陽裕

陽裕（よう ゆう）

陽裕（生没年不詳）は、五胡十六国時代の前燕に仕えた人物で、字は士倫。右北平郡無終県（現在の中国河北省）の出身です。従兄弟には同じく前燕に仕えた陽騖がいます。

生涯

幼い頃に両親と兄弟を亡くし、若くして自立しました。親族で彼の才能に気づく者はいませんでしたが、叔父の陽耽だけは幼い頃から陽裕を非凡な人物だと見抜き、「この子は一門の俊英であるだけでなく、時代を支える器となるだろう」と語ったと伝えられています。

永安元年（304年）、幽州刺史の和演に招聘され、主簿に任じられます。しかし、同年8月に王浚が和演を殺害して幽州を領有すると、治中従事に移りますが、王浚からは重用されませんでした。

建興2年（314年）3月、漢（後の前趙）の石勒が薊を攻略した際、石勒は棗嵩に幽州の優れた人材について尋ね、棗嵩は陽裕を推薦しました。石勒は陽裕を登用しようとしますが、陽裕は変装して逃れ、令支へ向かいました。

段部の首領である段疾陸眷は、陽裕の到来を知り厚遇しようとしました。陽裕は友人の成泮に「孔子は仏肸の招きに応じようとし、伊尹は君主と認めない者には仕えなかった。我々もそうあるべきだ」と語りますが、成泮は「今は世が乱れており、再び太平になるには長い時間がかかる。あなたは伊尹や孔子を目指すのであれば、この機会を逃すべきではない」と説得しました。陽裕はこれを受け入れ、段疾陸眷に仕え、郎中令・中軍将軍に任じられ、上卿の地位に列せられました。

その後、陽裕は段疾陸眷から段遼に至るまで、5代の君主に仕え、いずれからも重用されました。范陽出身の盧諶は、陽裕を「忠義心と清廉さ、そして義理堅さにおいて、陽士倫に並ぶ者はいない」と賞賛しました。

咸康3年（337年）3月、当時段部は遼東に割拠する慕容部と対立していましたが、陽裕は慕容部との和睦を主張し、「慕容皝は徳のある君主であり、交戦は避けるべきだ」と進言しました。しかし、段遼はこれを聞き入れず、陽裕を燕郡太守・北平相に任じて中央から遠ざけました。

咸康4年（338年）3月、後趙の石虎が段部を攻撃すると、陽裕は数千の民を率いて燕山に立て籠もりました。石虎は陽裕を「ただの儒者であり、降伏を恥じているだけだ」と見て放置し、徐無へ進撃しました。その後、石虎が令支を攻略すると、陽裕は郡ごと降伏しました。石虎は陽裕を詰問しましたが、陽裕は「私はかつて王浚に仕えましたが、その悪行を正すことができませんでした。段氏のもとに逃れましたが、彼らを全うさせることもできませんでした。陛下は天命を得ており、私は陛下の御心のままです」と答えました。石虎は喜び、陽裕を北平郡太守に任じました。

その後、陽裕は招聘を受けて中央に入り、尚書左丞に任じられました。12月、密雲山に潜伏していた段遼が後趙に帰順を申し出ると、石虎は将軍の麻秋に3万の兵を与えて段遼を迎え入れさせ、陽裕を麻秋の司馬として従軍させました。しかし、前燕の将軍慕容恪の奇襲により麻秋軍は大敗し、陽裕は前燕軍に捕らえられ、慕容皝のもとへ送られました。

慕容皝は陽裕の名声を知っていたため、すぐに釈放して郎中令に任じ、後に唐国郡内史に移しました。咸康7年（341年）1月、慕容皝が龍城の建築を開始すると、陽裕はその建築・設計の才能を買われ、城池・宮閤・宗廟の造営を全て任されました。陽裕が作り上げた新宮殿は和龍宮と号されました。7月には大将軍左司馬に移りました。

咸康8年（342年）10月、龍城が完成すると、慕容皝は棘城から遷都しました。この年から永和元年（345年）にかけて、慕容皝は高句麗や宇文部といった諸勢力を併呑しましたが、これは陽裕の献策によるものが大きく、慕容皝は彼を非常に重んじました。

陽裕は慕容皝に仕えて日が浅かったものの、その寵遇は古くからの臣下を遥かに凌いでいました。謙虚で清廉な性格であり、剛直で慈悲深く、高官となっても質素な生活を続けました。亡くなった士大夫の葬儀を自ら行い、遺児を養育するなど、その人柄は多くの人々に慕われました。

やがて陽裕は62歳で亡くなりました。慕容皝はその死を深く悼んだと伝えられています。

参考文献

『晋書』巻109
『資治通鑑』巻085-097
* 『十六国春秋』前燕録

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