ミャンマーの歴史

ミャンマーの歴史：古代から現代までの激動の軌跡

ミャンマーの歴史は、多様な民族の興亡と、幾度もの王朝交代、そして植民地支配と独立、民主化への歩み、そして再び軍事政権という激動の時代を反映しています。この記事では、ミャンマーの歴史を概観し、その複雑な出来事を紐解いていきます。

ビルマ族の起源と初期王朝

ミャンマーの歴史は、エーヤワディー川流域を中心に展開してきました。10世紀以前には、複数の民族文化が栄えていた痕跡がありますが、ビルマ民族そのものの存在を示す明確な証拠は未だ発見されていません。現在の研究では、ビルマ民族がエーヤワディー川流域に出現したのは11世紀のパガン朝以降だと考えられています。その起源は、中国青海省付近に居住していたチベット系の氐族に求める説が有力です。隋の攻撃によって滅んだ仇池王朝の後、一部の氐族は雲南省の南詔に属し、後にパガン朝を築く礎となりました。一方、ミャンマー南部では、モン族が都市国家を形成し、海上交易で栄えていました。北部では、7世紀にピュー人がピュー（驃）を建国しましたが、9世紀に南詔に滅ぼされた結果、エーヤワディー平原は一時的に無人の地となりました。その後、9世紀頃にはモン族のタトゥン王国が興隆しました。

パガン朝と続く王朝争乱

11世紀、南詔の支配下にあったビルマ族がエーヤワディー平原に進出し、パガン王朝を建国しました。小さな都市国家から始まったパガン王朝は、1057年にはタトゥン王国を滅ぼし、勢力を拡大しました。しかし、13世紀にはモンゴルの侵攻を受け、1287年のパガンの戦いで敗北し、1314年に滅亡しました。その後、下ビルマにはモン族のペグー王朝、上ビルマにはシャン族のピンヤ朝やアヴァ王朝が興り、長きに渡り勢力争いを繰り広げました。1385年から続く40年戦争は、ミャンマー全土を巻き込む内戦となり、新たな王朝の誕生と衰亡を繰り返しました。

タウングー朝とコンバウン朝の統一

1486年、パガン王朝の遺民によってタウングー王朝が建国されました。ポルトガルの傭兵を活用したタウングー王朝は、タビンシュエーティー、バインナウンらの治世の下、ペグー王朝やアヴァ王朝を併合し、勢力を拡大しました。しかし、17世紀には衰退し、再びモン族やシャン族が台頭しました。1752年、アラウンパヤーがモン族・シャン族の再興ペグー王朝を撃退し、コンバウン王朝を樹立、ビルマを再統一しました。清との間で起こった清緬戦争（1765年-1769年）では、ビルマは勝利を収めました。タイのアユタヤ王朝滅亡後、ビルマの属国となっていたタイは、その後、トンブリー王朝、チャクリー王朝と続き、イギリスとの親密な外交関係を築き、独立を維持しました。

イギリス植民地時代と独立運動

コンバウン朝ビルマは、イギリス領インドとの摩擦から、3度にわたる英緬戦争を起こしました。その結果、ビルマはアッサム、マニプール、アラカン、テナセリムなどをイギリスに割譲し、国土の多くを失いました。イギリスは、インド人や華僑を積極的に利用し、ビルマ人を最下層に抑圧する民族分割統治政策を実施しました。この政策は、ビルマ人と山岳民族との間の対立を生み出し、後の民族紛争の遠因となりました。1885年の第三次英緬戦争でコンバウン王朝は滅亡し、ビルマはイギリス領インドの一部となりました。

その後、ビルマでは、第一次世界大戦後から独立運動が盛んになり、タキン党など様々な民族主義組織が結成されました。1942年、日本軍の進攻によりイギリス軍がビルマから撤退し、日本の傀儡政権であるビルマ国が成立しました。しかし、日本敗色の濃厚となった1944年には、アウンサンを中心とした反ファシスト人民自由連盟（AFPFL）が結成され、イギリス側に寝返ることで、ビルマは再びイギリス領となりました。

独立と内戦

1947年、アウンサンが暗殺された後、ウー・ヌを首相とするAFPFL政権が、1948年にイギリス連邦を離脱し、ビルマ連邦として独立しました。しかし、独立直後から、カレン族など様々な民族による独立運動が勃発し、内戦状態に陥りました。この内戦は、中国国民党軍の残党やビルマ共産党など、複数の勢力が関与する複雑なものでした。また、アヘン貿易が、内戦の重要な資金源となりました。

軍事政権時代

1962年、ネ・ウィン将軍が軍事クーデターを起こし、軍事政権が樹立されました。ネ・ウィンは、ビルマ式社会主義を掲げ、独裁体制を敷きました。この時代、ミャンマーは経済的に停滞し、インフレに苦しみました。1988年の民主化運動は弾圧され、クーデターにより再び軍事政権が誕生しました。アウンサンスーチー率いる国民民主連盟（NLD）は、1990年の総選挙で圧勝しましたが、軍政は結果を無視し、民主化運動は長期にわたって弾圧されました。

民主化への歩みと再び軍事クーデター

2011年、テイン・セイン大統領のもとで民政移管が行われ、アウンサンスーチーも自宅軟禁を解かれました。2015年の総選挙ではNLDが圧勝し、事実上スー・チーが政権を握ることとなりました。しかし、2021年2月1日、軍はクーデターを起こし、スー・チーらを拘束、再び軍事政権が樹立されました。これを受け、国内では大規模な抗議デモが展開され、国際社会からも強い非難を受けました。

宗教対立とロヒンギャ問題

ミャンマーでは、仏教徒が多数を占める一方、イスラム教徒、特にロヒンギャの人々が迫害を受けてきました。ラカイン州を中心としたロヒンギャ問題や、宗教対立は、ミャンマーの深刻な課題であり、現在も解決には至っていません。

ミャンマーの歴史は、民族対立、宗教対立、そして軍事クーデターと民主化運動が繰り返される、複雑で悲劇的な側面を持つものです。今後のミャンマーの未来は、これらの問題とどう向き合っていくかによって左右されるでしょう。

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