アレグザンダー・マッケンジー (作曲家)

サー・アレグザンダー・キャンベル・マッケンジー：イギリス音楽ルネッサンスの中心人物

サー・アレグザンダー・キャンベル・マッケンジー（Sir Alexander Campbell Mackenzie KCVO, 1847年8月22日 - 1935年4月28日）は、スコットランド出身の著名な作曲家、指揮者、そして卓越した音楽教育者です。彼はヒューバート・パリー、チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードといった同世代の音楽家たちと共に、19世紀後半におけるイギリス音楽の復興、いわゆる「イギリス音楽ルネッサンス」において極めて重要な役割を果たしました。その作品は90以上に及び、特にオラトリオ、ヴァイオリンやピアノのための楽曲、そしてスコットランドの民謡や舞台音楽にインスパイアされた作品で知られています。しかし、彼のキャリアの中で最も特筆すべきは、36年間にわたりロンドンの王立音楽アカデミーの学長を務め、イギリスの音楽教育の発展に多大な貢献をしたことでしょう。

音楽家一家の伝統と初期教育

マッケンジーは、音楽の長い伝統を持つ家庭の一員として、スコットランドのエディンバラに生を受けました。曾祖父は陸軍の楽隊員、祖父ジョンはエディンバラとアバディーンでヴァイオリニストとして活動し、父アレグザンダーもヴァイオリニストであり、エディンバラ王立劇場の指揮者として活躍する傍ら、『スコットランドの伝統的舞踏音楽』を編纂するなど、彼は一家に連なる四代目の音楽家でした。幼い頃から驚くべき音楽的才能を示し、わずか8歳で夜には父のオーケストラに加わって演奏していたといいます。

さらなる音楽的研鑽のため、彼はドイツ、テューリンゲンのシュヴァルツブルク＝ゾンデルスハウゼンへ渡り、音楽家アウグシュト・バーテルの元に寄宿しました。地元の音楽院で1857年から1861年にかけて、K. W. ウルリッヒやエドゥアルド・シュタインに師事し、技術を磨きました。また、ヴァイオリニストとして公爵のオーケストラの一員となりました。その後、彼は父の師でもあったヴァイオリン教師プロスパー・セイントンに学びたいと強く望み、1862年にロンドンの王立音楽アカデミーに入学を果たしました。アカデミーではセイントンの他、学長のチャールズ・ルーカスから和声学を、フレデリック・ジューソンからピアノを学びました。入学後まもなく国王奨学金を得ましたが、経済的な収入を得るため、劇場やミュージックホールのピットバンドで演奏したり、高名な指揮者マイケル・コスタの演奏会で弾いたりもしました。これらの活動は時に勉学に影響を与えましたが、ピアノ試験で即興演奏を見事にこなして審査員を驚かせたという有名な逸話が残っています。アカデミー在学中から、彼の初期作品が演奏される機会がありました。

作曲家・指揮者としての足跡

1865年にエディンバラへ戻ったマッケンジーは、地元大学での教職や個人教授として多忙を極めました。1870年にはセント・ジョージ校の音楽科責任者となり、1873年にはスコティッシュ声楽組合の指揮者も務めました。また、ヴァイオリニストとして地域のオーケストラやバーミンガム音楽祭に参加し、そこでハンス・フォン・ビューローなど多くの著名な音楽家と知り合い、特にビューローとは親密な関係を築きました。1874年にはメアリ・マリーナ・バーンサイドと結婚し、娘メアリをもうけています。

この頃から管弦楽曲の作曲に力を入れ始め、成功を収めます。序曲「セルバンテス」は1879年にビューローの指揮で、2つのスコットランド狂詩曲は1880年と1881年にアウグスト・マンスによって初演されました。過労により健康を害したため、マッケンジーはイタリアのフィレンツェで静養することになりました。1885年の一年間を除き、1888年までフィレンツェに滞在し、この期間にフランツ・リストとの交流を深めつつ、作曲活動に専念しました。カンタータ「花嫁」や「イアソン」は高い評価を得、カール・ローザ歌劇団の委嘱による最初のオペラ「コロンバ」も成功しました。続くオペラ「トルバドゥール」は「コロンバ」ほどの成功には至りませんでしたが、リストはこの作品の主題に触発され、ピアノのための幻想曲を作曲しようと構想したといわれています。1885年のバーミンガム音楽祭では、高名なヴァイオリニスト、パブロ・サラサーテが彼のヴァイオリン協奏曲を初演しました。また、1885年から1886年にかけては、ロンドンのノヴェロ社が主催するオペラ演奏会の指揮者を務めました。リストが1886年に最後にイギリスを訪れた主な目的は、マッケンジーが指揮する自身のオラトリオ「聖エリーザベトの伝説」を聴くためだったとされています。

王立音楽アカデミーの改革者

1887年10月に王立音楽アカデミーの学長ジョージ・アレグザンダー・マクファーレンが死去した後、マッケンジーは1888年初頭にその後任として学長に就任し、1924年に引退するまで36年間その職を務めました。当時、アカデミーは新設された王立音楽大学に影を潜めがちでしたが、マッケンジーはアカデミーの復権と発展に尽力しました。幸いにも、王立音楽大学の学長ジョージ・グローヴ、そして後にその後任となるヒューバート・パリーといったライバル校の指導者たちから好意的な協力を得ることができ、両校は相互に協力し合う関係を築きました。マッケンジーはアカデミーのカリキュラムを全面的に見直し、教師陣を再編するなど組織改革を進める一方、自身も作曲指導や学生オーケストラの指揮を通じて学生と積極的に交流しました。1912年には、アカデミーをメイフェアの旧校舎からマーリバンに建てられた新校舎へ移転させるなど、施設の近代化も推進しました。しかし、学長としてのキャリア後半にはやや保守的な姿勢を見せるようになり、クロード・ドビュッシーやモーリス・ラヴェルの作品を学生が演奏することを禁じたこともありました。

