コムネノス家

コムネノス家とは

コムネノス家（ギリシア語: Κομνηνός, Komnēnos）は、東ローマ帝国（ビザンツ帝国）において1081年から1185年まで皇帝を輩出した名門貴族です。彼らはコムネノス王朝を築き、帝国を統治しました。その後、1204年には大コムネノス家がトレビゾンド帝国を建国し、1461年までその支配を続けました。ドゥーカス家、アンゲロス家、パレオロゴス家といった他の有力なビザンツ貴族との婚姻関係を通じて、コムネノス家は後期ビザンツ世界において非常に重要な家系となりました。

起源

コムネノス家の起源は、ミカエル・プセルロスによれば、トラキア地方のコムネという村であるとされています。14世紀の歴史家ヨハネス6世カンタクゼノスもこの地を「コムネノスの地」と呼んでおり、現代の歴史学においてもこの説が有力です。コムネノス家で最初に歴史に登場する人物は、マヌエル・エロティコス・コムネノスで、彼はパフラゴニアのカスタモヌに広大な封土を与えられました。この地は11世紀のコムネノス家の拠点となり、彼らは小アジアの有力な軍事貴族として台頭しました。コムネノス家はトラキア起源ですが、「東方」の家系とみなされるようになりました。

17世紀の学者シャルル・ドゥ・フレスネは、コムネノス家が古代ローマのコンスタンティヌス大帝の血筋であると主張しましたが、この説を裏付ける同時代資料は存在しません。また、1924年にローマ史家のゲオルゲ・ムルヌがコムネノス家をアルーマニア人起源であると主張しましたが、この説も現在では否定されています。現代の歴史家は、コムネノス家をギリシア人起源であると認識しています。

帝位獲得

コムネノス王朝の創始者であるイサキオス1世コムネノス（在位: 1057年 - 1059年）は、マヌエル・エロティコス・コムネノスの息子でした。彼はミカエル6世ストラティオティコスのもとで東方のストラトペダルクを務めていましたが、1057年にクーデターを起こして帝位につきました。彼は改革に着手しましたが、2年後の1059年に退位させられ、修道士となりました。1081年、イサキオス1世の甥であるアレクシオス1世コムネノスが皇帝となり、コムネノス家の皇帝支配が始まりました。それ以前に皇帝を輩出していたスケレロス家やアルギュロス家などの貴族は、婚姻を通じてジョージア、ロシア、フランス、ペルシア、イタリア、ドイツ、ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、セルビアなどに流出し、その影響力を失っていきました。このことも、コムネノス家が帝位を得る上で有利に働きました。

コムネノス家は、以前に皇帝を輩出していたドゥーカス家と頻繁に婚姻関係を結びました。アレクシオス1世は、コンスタンティノス10世ドゥーカスの娘エイレーネー・ドゥーカイナと結婚し、両家は融合しました。この結果、コムネノス・ドゥーカスという家名を名乗る者も現れ、この家系からは、パレオロゴス家、アンゲロス家、ヴァタツェス家、ラスカリス家といった著名な貴族が派生しました。例えば、アンゲロス家は、アレクシオス1世とエイレーネーの娘テオドラを通じてコムネノス・ドゥーカス家の血を引き継ぎ、後に皇帝に即位する根拠としました。テオドラの孫には、イサキオス2世アンゲロス（在位: 1185年 - 1195年、1203年 - 1204年）やアレクシオス3世アンゲロス（在位: 1195年 - 1203年）がいます。

コムネノス王朝

コムネノス朝の時代、ビザンツ帝国は繁栄し安定しました。アレクシオス1世は王宮をブラケルナエ地区に移し、アナトリアの大部分をセルジューク朝から奪還しました。また、第1回十字軍を招き寄せることでイスラム圏に対する防壁を築きました。コムネノス朝は十字軍にしばしば介入し、アンティオキア公国やエルサレム王国と婚姻関係を結びました。例えば、マヌエル1世コムネノスの姪のテオドラ・コムネナはエルサレム王ボードゥアン3世と、孫のマリア・コムネナはアモーリー1世と結婚しました。

