信濃村上氏

信濃村上氏

信濃村上氏は、戦国時代の武将・村上義清を輩出したことで知られる、河内源氏の流れを汲む一族です。その歴史は、平安時代に遡り、各地で様々な活動を展開しました。ここでは、その詳細な歴史と系譜を紐解きます。

出自

村上氏の始まりについては諸説があり、確かなことは分かっていません。『尊卑分脈』によれば、最初に村上姓を名乗ったのは源頼信の孫である源仲宗とされています。しかし、別の説では、仲宗の父・源頼清、あるいは仲宗の子である顕清や盛清が最初だとされています。村上氏を名乗ったことが確実なのは、盛清と顕清の子である宗清・為国からです。

この時期の系譜

源頼信 - 源頼清 - 源仲宗 - 源顕清（または源盛清）

仲宗の後継については、嫡男である惟清が呪詛事件で廃嫡されたため、惟清の養子となった盛清が継いだとする説と、次男の顕清が継いだとする説があります。

信濃との関係

藤原宗忠の『中右記』によると、仲宗は息子たちと共に白河上皇に仕えていましたが、1094年、嫡男の唯清が上皇を呪詛したとして伊豆大島に流罪となり、その父や兄弟にも処分が下されました。

父の仲宗：周防国に配流
弟の顕清：越前国に配流
弟の仲清：阿波国に配流
弟の盛清：信濃国に配流

この時、盛清の配流先が更級郡村上郷であったとされ、顕清も後に村上郷に住んだとする説があります。

村上姓の由来

村上姓は、信濃国更級郡村上郷の地名に由来するとされています。盛清や顕清が村上姓を名乗った根拠であり、その父・仲宗が名乗っていたとしても、上皇への呪詛が発覚する前に仲宗が村上郷に所領を持っていた可能性があります。また、越後に配流された顕清が後に村上郷に移ったとする説もあり、村上郷が仲宗の一族にとって縁のある場所だったと考えられます。一方で、源頼清が村上天皇の皇子・為平親王から村上姓を賜ったとする説もありますが、確証は得られていません。

信濃村上氏 (満快流)

源満快の曾孫で信濃国司となった源為公の子、源為邦（村上為邦）は、頼清流村上氏からの養子で、夏目氏などの祖となりました。

平安時代

保元・平治の乱

越前に配流されていた顕清の次男・村上為国とその子である信国と基国は、保元の乱で崇徳上皇に味方して参加しました。敗戦後、兄弟の生母が後白河天皇の側近・藤原通憲（信西）の娘であったことから赦免されました。平治の乱では、藤原通憲（信西）方につき勝利しました。為国は、叔父の村上盛清の養子となっていますが、顕清の後を継いだ兄の宗清も「村上蔵人」を称していたことから、養子になる以前から村上姓であったと考えられます。為国の弟・盛国は波多判官代となり、筑摩郡波多郷に拠りました。

この時期の系譜

仲宗 - 顕清 - 為国

仲宗 - 盛清 ＝ 為国 - 信国

治承・寿永の乱

為国親子は、信濃国の木曽地方で挙兵した源義仲軍に参加し、上洛しました。しかし、義仲と後白河法皇が対立すると法皇方に味方し、法住寺合戦で義仲軍と戦い敗北。基国が戦死しました。その後、源頼朝が義仲討伐の軍を起こすとそれに参加し、平家追討にも参加しました。

鎌倉時代

鎌倉時代の村上氏の立場

同じ河内源氏の出でありながら、源頼義・源義家父子の系統ではなかったため、守護などには任命されず、一御家人という地位に留まりました。鎌倉幕府の実権が北条氏に移ると、北条氏と血縁や姻戚関係のない村上氏は幕府の中枢から忘れ去られました。しかし、幕府の造営費用を求められた際には、信濃国に住む村上判官代跡、村上馬介、庶流の波多判官代跡、出浦氏らが納めています。

