雲林寺 (中津川市)

雲林寺（うんりんじ）

雲林寺は、かつて岐阜県中津川市苗木に存在した臨済宗妙心寺派の寺院で、天龍山を山号としました。苗木藩主であった苗木遠山氏の菩提寺として重要な役割を担っていましたが、明治3年（1870年）の苗木藩による廃仏毀釈によって取り壊され、廃寺となりました。

歴史

慶長19年（1614年）、苗木藩初代藩主の遠山友政が、武田勝頼の侵攻によって焼失した菩提寺・廣恵寺の代替として、新たな菩提寺の建立を発願しました。

当初、正傳寺の維天継縦を開山として招請する予定でしたが、高齢のため、代わりに梅龍寺八世で龍福寺二世でもあった夬雲玄孚が推挙されました。夬雲玄孚は梅龍寺と龍福寺の両寺を兼務し、本山妙心寺にも輪住していたため、雲林寺の創建は高弟の中華玄等に任せられました。

上棟式は、友政が大坂冬の陣で不在中の慶長19年に行われ、同年9月には方丈が完成しました。元和元年（1615年）、夬雲玄孚を開山として雲林寺が開かれました。寺号は、夬雲玄孚が「雲門臨済の禅風をこの地に振興せしむ」という意味を込めて命名したと伝えられています。

元和5年（1620年）には、雲林寺を開基した遠山友政が65歳で亡くなりました。友政は生前に夬雲玄孚から心月の法号を受けており、雲林寺殿心月宗伝居士という法名が贈られました。初代住持の中華玄等は友政の死の4ヶ月前に亡くなり、後継者がいなかったため、寺の法系は一時途絶えかけました。

しかし、龍福寺四世の一秀玄廣が三世として迎えられ、寺統が確立しました。一秀玄廣は、幼少の頃から秀才で夬雲の弟子となり、中華玄等の法姪にあたる人物でした。

その後、雲林寺は苗木藩から寺領を与えられるなど、手厚い保護を受けました。塔頭として正岳院と壽昌院が建立されたほか、苗木藩領内に17の末寺を開山しました。

魏海宗活

魏海宗活は、10歳の時に雲林寺三世の一秀玄廣の弟子となり、修行を積みました。若くして学識が高く、覇気に富んだ僧であったとされています。万治2年（1659年）には、雲林寺の五世として法統を継ぐことを嘱望されましたが、恩師である一秀玄廣の「臨済宗を苗木藩領内に布教する」という願いを果たすために、それを固辞し、一桂玄珠に五世を譲りました。

寛文2年（1662年）または寛文9年（1669年）には、故郷の田瀬村に曹源寺を建立しました。さらに寛文6年（1666年）には、尾張藩領であった付知村に宗敦寺を開山しました。曹源寺は個人的に建立した寺で、雲林寺への往来時の雨宿りや隠居所として利用されていたようで、小規模な寺院でした。しかし、理由は不明ですが、元禄9年（1696年）頃に取り潰されました。田瀬村の人々は、魏海宗活が開山した付知村の宗敦寺の檀徒となりましたが、後に下野村の法界寺の檀徒になりたいと苗木藩に願い出て、法界寺の預かり檀徒となりました。

廃仏毀釈による廃寺

江戸時代末期から明治初期にかけて、苗木藩では平田篤胤の復古神道の影響を受けた青山景通・青山直通親子が主導する、過激な廃仏毀釈運動が起こりました。藩主の遠山友禄は、青山景通の復古神道に心酔しました。

藩内の15の寺院のうち、14の寺院の住職は還俗することになりましたが、苗木遠山氏の菩提寺である雲林寺17世の剛宗宗戴のみは還俗を拒否しました。青山景通は、剛宗宗戴に5人扶持で教諭として雇用する条件で説得を試みましたが、これも拒否され、剛宗宗戴は黄金300両と苗木遠山氏歴代の位牌と仏具を受け取り、苗木藩の廃仏毀釈が及ばなかった下野村の法界寺の一室に移りました。

明治3年（1870年）8月15日、苗木藩は廃仏毀釈を実行し、雲林寺をはじめとする苗木領内の全ての寺院が取り壊され、廃寺となりました。剛宗宗戴は、その後、浅野剛宗と改名し、宝林寺が失われた蛭川村に移り、明治11年（1878年）には高徳寺を蛭川村に移転させる形で寺院を再興しました。その後、加茂郡佐見村の大蔵寺に転住しました。

雲林寺の関係諸品は各地に散逸し、本尊であった地蔵菩薩と什器は、下呂市の金錫山地蔵寺に移され、岐阜県の文化財に指定されています。「烏枢澁摩明王像」は、中津川市手賀野の松源寺に移されました。室町時代作の金銅の「誕生釈迦如来立像」は、正眼寺を経て東圓寺に所蔵されています。この像は、頭部が螺髪ではなく、天上天下を指す指が一本であること、腰紐を垂らしていることが特徴で、誕生仏としては最大級の作品です。

