村内には薪炭材を採れる山がなかったため、山年貢を支払うことで、沓掛村の山で柴や下草を刈っていました。村高は141石で、夫米、柿渋、ハギなどが産物でした。上之郷村は、沓掛村、山田村、五知村と地域社会を形成しており、雨乞いや通婚などの交流がありました。

伊雑宮の神官は、御師として日本中に神札を配布し、崇拝者を獲得していきました。近世から近代にかけて、上之郷村は伊雑宮の鳥居前町として賑わい、多くの旅館が立ち並びました。特に6月24日に開催される伊雑宮御田植祭には、大勢の観客が訪れました。

近代以降

壬申戸籍によれば、当時の上之郷村は商業的な性格が強く、旅籠屋や質店を農業の傍らで行っていたとされています。1874年（明治7年）には、磯部郵便局の前身である上之郷郵便取扱所が設置され、1962年（昭和37年）に恵利原へ移転するまで、上之郷に置かれていました。1875年（明治8年）には上之郷学校が開校しましたが、1883年（明治16年）に統合され、姿を消しました。

1889年（明治22年）の町村制施行以来、大字となり、現在に至ります。1929年（昭和4年）には、志摩電気鉄道が開通し、「志摩磯部駅」が開設されました。1935年（昭和10年）頃には、三角屋根の駅舎が完成し、磯部村の中心としての風格を漂わせていました。後に、駅と五ヶ所浦方面を結ぶ路線バスが開設され、時間待ちの客で賑わいましたが、バスの発着場が移転すると衰退し、1970年（昭和45年）に「志摩磯部駅」の名を迫間駅に譲り、旧志摩磯部駅は上之郷駅に改称されました。

1970年（昭和45年）1月15日には、簡易水道が通水しました。

沿革

1889年（明治22年）4月1日：町村制施行により、答志郡磯部村大字上之郷となる。
1896年（明治29年）3月29日：答志郡が英虞郡と合併し、志摩郡磯部村大字上之郷となる。
1955年（昭和30年）2月11日：磯部村が度会郡神原村東部、志摩郡的矢村と合併し、志摩郡磯部町上之郷となる。
2004年（平成16年）10月1日：磯部町が志摩郡4町と合併し、志摩市磯部町上之郷となる。

世帯数と人口

（データ省略）

学区

（データ省略）

観光

伊雑宮：皇大神宮の別宮で、地域住民からは「いぞうぐう」と呼ばれています。6月24日に行われる伊雑宮御田植祭は、日本三大御田植祭の一つとして知られています。
中六（中六店舗）：元旅館の鰻料理店で、地元産の竹炭で串を刺さずに焼き上げる鰻と、秘伝の甘口タレが特徴です。入母屋造の2階建ての店舗は、登録有形文化財に指定されています。
神武参剣道場：伊雑宮や中六の近くにある剣道場で、青森県八戸市出身の小泉太志命が開いた道場です。伊勢湾台風で倒れた木を使って建てられた木造2階建ての建物で、玄関には「参剣」を表す鬼瓦があります。
伊雑宮のおもてなし処・御師の家：伊雑宮御師の子孫が自宅を改修して開設した施設で、館長が地域の文化や歴史について語り、伊雑宮御田植祭の「踊り込み唄」を披露しています。

交通

古代より、朝熊山や鳥羽へ通じる道が開けていました。上之郷の中央部を南北に国道167号と近鉄志摩線が並行して通っており、上之郷南部には上之郷駅が設置されています。

鉄道

近鉄志摩線上之郷駅

路線バス

コミュニティバスの磯部地域予約運行型バス「ハッスル号」やまルートが上之郷を通っていますが、バス停は設置されていません。かつては五ヶ所浦方面行きのバスが運行されていました。

道路

国道167号
三重県道47号鳥羽磯部線

施設

近鉄志摩線上之郷駅
上之郷公民館
伊雑宮のおもてなし処・御師の家
神武参剣道場
長谷川酒店
中六
山本ストアー
岡田真珠器具有限会社

寺社

伊雑宮
仏護寺
無量山千田寺
行基が開基したとされる古刹でしたが、1878年（明治11年）に焼失し廃寺となりました。

その他

郵便番号：517-0208（集配局：磯部郵便局）

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