鉢木

鉢木（はちのき）

能の演目の一つである『鉢木』は、作者を観阿弥・世阿弥とする説がありますが、詳細は不明です。

概要

『鉢木』は、『増鏡』や『太平記』に記された北条時頼の遊行伝説を基にしていますが、原典にこの物語の記述はありません。人形浄瑠璃や義太夫として翻案され、元禄時代には近松門左衛門が『最明寺殿百人上﨟』を書き、享保期には『北条時頼記』が大ヒットしました。歌舞伎でも中村座の『女鉢木三鱗』や江戸市村座の『鉢木大鑑』などの演目で人気を博し、大正から昭和初期には尋常小学国語読本にも掲載されました。

現代でも栃木県の小学校では、道徳教育の題材として使われ、相手の立場に立った考え方や親切心、思いやりの心を育むことを目的としています。

内容

物語は、大雪の降る夕暮れ、佐野の里に旅の僧（実は北条時頼）があばら家へ宿を求める場面から始まります。家の主である佐野源左衛門常世は、かつては三十余郷を領する武士でしたが、一族に領地を奪われ困窮していました。それでも、常世は旅の僧を招き入れ、わずかな粟飯を供します。薪が尽きると、かつて愛でていた松、梅、桜の盆栽を薪として燃やし、せめてものもてなしをしようとします。そして、鎧、薙刀、馬だけは手放さず、いざ鎌倉に召集があれば、すぐに駆けつけ命を懸けて戦う覚悟を語ります。

春になり、鎌倉から緊急召集の触れが出ると、常世は古びた鎧を身につけ、錆びた薙刀を背負い、痩せた馬に乗って鎌倉へ駆けつけます。北条時頼は、諸将を前に、常世に「あの雪の夜の旅僧は自分であった」と明かし、馳せ参じたことを喜びます。そして、常世が失った領地を返還し、さらに盆栽にちなんで加賀国梅田庄、越中国桜井庄、上野国松井田庄の三箇所の領地を恩賞として与えます。常世は感謝し、佐野の荘へと帰っていきます。

史跡・名所

物語にゆかりのある場所が各地に存在します。

長野県: 浅間山（作中の「浅間の岳」）、平尾山（作中の「大井山」）、伴野荘（作中の「友の里」）、入山峠（作中の「離坂」）など
群馬県: 碓氷川、安中市板鼻、高崎市上佐野町（作中の「佐野のわたり」）、山本宿（作中の「山本の里」）、松井田（作中、常世が賜ったという「松枝」）など
栃木県: 佐野市鉢木町（願成寺に常世の墓）、安蘇郡葛生町（作中の「山本の里」）など
神奈川県: 鎌倉（若宮大路幕府）
石川県: 金沢市梅田町（作中、常世が賜ったという加賀国の「梅田」）、加賀市南郷町（異説）
富山県: 黒部市三日市（作中、常世が賜ったという越中国の「桜井」）

参考文献

木本誠二著『謡曲のふる里』鹿島出版会、1968年。
耕漁画『能樂圖繪 前編 上』松木平吉、1901年。
『「教え育てる道徳教育」指導資料　ふるさと　とちぎの心　栃木県道徳教育郷土資料集（小学校高学年編）教師用指導書』栃木県教育委員会事務局学校教育課、2015年。
『石川県河北郡誌』石川県河北郡、1920年。

関連文献

芳賀矢一訂『謡曲二百番 四流対照 下巻』金港堂、1908年 - 1909年、88 - 103ページ。
文部省著『尋常小學國語讀本 卷10』日本書籍、1929年、59 - 72ページ。

関連項目

鎌倉街道
佐野のわたし駅
北条時宗 (NHK大河ドラマ) - 第5話にて本作のエピソードが映像化

外部リンク

『鉢木』 - コトバンク
NHK for School 鉢の木物語
佐野市仏教会 願成寺
佐野市 さのキッズ 鉢の木物語
産経ニュース 佐野源左衛門　「いざ鎌倉」知りたくなかった結末　驚愕「鉢木物語」
レファレンス協同データベース
黒部まちづくり協議会 黒部の自然と歴史 「桜井の荘」はいつごろから呼ばれるようになったか？（八木均）

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