依田氏

依田氏（よだし）

依田氏は、清和源氏（多田源氏）の流れを汲む日本の氏族です。『尊卑分脈』によれば、源満仲の弟である源満快を祖とします。依田という名は、信濃国小県郡依田荘（現在の長野県東部）に由来します。

出自

依田氏の祖は、源満快の曾孫である源為公とされています。為公は信濃守となり、現在の長野県上伊那郡箕輪町上ノ平に居館を構え、南信濃に広がる信濃源氏の祖となりました。為公の六男である依田六郎為実が、東信濃の小県郡に依田城を築き、ここを本拠地としたのが依田氏の始まりとされています。

江戸幕府が編纂した『寛永諸家系図伝』には、源経基の嫡男である源満仲を祖とする家系も存在すると記されています。この説によれば、満仲の次男である源頼親の直系である親治が大和国宇野に住み、その子である有氏が信濃国に下向し、小県依田に築城して依田を称したとされています。ちなみに、頼親の弟である頼信は、新田氏、足利氏、武田氏などの祖となりました。

出自補遺

国史における「依田」の最古の記述は、『日本書紀』の第七段一書（三）に登場する、素戔嗚尊（スサノオ）が所有する土地の一つ「天川依田」です。次に古い記述は、『続日本紀』の神護景雲二年十二月紀に見られる「土佐國土佐郡人神依田公名代等四十一人賜姓賀茂」です。歴史学者の山本大氏は、「郡頭神社」において、神依田は地名の神田（こうだ）を表すと説明していますが、明治30年に刊行された国史体系では、神依田に「かん　よだ」とルビが振られています。

系譜学者の太田亮氏は、神依田公を依田氏と認め、「三輪氏の族」と説明しています。著書『姓氏家系大辞典』によれば、三輪氏は「出雲の神の嫡裔と伝えられ、大国主命譲国の後は、出雲神族中の嫡流たりしが如し。大和国磯城郡三輪山を根城とし、大三輪の神、即ち大物主神を奉斎して、威を近隣に奮いき」とされています。

史家の志賀剛氏は、著書「式内社の研究」において、奈良県城上郡の式内社「宇太依田神社」を解説する際に、「続日本紀に『土佐国人神依田公（みわよりた）』が見えるが、あるいはここの依田の出自であったのであろう。この神（みわ）は大三輪を指すであろうから備前の地は大三輪の神戸（かんべ）であったかもしれない」と記しています。宇太依田神社周辺を土佐国人神依田公の出身地とする志賀氏の説に対して、『奈良県史』は「明確し難い」と論駁しています。一方、系図学者の宝賀寿男氏は、神依田公を都佐国造の族裔としています。

太田氏は、信濃国小県郡依田より起こった依田氏は、科野国造の後裔の金刺氏流と説いています。金刺氏は、多氏の流れであり、多氏は神武天皇の第二皇子、神八井耳命の後裔とされています。

大正11年に発行された『小県郡史』では、小県郡の武家を時系列的に解説する際に、まず最初に他田氏、次に滋野氏、その次に依田氏が起こったと説明しています。依田氏より先に起こった、他田氏、滋野氏をともに依田氏の祖と見做す説があります。長野史学会会長を務めた郷土史家の一志茂樹氏は、「依田氏は、（後述の通り、神武天皇の後裔）他田真樹の後裔」との説を唱えています。その一方で、日本家系協会が刊行した「依田一族」（武田光弘編集）においては、「平安時代後期に、海野荘の庄官に海野小太郎幸経（幸高）という者が居り、その子孫が海野氏、禰津氏、望月氏に分れ、海輪氏（誤字・本文ママ）からは真田氏が出たが、その前に依田氏の系が分出していたということになる」との説が展開されています。

歴史

平安時代

為実の子である依田次郎実信は、治承4年（1180年）に源義仲に依田城を明け渡し、義仲は依田城にて挙兵しました。依田氏も他の信濃武士と共に源義仲軍に加わり上洛しました。倶利伽羅峠の戦いでは、源平盛衰記に「宇野彌平四郎行平」「余田次郎」「円子小中太」の名が見られ、それぞれ海野彌平四郎行平、依田次郎、丸子小中太を指すとされています。依田（余田）次郎らは、木曽義仲軍の最右翼である北坂口の軍路に進攻を命じられました。義仲は、後白河法皇の庇護を巡り、源頼朝、源義経と対峙し、寿永3年（1184年）に近江国粟津で討ち死にしました。これに伴い、依田氏は依田庄を失い、一族は各地に散ったとされ、一部は近隣の飯沼の地に残留して飯沼氏と称しました。依田氏と義仲については、初代の依田為実の母が源義賢（義仲の父）の娘だった縁があるとされています。

