劉翔 (前燕)

劉翔（りゅう しょう）

劉翔（生没年不詳）は、五胡十六国時代の前燕に仕えた人物です。字は不明で、平原郡の出身とされています。

生涯

永嘉の乱を避けて王浚に仕えましたが、その人物に見切りをつけ、段部へ鞍替えをしました。しかし、段部もまた自身の理想とする主君像とは異なると感じ、多くの流民を引き連れて慕容部の首領である慕容廆（ぼよう き）に帰順しました。

318年、慕容廆によって主薄（しゅぼく）に任じられ、政権における儀式の制度を制定する役割を担いました。333年に慕容廆が亡くなると、子の慕容皝（ぼよう こう）が後を継ぎ、劉翔は功曹（こうそう）・長史（ちょうし）と昇進を重ねました。

338年、後趙の石虎（せきこ）が大規模な軍勢で前燕に侵攻すると、前燕の多くの城が内応し、後趙に帰順しました。しかし、慕容恪（ぼよう かく）らの活躍により後趙軍は撤退し、慕容皝は反乱を起こした城を鎮圧しました。この際、劉翔は法に基づいて反乱者の罪を適切に判断し、多くの人々の命を救ったと伝えられています。

339年、慕容皝の命を受け、参軍の鞠運（きく うん）と共に東晋の建康（今の南京）へ赴きました。その目的は、後趙との戦いの勝利を報告し、慕容皝が仮に王位を名乗った意図を説明すること、そして東晋と協力して中原を平定することを提案することでした。

建康で東晋の成帝に謁見した際、慕容皝の様子を尋ねられ、劉翔は「（東晋の）朝服を身に着けておりました」と答えました。また、慕容皝を大将軍・仮燕王に認めるよう請願しましたが、東晋の朝廷では異姓の者を王に封じた前例がないとして認められませんでした。

劉翔は、「劉淵と石勒が反乱を起こして以来、長江以北は異民族が跋扈し、中華の公卿が甲冑を身に着けて戦ったという話を聞きません。慕容鎮軍（慕容廆と慕容皝）だけが力を尽くし、東晋を慕い、寡兵で強敵を打ち破りました。石虎は我々を恐れて辺境の民を移住させ、国土は後退しました。これほどの功績があるのに、東晋は領土を与えようとしないのはなぜでしょうか。漢の高祖は王爵を惜しまず韓信や彭越に与えたからこそ帝業を成し遂げられました。我が主君を尊んでいるのではなく、東晋が忠義の国を疎遠にすることで、人々からの尊敬を失うことを惜しんでいるのです」と訴えました。

尚書の諸葛恢（しょかつ かい）は劉翔の姉の夫でしたが、この件には強硬に反対し、「夷狄が互いに争うのは中国の利益です。安易に爵位を与えるべきではありません。仮に慕容鎮軍が石虎を排除できたとしても、第二の石虎が現れるだけです」と主張しました。これに対し劉翔は、「国が危機に瀕しているのに憂いの心がないのか。もし夏王朝の靡や有鬲氏がいなければ、少康はどうして夏を再興できたでしょうか。斉の桓公や晋の文公が勝利しなければ、異民族に同化されていたでしょう。慕容鎮軍は戦の準備を怠らず、悪を滅ぼそうとしています。それなのに君は忠臣を離間させようとしている。天下が統一されないのは君のような輩がいるからだ！」と反論しました。

その後も劉翔は1年以上にわたり建康に滞在しましたが、議論はまとまりませんでした。中常侍の彧弘（いく こう）に対し、「石虎は広大な領土と百万の兵を有し、その志は江南を併呑することにあります。慕容鎮軍だけが天子を支え、誠意は天に通じていますが、礼遇されていません。天下が東晋への信頼を失ってしまうことを恐れます。公孫淵は呉に何の利益ももたらさなかったにもかかわらず、呉の孫権は燕王に封じました。慕容鎮軍は幾度も逆賊を打ち破り、その威は秦や隴にまで及んでいます。石虎は甘言と厚い贈り物で、慕容鎮軍を誘おうとしていますが、慕容鎮軍は拒否しています。朝廷は名誉を惜しみ、忠義を抑えつけています。これは国の為になるでしょうか。後悔しても遅いのです」と説きました。彧弘はこれを成帝に伝え、成帝は考えを改めました。

340年、東晋の庾亮（ゆ りょう）が亡くなり、弟の庾冰（ゆ ひょう）が宰相の地位を継承しました。慕容皝は庾冰を重用しないよう上表文を作成し、劉翔らはこれを携えて建康へ赴きました。慕容皝は庾冰にも書状を送り、権力を笠に着て国を顧みないことを非難しました。庾冰は恐れ、慕容皝を統制できないと考え、燕王の称号を認めるよう上奏しました。

341年、東晋朝廷はついに慕容皝を燕王に封じることを決定しました。劉翔もまた、東晋朝廷より代郡太守に任じられ、臨泉郷侯に封じられ、員外散騎常侍を加えられましたが、固辞しました。

郭希（かく き）が前燕へ派遣される際、劉翔も同行することになりました。見送りの際、劉翔は「昔、少康はわずかな兵で有窮氏を滅ぼし、勾践は会稽を拠点として呉に復讐しました。蔓草ですら早く除くべきなのに、まして仇敵はなおさらです。今、石虎と李寿は互いを併呑しようとしています。それなのに皇帝軍は北方や巴蜀へ向かおうとしません。もし石虎が李寿を併呑すれば、有利な地を拠点として東南を脅かすでしょう。そうなればどのような智者でも対処できないでしょう」と述べました。

郭希・劉翔らは前燕へ到着し、慕容皝は燕王に封じられました。慕容皝は劉翔を東夷護軍・大将軍長史に任じました。その後の劉翔の事績は明らかになっていません。

人物

劉翔は江南の士大夫が贅沢で節操がなく、酒を飲み交わす風潮に失望していました。ある宴席で何充らに「国が乱れ、36年が過ぎ去った。国は荒れ果て、民は苦しんでいる。廟堂は焦慮しており、忠臣は命を懸ける時だ。にもかかわらず、諸君は遊楽に耽り、贅沢を尽くすことを栄えとし、好き勝手に驕り高ぶることを賢としている。意見を聞き入れず、戦の功績も立てようとしない。これでどうやって国を尊び、民を救うことができようか！」と叱責しました。何充らは深く恥じ入ったと言われています。

参考文献

『晋書』巻108-109
『資治通鑑』巻091-097
* 『十六国春秋』前燕録

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