雲林寺跡地には、苗木遠山氏歴代の墓が残り、「苗木遠山家廟所」として中津川市の史跡に指定されています。

幕末期の様子

雲林寺の幕末期の様子は、剛宗宗戴の弟子で正岳院の住持であった祚田が語った内容が伝えられています。雲林寺は、大名寺として立派で格式が高く、方丈は9間×10間の板葺の建物で、通り仏壇や障子、欄間などがありました。玄関は2間半の通り廊下で、庫裏は7間×13間ほどの2階建てでした。庫裏の食堂は約40畳の広さで、冬は非常に寒かったとされています。書院は5間×6間で、天井は樟板張りでした。禅堂は簡素な建物で、「禅堂の小屋」と呼ばれていました。十三仏堂は2間半×3間の仏堂で、土蔵は3間×4間の建物でした。門には、7～8間ほどの高塀がありました。大門通りには、杉の大木が十数本ありました。雲林寺は、遠山家を大檀那とし、家中の藩士200余家を檀家としていました。常時、雲衲が7～8人、徒弟が7～8人、合わせて14人が住み、5人の僧侶が常住していました。

「興廃史」によると、雲林寺の屋根は根葺きで、赤壁であったとされています。「苗木明細記」には、大門は雲林寺への入口を指す名称だけで門はなかったと記されています。また、寺までの道の両側には杉や檜の大木が並んでいたと記されており、十三仏堂には仏像を安置し、家中の位牌が据え置かれていたとされています。寺の運営については、祚田によれば、領主から寺へ80石、住持へ20石、合計100石の黒印がつけられており、寺有田から30石ほどの収穫があったとされています。しかし、「苗木明細記」によると、寺領は14石余で、遠山家から寄付されたものであり、福岡村で5石4斗余、残りの9石余は日比野村郷蔵から与えられていたとされています。

歴代住持

開山　　夬雲玄孚 (元和8年3月25日入寂)
二世　　中華玄等 (元和5年8月18日入寂)
三世　　一秀玄廣 (寛文4年3月16日入寂)
四世　　玄外宗三 (寛文9年9月25日入寂)
五世　　一桂玄珠 (天和3年7月17日入寂)
六世　　浣渓祖俊 (元禄9年4月18日入寂)
七世　　泰傳慧祥 (元禄16年11月15日入寂)
八世　　桂峯秀英 (正徳2年6月16日入寂)
九世　　拙愿全驢 (正徳3年2月13日入寂)
十世　　鐵山宗育 (享保20年7月21日入寂)
十一世　獨仙守慎 (天明3年3月14日入寂)
十二世　實州玄苗 (明和4年5月22日入寂)
十三世　篆禮玄儀 (文化元年3月16日入寂)
十四世　大湛等慧 (文政6年10月19日入寂)
十五世　遂安宗寔 (天保2年7月19日入寂)
十六世　静山依松 (安政5年1月24日入寂)
十七世　剛宗宗戴(浅野剛宗) (明治34年7月19日入寂)

塔頭

正岳院

遠山家と雲林寺に対する諸用を取り次ぐ役割を担っていた寺院で、雲林寺から諸末寺や法類への連絡や応対も行っていました。創建時期は不明ですが、雲林寺三世の一秀玄廣の弟子の玄興が始めたものと推測されています。玄興は、美濃加茂市伊深の正眼寺を開山した僧で、正岳院と壽昌院も開山し、一秀玄廣を支えた人物でした。祚田によると、建物は9間×13間の一棟で、雲林寺の法要の際には宿坊として利用されたとされています。

壽昌院

苗木藩主2代遠山秀友の室である壽昌院殿桂室珠芳大姉のために建てられたとされています。また、一秀玄廣が隠棲した場所としても知られています。

末寺

恵那郡

苗木：正岳院・壽昌院
福岡村：片岡寺
高山村：岩松寺
下野村：法界寺
坂下村：長昌寺
蛭川村：寶林寺
中野方村：心観寺
姫栗村：長増寺

加茂郡

河合村：龍現寺
飯地村：洞泉寺
黒川村：正法寺
赤河村：昌壽寺
神土村：常楽寺
犬地村：積善寺
切井村：龍気寺
大沢村：蟠龍寺
佐見村：大蔵寺

苗木遠山氏関連寺院

廣恵寺

苗木遠山氏の菩提寺であったが、武田勝頼の侵攻によって焼失した寺院です。

参考文献

『中津川市史　中巻Ⅱ』中津川市 1988年
『八百津町史　史料編』八百津町史編纂委員会 1972年
『苗木の廃仏毀釈 : 苗木藩政改革の中で』中津川市苗木遠山史料館 2015年
『苗木藩終末記』東山道彦著三野新聞社 1981年

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