良岑安世

良岑安世（よしみねのやすよ）は、平安時代初期の皇族であり、公卿としても活躍しました。桓武天皇の皇子として生まれましたが、生母の身分が低かったため、親王宣下を受けることなく成長しました。しかし、その才能は埋もれることなく、後に朝廷で重要な役割を担うことになります。

延暦21年（802年）には、良岑朝臣姓を賜与され臣籍降下し、ここから彼の公的なキャリアが始まります。平城朝では、衛士大尉や右近衛将監を歴任し、武官としての能力を示しました。嵯峨天皇の即位後には、従五位下・右近衛少将に叙任され、その武芸の腕前を活かしながら、側近としても活躍しました。

大同5年（810年）には、権右少弁、次いで左少弁に任じられ、弘仁2年（811年）には蔵人頭となり、天皇の側近としての地位を確立しました。その後も、弘仁3年（812年）には正五位下、弘仁5年（813年）には従四位下・左衛門督と急速に昇進し、弘仁7年（816年）には32歳で参議に任ぜられ公卿に列しました。

嵯峨朝では、『日本後紀』『内裏式』の編纂に参画し、文化事業にも貢献しました。特に『経国集』の編纂を主宰したことは、彼の文化的な才能を示すものです。また、弘仁13年（822年）には、河内国における税制に関する重要な上奏を行い、その行政能力の高さを証明しました。

弘仁14年（823年）には、淳和天皇の即位に伴い、正三位・右近衛大将に叙任され、皇太子・正良親王（後の仁明[[天皇]]）の春宮大夫も兼務しました。天長元年（824年）には、国司に関する新たな制度を提言し、その多くが採用されるなど、政治家としても手腕を発揮しました。特に、優秀な国守に複数の国を兼任させ、その属僚を推挙させる制度や、国司が推薦する優秀な郡領に叙位する制度は、彼の行政能力を示すものです。

天長5年（828年）には大納言にまで昇進しますが、天長7年（830年）に46歳で亡くなりました。没後、従二位が追贈され、嵯峨上皇はその死を悼んで挽歌を詠んだと伝えられています。

安世は、武芸に優れていただけでなく、学問にも熱心でした。若い頃から狩猟を好み、騎射を得意とする一方で、書物の読解にも長けており、初めて孝経を読んだ際には、儒教の教えに感銘を受けたとされています。さらに、歌舞や音曲などの伎芸にも通じており、天長2年（825年）の嵯峨上皇の40歳を祝う宴では、中納言という高官でありながら、自ら舞を披露したという逸話が残っています。

漢詩にも優れており、『凌雲集』に2首、『文華秀麗集』に4首、『経国集』に9首が収録されています。また、空海との親交も深く、『性霊集』には安世に贈られた詩が多数収められています。

良岑安世は、多岐にわたる才能を持ち、政治、文化の両面で平安時代初期の朝廷に大きく貢献した人物でした。彼の業績は、後世にまで影響を与え、その多才ぶりは今もなお多くの人々に語り継がれています。

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