アレクシオス1世は37年間在位し、息子のヨハネス2世コムネノスも25年間在位しました。ヨハネス2世の息子マヌエル1世も37年間在位しました。ビザンツ帝国の皇位継承においては、血統よりも個人の能力が重視されたため、コムネノス家からは多くの傍系の者が帝位につきました。マヌエル1世の後のコムネノス朝は混乱し、陰謀が絶えませんでした。コムネノス朝で初めて未成年の内に即位したアレクシオス2世コムネノスは、わずか3年でアンドロニコス1世コムネノスに簒奪されました。アンドロニコス1世も2年後にアンゲロス家のイサキオス2世アンゲロスに打倒され、イサキオス2世も弟のアレクシオス3世アンゲロスに退位させられました。その後、イサキオス2世とその息子アレクシオス4世アンゲロスは第4回十字軍の支援を受けて権力を取り戻しましたが、半年後にはアレクシオス5世ドゥーカスに殺害され、1204年にビザンツ帝国は第4回十字軍の攻撃を受け一時滅亡しました。

後裔

コンスタンティノープル陥落の直前、コムネノス家の一分家が故地のパフラゴニアに逃れ、そこから黒海東部のポントス山脈奥地に隠れました。そしてアンドロニコス1世の孫にあたる者が皇帝アレクシオス1世コムネノスを名乗り、トレビゾンド帝国を建国しました。この大コムネノス家は1461年まで250年以上にわたりトレビゾンドを支配しました。最後の皇帝ダヴィド・コムネノスはオスマン帝国のメフメト2世に敗れ、処刑されました。メフメト2世もまた、コムネノス家の後裔を自称していました。

また、1204年にはエピロス専制侯国を建てたコムネノス家も存在します。初代のミカエル1世コムネノス・ドゥーカスは、ビザンツ皇帝アレクシオス1世コムネノスの曾孫でした。この家系から出たテッサリアの君主ヨハネス1世ドゥーカスの娘ヘレナ・ドゥーカイナ・コムネナは、アテネ公ギヨーム1世ド・ラ・ロッシュと結婚し、フランク系国家のアテネ公国にもコムネノス家の血統が伝えられました。

マヌエル1世コムネノスの大甥にあたるイサキオス・コムネノスは、1184年にキプロス島で自立して皇帝を名乗りましたが、1191年にイングランド王リチャード1世に敗れ、キプロスはエルサレム王国領となりました。

ニカイア帝国では、アレクシオス3世アンゲロスの曽孫にあたるパレオロゴス家のミカエル8世パレオロゴスがラスカリス家を倒し、1261年にコンスタンティノープルを回復してビザンツ帝国を復活させました。それ以降、パレオロゴス家は1453年にオスマン帝国によってコンスタンティノープルが陥落するまで、2世紀にわたりビザンツ皇帝位を継承しました。

コムネノス家の最後の末裔は、一般にヨハネス・コムネノス・モリュヴドスとされています。彼はオスマン帝国のギリシア人学者・医者であり、1719年に死去しました。彼はトレビゾンドの大コムネノス家の子孫を称していましたが、この主張は偽りである可能性が高いとされています。

1782年には、コルシカ島のギリシア人デメトリオ・ステファノポリが、フランス王ルイ16世からトレビゾンド皇帝の末裔であると認める特許状を発行されています。イサキオス2世アンゲロスの娘イレーネー・アンゲリナはドイツ王フィリップと結婚し、その子孫を通じて、コムネノス家の血統は多くの西ヨーロッパの王族や貴族に受け継がれています。

コムネノス家は、東ローマ帝国史において、非常に重要な役割を果たした名門貴族であり、その影響は後世にも長く続きました。

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