多様な活動と国際的な評価

マッケンジーはアカデミーの運営と並行して、指揮者としても重要な活動を行いました。1892年から1899年にかけて、王立合唱協会やロイヤル・フィルハーモニック協会の指揮者を務め、ピョートル・チャイコフスキーやアレクサンドル・ボロディンの交響曲など、多くの外国作品のイギリス初演を手がけました。スコットランド民謡への愛着は深く、民謡の編曲集をいくつか出版しています。1903年にはカナダの民謡調査に関心を持ち、イギリス系カナダ人音楽家チャールズ・ハリスとカナダを巡る旅に出ました。この旅でカナダの音楽文化、特に各地で盛んに行われている合唱活動に強い感銘を受けました。

国際的な音楽家としても広く認められており、ドイツ語とイタリア語に堪能でした。1908年から1912年にかけては国際音楽協会の会長を務めました。幼い頃から演奏活動を通じて、クララ・シューマン、シャルル・グノー、アントニン・ドヴォルザーク、そして特にフランツ・リストといった当時の世界の音楽界をリードする多くの音楽家たちと親交を深めていました。アカデミーの経営に多くの時間を割かれたため、作曲に専念する時間が限られたことは否めませんが、ヴェルディやリストに関する著作を発表したり、ヴェルディのオペラについての公開講座を開くなど、学術的な活動も行いました。また、アルトゥール・サリヴァンやヒューバート・パリーといった同時代の作曲家たちが死去した後には、彼らの生涯や作品に関する記念講演を行い、特にサリヴァンの業績については、学術的な評価が高くなかった時期にも熱心に擁護しました。

作品とその歴史的位置づけ

オックスフォード・ナショナル・バイオグラフィー辞典では、マッケンジーの音楽は「国際的な様式だが、時代に照らすとやや古風であり、ビゼー、グノー、シューマンといったフランスやドイツの作曲家の影響がうかがえる」と評されています。彼の作品の多くは後進の作曲家の登場によって演奏機会が減ってしまいましたが、グローヴの事典は「彼および彼の同世代の作曲家たちは、19世紀末から20世紀初頭にかけてのイギリス音楽復興の基礎を築いた」として、その歴史的な重要性を認めています。

マッケンジーは90を超える作品を残し、そのうち約20作品はスコットランドの主題に基づいています。主要な管弦楽作品としては、序曲「セルバンテス」、ヴァイオリン協奏曲、ピアノ協奏曲「スコティッシュ」（1897年）、組曲「日々ロンドン」（1902年）、カナダ狂詩曲（1905年）などがあります。劇付随音楽も6作品作曲しており、「レイヴェンズウッド」やジェームス・バリーの「小牧師」などが含まれます。俳優ヘンリー・アーヴィングのために「コリオレイナス」に作曲した葬送行進曲は、アーヴィング自身の葬儀やマッケンジーの記念礼拝でも演奏されました。交響曲にも着手しましたが、これは未完成に終わりました。

声楽作品、特にカンタータやオラトリオによって、彼は最初に国民的な名声を得ました。カンタータ「花嫁」（1881年）はスリー・クワイア・フェスティバルで成功を収め、その初演では後に著名な作曲家となるエドワード・エルガーがヴァイオリンを演奏していました。エルガーは後にこの出会いを「私の音楽人生における一大事件」と述懐しています。カンタータ「イアソン」（1882年）も同様に好評でした。最もよく知られた声楽作品の一つは、ノリッジ音楽祭のために書かれたオラトリオ「シャロンのバラ」（1884年）で、旧約聖書の雅歌を基にしたテキストが使われています。1889年の「ユバルの夢」は、語りと合唱、オーケストラを組み合わせたユニークな形式の作品です。

オペラとしては、カール・ローザ歌劇団によって上演された「コロンバ」（1883年）が最初の成功作です。続く「トルバドゥール」（1886年）は「コロンバ」ほど成功しませんでした。批評家たちは、これらの大規模声楽作品やオペラの多くが、当時の著名な文学作品ではなく、台本作家に依頼したテキストを使用していたことが、後世に作品が顧みられなくなる一因であったと指摘しています。ただし、喜劇オペラ「国王陛下」（1897年）では、台本自体は批判されましたが、彼の音楽は「卓越しており、ユーモアに満ちている」と高く評価されました。

長年にわたる音楽界への貢献に対し、マッケンジーは国内外の多くの大学や学術団体から名誉を受けました。1895年にはナイトに叙され、自身が学長を務めた王立音楽アカデミーの創立100周年となった1922年にはロイヤル・ヴィクトリア勲章を授与されました。86歳の誕生日には、エドワード・エルガー、フレデリック・ディーリアス、エセル・スマイス、ヘンリー・ウッドら40名を超える著名な音楽家たちの署名が刻まれた銀のトレイが贈られています。マッケンジーは1924年にアカデミー学長を退任し、公の活動から身を引きました。サー・アレグザンダー・キャンベル・マッケンジーは、1935年4月28日にロンドンで87年の生涯を終えました。彼の回想録『ある音楽家の物語』には、「子どもとして、そして大人として過ごした人生全てを、イギリス音楽に捧げた」との言葉が記されています。

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