カラーウーン

カラーウーン：マムルーク朝を築いた不屈の英雄

カラーウーン（1220年頃 - 1290年11月10日）は、エジプトのマムルーク朝の第8代スルターンです。彼は、奴隷の身からマムルーク軍の有力者へと上り詰め、最終的にはスルタンの座に就きました。彼の治世は、マムルーク朝の歴史において重要な転換期となり、彼の死後もその子孫がスルタン位を継承する体制が確立されました。

生涯

出自と奴隷時代

カラーウーンは、現在のウクライナからカザフスタンにかけての草原地帯で活動していた遊牧民族キプチャクの出身でした。幼い頃に奴隷としてエジプトに売られ、マムルークの将校に買い取られました。その際、破格の高値である1,000ディナールで購入されたことから、「アル＝アルフィー（千）」という渾名で呼ばれるようになりました。この頃から、彼の非凡な才能と魅力は周囲の注目を集めていたと言えるでしょう。

軍人としての台頭

アイユーブ朝のスルターン・サーリフによって、カラーウーンはバフリーヤ軍団に編入されました。サーリフの死後、カラーウーンは同僚のマムルークたちと共に、アイユーブ朝のトゥーラーン・シャーの暗殺計画に加担しました。マムルーク朝が成立すると、彼はバイバルスに忠誠を誓いましたが、後にバイバルスから冷遇されるようになります。しかし、その間にも軍事的な手腕を発揮し、1266年には小アジアのキリキア・アルメニア王国への攻撃を指揮し、都市を破壊するなどの戦果を上げました。

スルターンへの道

バイバルスの死後、その息子バラカがスルタン位を継承しましたが、その治世は不安定でした。カラーウーンは、バラカを廃位し、自らスルタンに擁立されそうになりましたが、バイバルスのもう一人の息子であるサラーミシュを一旦擁立します。カラーウーンは、サラーミシュの摂政として国政を掌握し、自らの勢力を拡大していきました。1279年、ついにカラーウーンはマムルーク朝のスルターンに選出され、即位しました。

治世

モンゴルとの戦い

即位後、カラーウーンはモンゴルとの激しい戦いに直面しました。1280年、モンゴル軍がシリアに侵入し、アレッポを破壊しました。カラーウーンは軍を率いてモンゴル軍を撃退し、その勢力を一時的に食い止めました。その後も、モンゴルとの対立は続き、1281年にはホムスの戦いで勝利を収めました。これらの戦いを通じて、マムルーク朝の軍事的な強さを示すことができました。

キリスト教勢力との戦い

モンゴルとの戦いと並行して、カラーウーンは十字軍国家との戦いも進めました。1285年にはマルカブを占領し、1287年には交易港ラタキアを攻撃しました。1289年にはトリポリを包囲して攻略し、住民を拉致・殺害しました。彼の攻撃は徹底的であり、中東のキリスト教勢力に大きな衝撃を与えました。これらの戦いを通して、彼はマムルーク朝の領土を拡大し、その支配を盤石なものとしていきました。

内政と文化

カラーウーンは、内政にも力を注ぎました。国家機密やスルターンの意思を表す文書を司る文書庁を独立した政庁として改編し、行政組織の効率化を図りました。また、カイロ市内に総合病院、マドラサ（神学校）などから成る巨大な複合施設群を建設しました。中でも総合病院（アル＝マーリスターン・アル＝マンスーリ）は、当時としては最先端の医療施設であり、身分に関係なく誰でも利用することができました。彼はまた、エジプトの穀倉地帯の再開発や、アレッポ、バールベック、ダマスカスの城郭修復も行い、都市インフラの整備にも尽力しました。

貿易の振興

カラーウーンは、貿易を重視し、インド洋と地中海を結ぶ海洋交易を推進しました。パレスチナ、シリア沿岸、キリキア、アナトリアの諸都市と和平通商協定を締結し、セイロン島からの使節を厚遇しました。また、ヨーロッパの国々とも交易を推進し、特にヴェネツィア共和国とは密接な関係を築きました。これらの政策によって、マムルーク朝の経済は大きく発展しました。

晩年

晩年、カラーウーンはマクリア王国との紛争を調停しようとしましたが、失敗に終わりました。1290年、アッコン攻撃の準備中に陣没しました。彼の死後、息子のハリールがスルタン位を継承し、アッコンを陥落させ、十字軍勢力を一掃しました。

まとめ

カラーウーンは、奴隷の身からスルタンにまで上り詰めた不屈の英雄であり、マムルーク朝の繁栄に大きく貢献した人物です。彼は、軍事、政治、経済の各分野で卓越した能力を発揮し、マムルーク朝の歴史に大きな足跡を残しました。彼の築いた基盤は、後のマムルーク朝を支える重要な要素となったと言えるでしょう。

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