麻秋

麻秋（ま しゅう）

麻秋（生年不詳 - 350年）は、五[[胡十六国時代]]の後趙に仕えた武将です。太原出身の胡人であり、石虎から厚い信任を受けました。

生涯

後趙において将軍に任じられ、石虎からの信頼は特に厚く、重用されました。

333年、氐族の蒲洪（後の苻洪）が前涼に降伏すると、石虎は麻秋に討伐を命じました。麻秋は蒲洪を攻撃し、2万戸の民を降伏させました。

338年3月、石虎の命により、将軍郭太と共に軽騎兵2万を率いて、鮮卑段部の首領段遼を攻撃しました。麻秋らは密雲山で段遼と遭遇し、勝利を収めて首級3千を挙げ、段遼の母と妻を捕らえました。段遼は単騎で山中へ逃走しました。

後に征東将軍に任じられました。

338年12月、段遼は密雲山から使者を派遣し、石虎に降伏を願い出ました。石虎はこれを認め、麻秋に3万の兵を与えて段遼を迎え入れさせました。石虎は出発前に麻秋へ「降伏を受け入れるのは、敵と対するのと同じだ。軽視する事の無い様に」と忠告すると共に、段遼の旧臣であった尚書左丞陽裕を麻秋の司馬としました。しかし、段遼は密かに前燕へも降伏の使者を送り、麻秋を奇襲するよう持ちかけていました。前燕君主慕容皝はこれに応じ、子の慕容恪に精鋭騎兵7千を与え、密雲山に伏兵として潜伏させました。麻秋は段遼を迎え入れる為に軍を進めていましたが、三蔵口において慕容恪から奇襲を受け、大敗を喫して兵の7割近くを失いました。麻秋自身も馬を失い、徒歩で逃げ戻りました。陽裕は前燕軍に捕らえられました。石虎はこれを聞くと、驚きと怒りのあまり食事を吐き捨てたと言われています。この敗戦により、麻秋は官爵を剥奪されました。

後に涼州刺史に任じられました。

346年、石虎の命により、征西将軍孫伏都と共に歩兵と騎兵3万を率いて前涼征伐に向かいました。軍を進めて金城を攻めると、金城郡太守張沖を降伏させました。涼州の民は恐怖に慄き、張重華は領内の兵卒を総動員し、征南将軍裴恒を総大将に任じて麻秋を迎え撃たせました。裴恒は広武まで進軍して砦を築きましたが、麻秋を恐れて戦おうとしませんでした。その為、張重華は主簿であった謝艾を中堅将軍に抜擢し、5千の兵卒を与えて麻秋を攻撃させました。謝艾が兵を率いて振武から出陣すると、麻秋は迎撃するも大敗を喫し、5千の兵を失って金城へ撤退しました。

その後、金城が再び前涼の支配下に入ると、麻秋は再度攻めてこれを攻略しました。県令の車済は降伏を拒否し、自害しました。その後、麻秋は大夏を攻撃すると、前涼の護軍梁式は太守宋晏を捕らえ、城を挙げて降伏しました。麻秋は宋晏に書を持たせ、前涼の宛戍都尉宋矩の下へ派遣し、降伏を促しました。しかし、宋矩は「人臣として功業を為す事は出来なかった。こうなったからには、ただ気節を持って死ぬだけである」と拒絶し、妻子を殺した後に自殺しました。麻秋は「皆、義士であるな」と語り、車済と宋矩の遺体を収容して埋葬しました。

347年4月、8万の兵を率いて枹罕を攻撃しました。晋昌郡太守郎坦・武城郡太守張悛・寧戎校尉常據は枹罕城を固守し、麻秋は幾重にも城を包囲し、雲梯や地下道を使い四方八方から同時に攻めました。しかし、枹罕城の守りは固く、麻秋軍は数万の兵を失いました。石虎は将軍劉渾に2万の兵を与え、麻秋の援軍として派遣しました。郎坦は後趙に寝返ろうと企て、軍士の李嘉に命じて後趙兵千人を密かに城壁へ導かせましたが、常據に阻まれて失敗しました。さらに、常據により攻城戦の道具も焼き払われ、麻秋は大夏まで退却する事を余儀なくされました。

石虎は征西将軍石寧に并州・司州の兵2万余りを与えて麻秋の後続とし、前涼征伐を継続させました。これを聞くと、前涼の将軍宋秦は2万戸を率いて降伏しました。張重華は謝艾を使持節・軍師将軍に任じ、3万の兵を与えて臨河まで進軍させました。謝艾は車に乗り、白服を着て、太鼓を鳴らしながら進軍しました。これを見た麻秋は「謝艾は年少の書生の分際でありながら、あのような格好で現れるとは。我を愚弄するか。」と怒りました。麻秋が3千の精鋭兵に命じて突撃させると、謝艾は車から降りて椅子に座ってあちこちを指さしながら合図をしたので、麻秋の兵は伏兵を恐れて攻撃できなくなりました。その間に前涼の将軍張瑁は別道から麻秋軍の背後へ回り込み、奇襲を仕掛けました。これにより軍は混乱して後退し、謝艾は勢いに乗って進撃しました。麻秋は大敗を喫し、杜勲・汲魚の2将を失い、1万3千の兵が捕らえられました。麻秋自身は単騎で大夏まで逃げ帰りました。

349年9月、東晋の梁州刺史司馬勲が長安を攻めると、三輔の豪族は郡太守や県令を殺害して司馬勲に呼応しました。長安を鎮守する楽平王石苞は、麻秋と姚国らに命じ、司馬勲を防がせました。10月、司馬勲は梁州へ戻りました。麻秋はその後も長安に留まりました。

350年1月、麻秋は長安を離れ、王朗と共に洛陽に入りました。この時、麻秋は朝政を主管していた李閔（後の冉閔）より命令書を受け取り、これに従って王朗の配下にいた胡兵千人余りを誅殺しました。これにより王朗は襄国へ逃走しました。その後、麻秋は鄴へと向かいましたが、その途上で苻洪の子である龍驤将軍苻雄より攻撃を受け、捕らわれの身となりました。苻洪は麻秋を登用し、軍師将軍に任じました。

350年3月、麻秋は苻洪へ「冉閔と石祗の対立により、中原の動乱はまだ終わらないでしょう。この機に乗じて関中を平定し、覇業の基礎を築くのです。その後に東進して天下を争えば、誰も敵わないでしょう」と進言すると、苻洪はこれに同意しました。しかし、麻秋は密かに苻洪の軍を奪うことを目論んでいました。ある時、宴会の席で苻洪の酒に毒を盛って殺害しようとしましたが、苻洪の世子である苻健によって麻秋は捕らえられ、処刑されました。

人物

麻秋は凶悪で残酷な性格であり、しばしば毒酒を用いて人を害していました。築城のために百姓を昼夜問わず休みなく働かせ、鶏が鳴く時にのみわずかな休息を与えていたため、周囲から大いに恐れられていました。泣く子に対して母親が「麻胡が来る」と言うと、泣き止むほどであったと言われています。

逸話

『列仙全伝』によると、麻秋の娘は麻姑という仙女であり、父が百姓に過酷な労役を課すことに心を痛め、鶏を交代で鳴かせることで休息時間を長くしていました。後にこの事が麻秋に発覚し、暴行を受けそうになったため、逃走してそのまま仙人になったと伝えられています。

参考文献

『晋書』巻106-107
『資治通鑑』巻095-98
* 『十六国春秋』巻42

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