2021年ターリバーン攻勢

2021年ターリバーン攻勢の概要

2021年ターリバーン攻勢は、2001年から続くアフガニスタン紛争において、アメリカ軍が2021年5月に撤退を開始したことに伴い、旧支配勢力であるターリバーンがアフガニスタン全土を制圧し、再び政権を掌握した一連の軍事作戦です。この結果、アシュラフ・ガニー政権は崩壊し、アメリカの支援を受けて進められてきたアフガニスタンの民主化プロセスは終わりを告げました。

背景

2020年 2月29日、アメリカのトランプ政権とターリバーンの間で和平合意が締結され、2021年5月までにアフガニスタンに駐留する外国軍は撤退を完了することになりました。トランプ大統領は10月7日には、アフガニスタン駐留米軍をクリスマスまでに全て撤退させる意向を表明しました。しかし、アフガニスタン政府軍とターリバーンの間の戦闘は継続しており、9月12日にはカタールで和平協議が行われましたが、両者の間には大きな隔たりがあり、交渉は停滞しました。

2021年1月にバイデン大統領が就任すると、3月には5月1日までの米軍撤退は困難と表明し、ターリバーンが反発。4月14日には、9月11日までに米軍を無条件で完全撤退させると正式に発表しました。

推移

アメリカ軍撤退開始

2021年5月1日、米軍が正式に撤退を開始しました。米軍とターリバーンの間では停戦が守られていましたが、アフガン政府軍とターリバーンの間の戦闘は継続していました。6月25日には、バイデン大統領とガニー大統領が会談し、アメリカはアフガニスタン政府への財政支援を約束しましたが、米軍撤退後の具体的な軍事支援については明確になりませんでした。

米軍の撤退は順調に進み、7月2日にはカーブル近郊の最大の拠点であるバグラム空軍基地からの撤収が完了しました。国防総省は、8月末までには米軍の撤退が完了するとの見通しを示しました。7月6日にはアメリカ中央軍が撤退が9割方完了したと発表し、7つの基地をアフガニスタン側に引き渡しました。7月8日、バイデン大統領は米軍の撤退を8月31日までに完了させると表明しました。同日、イギリスもNATO軍として駐留していた部隊の大半が撤収したことを発表しました。

ターリバーンの攻勢開始

米軍とNATO軍の撤退が本格化するにつれて、ターリバーンは攻勢を強めました。6月にはタジキスタンとの主要検問所であるシルハンバンダルを奪取し、6月下旬までに370の行政区のうち50以上を支配下に置きました。7月5日には、北東部の8つの行政区がターリバーンの支配下になったことをアフガニスタン治安当局が認めました。

7月7日には、北西部バードギース州の6つの行政区をすべて支配下に置き、州都カラエナウへの攻撃を開始しました。この時は政府軍が死守しましたが、その後もターリバーンは勢力を拡大していきました。7月9日には、アフガニスタンの85％を支配下に置いたと主張しました。

ターリバーンによる停戦提案

7月15日、ターリバーンは3ヶ月の停戦を提案しました。7000人の捕虜を釈放することや、国連のブラックリストからターリバーン幹部を除外することなどを条件としました。和平交渉が行われましたが、ターリバーンはガニー大統領の辞任を求めました。ガニー大統領はこれに応じませんでした。8月4日には、ターリバーンはガニー政権を認めず、暫定政府と憲法を作ることを要求しました。しかし、ガニー政権はあくまで現政権に加わるよう主張しました。

7月28日には、ターリバーンの広報担当者が女性の社会進出を容認する考えを示し、国際社会への印象を改善しようとする姿勢を見せました。

ターリバーンによる要人暗殺

8月3日には、カーブルで国防相や議員を狙った自動車爆弾攻撃と銃撃があり、少なくとも4人が死亡、20人が負傷しました。8月6日には、政府メディア情報局責任者が暗殺されました。

ターリバーン、全土掌握へ

7月21日、米軍はターリバーンがアフガニスタンの約半数の郡を支配していることを明らかにしました。8月7日には、初の州都となる南西部ニームルーズ州の州都ザランジュが陥落しました。その後、8月7日にはジョウズジャーン州の州都シェベルガーン、8月8日にはクンドゥーズ州とサーレポル州、8月9日にはタハール州とサマンガーン州、8月10日にはファラー州、バグラーン州、バダフシャーン州の州都を次々と制圧していきました。