この時期の家督相続

村上為国 - 信国 - 安信 - 信村 - 胤信 - 信泰

鎌倉幕府倒幕と村上氏

鎌倉時代末期の当主・村上信泰は、幕府内で忘れられた存在でした。村上氏は鎌倉幕府に対して恩顧の意識はなく、幕府に不満を募らせていたと思われます。一族の村上義日は、元弘の乱で護良親王に従い、吉野城の戦いで戦死しました。義日は『太平記』では「村上義光」として描かれ、護良親王の身代わりとなって腹を切ったとされています。明治時代には神格化され、鎌倉宮村上社の主祭神となりました。

建武の新政と村上氏

義光・義隆父子の後、信泰の子・村上信貞が家督を相続し、信濃国での権益を認められ、「信濃惣大将」と称されました。中先代の乱では、信貞は鎮圧軍の主力として北条与党と交戦しました。

南北朝時代

南北朝争乱と村上氏

足利尊氏が天皇に謀反を起こすと、村上義貞は足利直義軍に加わって新田義貞軍と戦いました。その後も北朝方として活動し、信濃国内の北条与党の討伐に尽力しました。しかし、村上氏全てが北朝方だったわけではなく、村上義光、義隆父子の系統は南朝方として活動しました。伊予国を中心に瀬戸内海で活動した村上氏は、村上水軍として知られています。その村上水軍を味方にするために、後醍醐天皇は村上義武を派遣し、その子、義弘が水軍の村上氏を相続したとされています。この時期の村上氏は、信濃では北朝方、瀬戸内海では南朝方として活動していました。

室町時代

幕府との対立

村上信貞の後は、その子・村上師国、そして師国の子・村上満信と続きます。師国・満信父子は、幕府が村上氏の勢力を認めず守護職に任命しなかったため、幕府に不信感を持ち、幕府が任命した守護を排斥する動きを見せました。幕府は斯波義将を信濃守護に任命して村上氏を抑え込もうとしましたが、村上氏の抵抗を抑えることはできませんでした。満信の時代には、小笠原長秀率いる守護軍と村上氏を始めとする国人勢力が激突し、小笠原勢は撃滅され、長秀は京都に逃亡しています。その後、幕府は代官として細川慈忠を派遣し、満信らの反乱は鎮圧されましたが、村上氏は国人の盟主として一定の役割を果たしました。

村上氏の衰退？

上杉禅秀の乱をきっかけに、小笠原政康が信濃国の軍事指揮権を掌握し、幕府に認められ信濃守護職に任命されました。その結果、村上氏の勢力は相対的に弱まり始めました。満信以降、村上中務大輔が反守護の中心となりましたが、小笠原氏との戦いに敗れ、史料から姿を消しました。この頃には、村上氏の衰退が始まっていたと考えられます。

村上頼清と関東の戦乱

村上中務大輔に代わって登場したのは、村上頼清です。頼清は将軍足利義教に出仕しましたが、足利持氏と上杉憲実の対立によって永享の乱が勃発すると、村上氏も小笠原政康に従い出陣しました。

この時代の系譜

村上信泰 - 信貞 - 師国 - 満信 - 中務大輔（持清？）→村上頼清

村上氏の系図の混乱

中務大輔が満信の子であるかどうかも不明であり、頼清に関しても史料的な裏付けが乏しいなど、この時期の村上氏の系譜は混乱しています。これは、この時期の村上氏の存在意義と勢力が衰退していたことを示唆しています。

小笠原氏の内紛と村上氏の再興

小笠原政康の死後、小笠原氏惣領職をめぐって内紛が起こり、国人衆も二派に分裂しました。その戦乱の中で村上氏は勢力を回復させ、小笠原氏を尻目に北信濃を手中に収めていきました。この当時の当主は、頼清の子または孫と思われる政清でした。政清は享徳の乱では反幕的な態度を取り、高梨政高を支援しました。また、海野氏の領地を奪い、善光寺平にも進出しました。

