1974年の文学

1974年（昭和49年）は、日本の文学界および世界の文学界において、様々な動きが見られた一年でした。

主な出来事

1月16日: 前年下半期（1973年下半期）の第70回芥川龍之介賞および直木三十五賞の選考会が開催され、受賞作が決定しました。
4月16日: 岩手県江刺郡岩谷堂（現在の奥州市江刺区）にある向山公園に、日本を代表する文豪、川端康成ゆかりの地を記念する碑が建てられました。
5月25日: 東京にて、日本アジア・アフリカ作家会議の発足集会が開かれました。この集会には、中野重治や堀田善衛といった著名な作家たちが参加し、新しい作家組織の誕生を告げました。
6月20日: リチャード・バックのスピリチュアルな寓話『かもめのジョナサン』の日本語訳版が新潮社より刊行されました。この作品はその年の年間ベストセラーで総合第1位となるなど、大きな反響を呼びました。
9月23日: 評論家の花田清輝がこの世を去りました。
11月1日: 古田足日と田畑精一が手掛けた絵本『おしいれのぼうけん』が童心社から出版されました。この作品はその後長く読み継がれるロングセラーとなります。

主な文学賞の受賞作

1974年には以下の主要な文学賞が発表されました。

芥川龍之介賞・直木三十五賞
第70回（1973年下半期）
芥川賞：野呂邦暢『草のつるぎ』、森敦『月山』が受賞。
直木賞：この回は該当作品がありませんでした。
第71回（1974年上半期）
芥川賞：この回も該当作品がありませんでした。
直木賞：藤本義一『鬼の詩』が受賞。
その他の文学賞
谷崎潤一郎賞（第10回）：臼井吉見『安曇野』
泉鏡花文学賞（第2回）：中井英夫『悪夢の骨牌』
群像新人文学賞（第17回）：飯田章『迪子とその夫』、森本等『或る回復』、高橋三千綱『退屈しのぎ』の3作品が選ばれました。

1974年に刊行された主な書籍

小説・戯曲
安部公房『緑色のストッキング』（新潮社）
有吉佐和子『真砂屋お峰』（中央公論社）
井出孫六『アトラス伝説』（冬樹社）
河野典生『ペインティング・ナイフの群像』（新潮社）
素九鬼子『パーマネントブルー』（筑摩書房）、『大地の子守歌』（筑摩書房）
吉行淳之介『鞄の中身』（講談社）
ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』
その他
安部公房『発想の周辺』（新潮社）
清水哲男『水甕座の水』（紫陽社）
丸谷才一『日本語のために』（新潮社）
古田足日・田畑精一『おしいれのぼうけん』（童心社）
山田野理夫『東北怪談の旅』（自由国民社）
吉田健一『英国に就て』（筑摩書房）、『日本に就て』（筑摩書房）

1974年に死去した文学者

この年には、国内外の多くの著名な文学者たちが惜しまれつつ世を去りました。

1月10日：エドマンド・ブランデン（イギリスの詩人、文芸評論家、享年77）
1月11日：山本有三（栃木県出身の小説家、享年86）
7月4日：ジョージェット・ヘイヤー（イギリスの作家、享年71）
7月11日：ペール・ラーゲルクヴィスト（スウェーデンの作家、詩人、1951年ノーベル文学賞受賞者、享年83）
7月29日：エーリッヒ・ケストナー（ドイツの詩人、作家、享年75）
8月9日：細田源吉（東京市出身の小説家、享年83）
8月12日：中村白葉（日本のロシア文学者、翻訳家、享年83）
9月23日：花田清輝（福岡県出身の評論家、享年65）
10月21日：丸山薫（大分県出身の詩人、享年75）
11月19日：ルイーズ・フィッツヒュー（アメリカ合衆国の児童文学作家、享年46）
* 11月23日：コーネリアス・ライアン（アイルランド出身のアメリカ人ジャーナリスト、著述家、享年54）

1974年は、新たな文学賞の動向や話題作の登場がありつつも、多くのベテラン作家たちが亡くなるなど、文学史の上で一つの時代の区切りを感じさせる年でもありました。

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