8月11日には、ガニー大統領が北部の最大都市マザーリシャリーフを訪問しましたが、直後にクンドゥーズ州の州都クンドゥーズで政府軍数百人が投降しました。8月12日には、カーブルより150kmの距離にあるガズニー州の州都がターリバーンに制圧され、10の州都がターリバーンの手に落ちました。8月13日には、アフガニスタン第3の都市であるヘラートと、第2の都市でターリバーンの根拠地と位置づけるカンダハールを制圧しました。同日中には、バードギース州とヘルマンド州も制圧し、合計14州都がターリバーンの手に落ちました。

カーブル陥落

8月14日、ガニー大統領が数日前に訪問したマザーリシャリーフが、8月15日には東部ナンガルハール州の州都ジャラーラーバードがターリバーンによって制圧され、首都カーブルが目前に迫りました。8月15日、ターリバーンはカーブルに到達しましたが、指導部はカーブルの門には入らず待機するよう命じました。

ガニー大統領は国外に脱出し、ターリバーンはカーブルを掌握し勝利を宣言しました。ここにガニー政権は事実上崩壊し、アメリカなどの後ろ盾を得たアフガニスタンの民主化プロセスは破局を迎えました。アブドラ国家和解高等評議会議長はガニーの逃亡を批判しました。

パンジシール州の抵抗

パンジシール州は、ターリバーンの侵入を許さず抵抗を続けました。第一副大統領のアムルッラー・サーレハが暫定大統領を名乗り、抵抗勢力・民族抵抗戦線を組織しました。9月6日、ターリバーンはパンジシール渓谷を完全に制圧し、アフガニスタン全土を支配下に置いたと宣言しました。

アフガニスタンからの退避

米軍の撤退が進むにつれて、米軍への協力者が報復を受ける可能性が出てきたため、アメリカは協力者を国外に退避させる方針を発表しました。8月12日には、米大使館職員の国外退避のため、カーブル国際空港に兵士を派遣すると発表しました。各国も自国民と協力者の退避を進めました。

攻勢における戦略

ターリバーンは、アフガニスタン空軍の整備難と乗務員の維持難を利用してパイロットを攻撃したり、政府軍から武器を奪ったりしました。また、即席爆発装置（IED）を多用しました。ターリバーンは、南部拠点ではなく北部、西部に注力して各地の州都を制圧し、国境の要衝を押さえました。また、政府幹部や人権活動家、ジャーナリストなどを狙った殺害作戦を激化させました。

アフガニスタン政府軍は米軍への依存度が高く弱体化しており、兵士の士気も低いことが敗因とされています。

撤退に対する評価

ブッシュ元大統領はNATO軍の撤収を誤りだと非難しました。ガニー大統領は、アメリカが駐留部隊の撤退を突然決定したことが国内の治安悪化の原因だと非難しました。イギリスの国防相は、アメリカの撤退がターリバーンの復権に繋がり、アフガニスタンに大きな問題を生み出すと批判しました。

国内の反応

ターリバーンがアフガニスタン全土を掌握したことで、旧政権時代のようにイスラム法が厳格に適用されるのではないかとの恐怖が国民の間に広がりました。アフガニスタン選手団は、当初パラリンピックへの出場を断念しましたが、その後、出場できるようになりました。

国際社会の反応

中国はターリバーン政権との友好関係を発展させる用意があると表明しました。イギリスはターリバーン政権を承認する国が出ないことを望むと表明しました。ロシアはアメリカのアフガニスタン政策は失敗に終わったとの認識を示しました。トルコは、アフガニスタンを安定させるためにできる限りのことをすると述べました。サウジアラビアは、ターリバーンを含むアフガニスタンの全ての派閥に対して生命と財産を守るように要求しました。オマーンはアフガニスタンの同胞が侵略者を打ち負かしたことを祝福しました。日本は米国などの関係国と連携して対応していると発表しました。パレスチナのハマースはターリバーンの勝利を称賛しました。国連は敵対行為の即時停止を求めました。EUはアフガニスタンをテロ活動の拠点にしないことなどの基準をもとに新政権と関わっていく方針を確認しました。G7は、ターリバーンへの主要先進国全体での連帯した対応を模索しています。