戦国時代

戦国大名としての躍進と没落

村上政清、政国父子は海野氏幸を討ち、勢力を拡大しました。政国の子・村上顕国は、佐久郡の有力豪族大井氏を服属させ、甲斐国の武田氏と対立しました。村上義清の時代には、佐久郡を武田信虎に奪われましたが、海野平の戦いで滋野氏一党を駆逐しました。また、武田信玄との抗争では高梨氏と手を結びましたが、最終的には敗れて北信濃を追われることになりました。その後、義清は上杉謙信の客将となりましたが、失地回復は叶いませんでした。

安土桃山時代・江戸時代

義清の子・村上国清（山浦国清）は、武田氏滅亡後に一時的に信濃に復帰しましたが、上杉氏の家臣としての立場でした。国清は、上杉景勝に内通を疑われ、没落して歴史から姿を消しました。国清以降の信濃村上氏については諸説あり、定かではありません。

現在の村上氏

村上氏は全国でも上位にある大族ですが、多くは瀬戸内海地方に分布しており、信濃の村上諸氏の子孫はそれほど多くありません。2005年には長野県坂城町で「村上サミット」が開催されました。

信濃村上氏の後裔となる氏族

屋代氏（矢代氏）、平地氏、滝沢氏、東条氏、室賀氏、雨宮氏、清野氏、安川氏、波多氏、百瀬氏、上条氏、下条氏、飯田氏、島本氏、福沢氏、出浦氏、小野澤氏、力石氏、山田氏、平屋氏、今里氏、二柳氏、小野氏、岡田氏、古池氏(小池氏)、小泉氏、三川氏、牧島氏、吉田氏、安藤氏、上野氏、西川氏、林氏、栗田氏、千田氏、山浦氏、吾妻氏、倉科氏、塚田氏、福島氏など。

系譜

<平安時代後期‐南北朝時代>　　　※ 太線は実子、細線は養子。

源頼清
　　┃
　 仲宗
　 ┣━━━┓
　 顕清 仲清
　 ｜　　　┣━━━┓
　 為国 盛満 宗清
　　　　　　┃
　　　　 村上為国
　 ┏━━━╋━━━┳━━━┳━━━┓
　 信国 泰遠 　 安信 経業 基国
　 ┃　　　┃　　　┃　　　┃　　　┃
　 信実 信次 　 信村 頼時 惟基
　　　　　　┃　　　┃
　 惟信 　 胤信
　 ┏━━━━━━━┻━━━━━━━┓
　 信泰 義康
　 ┣━━━┳━━━┓　　　 　　　┃
　 義光 国信 　 信貞 　 房義
　 ┣━━━┓　　　┣━━━┓　　　┃
　 朝日 義隆 　 師国 師貞 義久
　　 　　　　┃　　　 　　　┃
　 満信 　 貞代
　　 　　　　 ┃
　 宗康

<室町時代中期‐戦国時代>

村上頼清
　　┃
　系不詳
　　┃
　 政清
　　┃
　 政国
　　┃
　 顕国
　　┃
　 義清
　 ┣━━━┳━━━┳━━━┳━━━┓
　 義勝 義利 　 義照 義邦 国清（山浦景国）
　　 　　　　 ┃
　 山浦上杉家へ

脚注

参考文献

海老名尚、福田豊彦「「田中穣氏旧蔵典籍古文書」「六条八幡宮造営注文」について」『国立歴史民俗博物館研究報告』第45巻、国立歴史民俗博物館、1992年12月、345-398頁、NAID 120005747900。
田中豊茂『信濃中世武家伝 : 信濃武士の家紋と興亡』信濃毎日新聞社、2016年11月。ISBN 9784784072989。
長野県『長野県史』 通史編 第3、長野県史刊行会、1987年3月。全国書誌番号:91028855。

関連項目

信濃源氏
* 村上氏

もう一度検索