鎌倉時代

源頼朝は、義仲の勢力を掃討するために、義仲の拠点となった塩田庄へ、島津氏の祖である惟宗忠久（島津忠久）を地頭として送りました。鎌倉幕府は、義仲が拠った依田城のある依田庄に対しては、将軍源実朝の代に、源氏と深い縁がある八田氏（のちの茂木氏）を地頭職に命じました。鎌倉幕府成立後は、依田庄を失うなど勢力を削がれていましたが、まもなく得宗家の家臣として勢力を回復したとする説があります。得宗被官化を唱える説では、正安2年（1300年）に、得宗被官あるいは御内人であった大蔵宣時と同等の扱いで、依田五郎左衛門行盛が、鎌倉幕府執権の遣いとなって九州へ出向した史実に重きを置いています。行盛の弟である朝行は官名・中務丞を授かり、鎌倉幕府の奉行衆・評定衆を務めました。

南北朝時代・室町時代

鎌倉幕府滅亡後、足利尊氏の興隆に疑心を抱いた後醍醐天皇は、皇子の護良親王を征夷大将軍に任命しました。南北朝時代から室町時代にかけて、依田氏から幕府評定衆・奉行衆・奉公衆に少なくとも9人が就いています。足利尊氏の代においては、依田中務大夫入道元義（幕府奉行）、座衛門尉貞行（幕府奉行）、足利義詮・足利義満の代には、左近大夫時朝（評定衆）、足利義持の代には、座衛門大夫秀□（幕府奉行）が就いており、その後は、中務丞秀朝（幕府奉行）、中務丞光朝（幕府奉行）と続きました。奉公衆には、依田九郎、依田孫九郎が就いています。

応永9年（1402年）、室町幕府は信濃国を幕府料国と定めて、幕府奉行人の依田左衛門大夫季□ほか１名を代官として下向させました。

室町時代前後から、在地の依田氏は、佐久郡の平原などに進出し、平尾氏、平原氏等を名乗りました。

戦国時代

信守は、天文18年（1549年）、居城を芦田城から春日城に移し、永禄3年（1560年）に武田氏へ正式に臣従しました。武田氏は、佐久郡平定後に東北信濃を制圧し、さらに西上野に進出しました。武田信玄は、永禄9年（1566年）、北条氏に備えるために、武蔵国堺にある上野国の浄法寺を芦田信守に与え周辺を知行地としました。「武田三代軍記」等が示す通り、下野守信守は、武田氏の有力な信濃先方衆となりました。

信守の子である信蕃の代に武田氏が滅亡すると、信蕃は徳川氏の庇護下に身を寄せました。本能寺の変により信濃の織田勢力が瓦解し、旧武田領が徳川・北条・上杉の争奪地となると（天正壬午の乱）、信蕃は当初は後北条氏に属し、その後徳川氏に属して佐久地方で活躍しました。

安土・桃山時代

徳川家康は、天正11年（1583年）に信蕃の嫡男である竹福丸を浜松城に呼び、松平姓を授けると共に、諱である「康」の一字を与え、松平源十郎康國と名乗らせました。康國は、佐久の本領6万石に加え、駿河2万石、甲斐国2万石の合わせて10万石の大名となりました。康国は天正13年（1585年）の第一次上田合戦で初陣を果たすと、丸子城攻略に手柄がありました。天正18年（1590年）には、相木白岩に挙兵した、依田能登・伴野刈部を破り、伴野刈部の首級を取りました。同年、康國は石倉城で戦死を遂げました。

江戸時代

康国の死後は弟である康真が家督を相続し、徳川家の関東移封に伴って武蔵国榛沢郡と上野緑野郡に3万石を与えられ、藤岡城主となりました。しかし、慶長5年（1600年）に同僚を殺害してしまい、高野山に蟄居し藤岡藩3万石は改易となりました。その後、越前福井藩主となった松平秀康に仕え、加藤康寛と改名し、越前国木本5000石を与えられました。子孫は芦田姓を名乗りました。

佐久市八幡の依田家は、長野県屈指の地主であり、農地解放が実施されるまで長野県の高額納税者1位の常連でした。

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