パウルス4世 (ローマ教皇)

パウルス4世：厳格な改革者、そして憎まれた教皇

パウルス4世（1476年 6月28日 - 1559年 8月18日）は、ローマ教皇（在位：1555年 - 1559年）であり、本名はジョヴァンニ・ピエトロ・カラファです。カトリック対抗宗教改革への強い意欲を持っていましたが、その厳格すぎる性格が災いし、多くの敵を作りました。

生涯

反プロテスタント主義の強硬派

ジョヴァンニ・ピエトロ・カラファは、ナポリの名門カラファ家の一員としてベネヴェントで生まれました。伯父のオリヴィエロ・カラファ枢機卿の指導を受け、教皇庁に入りました。キエーティ司教、イングランド教皇特使、スペイン教皇大使、ブリンディジ大司教などを歴任し、スペインでの冷遇経験が、後の神聖ローマ皇帝兼スペイン王カール5世とハプスブルク家に対する不信感につながりました。

1524年、カラファは全ての聖職禄を辞し、ガエターノ・ティエーネと共にテアティノ会を創設し、初代総長となりました。しかし、1527年のローマ略奪により、テアティノ会はヴェネツィアへ退去、カラファもヴェネツィアへ逃れました。その後、教会改革の意見書をクレメンス7世へ送り、改革派の急先鋒として知られるようになりました。

改革教皇パウルス3世によってローマに戻ったカラファは、ガスパロ・コンタリーニ、レジナルド・ポールらと共に教会改革のための委員に任命されました。カラファの権力掌握は、人文主義的な教皇の時代が終わり、スコラ学とトマス・アクィナスの徒である彼の時代になったことを示しました。1536年に枢機卿に選出され、1542年にはローマの異端審問所所長に任命され、異端根絶とプロテスタントのカトリック復帰に厳しい手段をもって取り組みました。「異端であれば、たとえ自分の父親であっても火炙りにするだろう」と公言するほどでした。

プロテスタントへの強硬な態度は、マルティン・ルターらとの対話を重視するハト派のコンタリーニとは対立しました。1541年にプロテスタントとの和解を求めるカール5世の意向に反して、カトリックの路線を突き進みました。1545年から開会したトリエント公会議でも、コンタリーニと同じハト派と見たポールを非難し、1549年のパウルス3世死後のコンクラーヴェでは、教皇有力候補だったポールを落選に追い込みました。

1549年から1555年までナポリ大司教を務め、1555年、教皇パウルス4世に選出されました。

ハプスブルク家との対立

パウルス4世は、教皇庁が大国の思惑に左右される現状を改善しようとしましたが、ハプスブルク家とは犬猿の仲でした。1555年のアウクスブルクの和議に反対し、1556年のカール5世の皇帝退位と弟のフェルディナント1世即位にも反対、教皇の権威を増すべくフランス王アンリ2世と手を組み反スペイン同盟に与しました。

ネポティズムも行い、甥のカルロ・カラファを枢機卿に任命し、コロンナ家から奪った領土を与えるなどしましたが、カルロらの横暴が目に余るものであったため、反スペイン感情に引きずられ、スペインとの戦争に踏み切りましたが、1557年にスペイン軍がローマに進軍する事態を招き、教皇は和睦を余儀なくされました。カルロは解任され、他の甥達共々追放されました。

苛烈な異端弾圧

カラファ一族の追放後、パウルス4世は改革に邁進しましたが、その方法は異端審問を重視する恐怖政治でした。強烈な反ユダヤ主義者で、1555年には回勅によってローマのユダヤ人をゲットーに追い込みました。異端審問で告解を異端摘発や社会統制と捉え、異端告発が日常となり、修道院に属さない修道士は100人以上逮捕されました。禁書目録を制定し、デジデリウス・エラスムスの著書も禁書としました。

イエズス会とも軋轢を起こし、規則に介入しました。イングランド女王エリザベス1世に対しても冷淡で、王位の正統性に疑義を呈し、外交交渉を拒否しました。異端審問を強化し、反対する枢機卿たちを投獄するなど、強硬な改革を行いました。

システィーナ礼拝堂の壁画『最後の審判』に描かれた裸体を嫌悪し、腰巻を付け足させました。音楽家パレストリーナも解雇しました。

1559年 8月18日、83歳で死去。ローマ市民は教皇の死後、暴動を起こし、異端審問所を破壊し、教皇の銅像を破壊しました。パウルス4世の治世は、成果が何も無かった最悪の時代でした。死後、反対派のピウス4世が教皇に選出され、パウルス4世の政策の見直しが行われました。

しかし、パウルス4世はドミニコ会士のアントニオ・ギスリエーリを見出し、異端審問所長官に任命しました。ギスリエーリは後にピウス5世として教皇となり、対抗宗教改革に貢献しました。

日本人初のヨーロッパ留学生、鹿児島のベルナルドは1555年にこの教皇と対面しています。

脚注

参照資料参照

参考文献

インドロ・モンタネッリ・ロベルト・ジェルヴァーゾ著、藤沢道郎訳『ルネサンスの歴史下反宗教改革のイタリア』中央公論社、1982年。
P.G.マックスウェル・スチュアート著、月森左知・菅沼裕乃訳、高橋正男監修『ローマ教皇歴代誌』創元社、1999年。
マシュー・バンソン著、長崎恵子・長崎麻子訳『ローマ教皇事典』三交社、2000年。
学校法人上智学院新カトリック大事典編纂委員会編『新カトリック大事典第3巻』研究社、2002年。
ウィリアム・バンガート著、上智大学中世思想研究所監修『イエズス会の歴史』原書房、2004年。
アンドレ・シャステル著、越川倫明・岩井瑞枝・中西麻澄・近藤真彫・小林亜起子訳『ローマ劫掠 1527年、聖都の悲劇』筑摩書房、2006年。
学校法人上智学院新カトリック大事典編纂委員会編『新カトリック大事典第4巻』研究社、2009年。
アドリアーノ・プロスペリ著、大西克典訳『トレント公会議その歴史への手引き』知泉書館、2017年。
石鍋真澄『教皇たちのローマルネサンスとバロックの美術と社会』平凡社、2020年。