岸田九一郎

岸田九一郎：特撮映画の光を演出した名照明技師

岸田九一郎（きしだくいちろう、1907年 1月18日 - 1996年 10月28日）は、日本の照明技師です。京都府出身で、東宝に長年勤務し、数多くの映画作品で照明を担当しました。特に、特撮映画におけるその卓越した技術と創造性は高く評価されています。

生涯

1927年、マキノ・プロダクションに入社し、映画界でのキャリアをスタートさせました。その後、片岡千恵蔵プロダクション、日活京都撮影所、ピー・シー・エル[[映画製作所]]を経て、1937年に東宝映画へ。東宝では、長年にわたり照明技師として活躍し、数々の作品に携わりました。

第二次世界大戦後には、東宝争議において東宝従業員組合の代表を務めるなど、労働運動にも関わりました。1954年には、映画『ゴジラ』で円谷英二の特撮班に加わり、照明スタッフのチーフとして、その後の特撮作品を支える重要な役割を担いました。

1967年に東宝を定年退職した後、照明機材会社を設立し、社長として活躍しました。1996年 10月28日、89歳で亡くなりました。

人物像と技術

岸田は、東宝の特撮班では長老格として、スタッフから「お父さん」と呼ばれ、慕われていました。特撮監督の円谷英二からは「九一ちゃん（くいっちゃん）」と呼ばれていましたが、円谷自身が「オヤジ」と呼ばれていたため、特撮監督の中野昭慶は「当時、円谷組には親父が二人いた」と語っています。

岸田の照明技術は、単に光を当てるだけでなく、映像に深みとリアリティを与えるものでした。映画『ゴジラ』（1954年）では、その巧みなライティングによって、ゴジラの巨大感や重量感を表現し、観客に強い印象を与えました。

また、岸田はアイディアマンとしても知られており、特撮で雷の描写などに使う閃光用のフラッシュ球を独自に開発しました。このフラッシュ球は、人間の頭ほどの大きさがあり、その効果は絶大でした。後年、写真用のフラッシュ球で代用されるようになりましたが、中野昭慶は「岸田式フラッシュ球」ほどの効果は得られなかったと述べています。

湖底や海底が閃光を発する場面では、ガラスのドームに電球を仕込むことによって光を表現しました。ゴジラが出現する前に海面が光るシーンでは、ゴムの輪をかけた裸のライトをコードがむき出しの状態で水に沈めて光らせるという、危険を伴う手法も用いました。この手法を知った後年特技監督を務めた川北紘一は、怪我をしなかったことを驚いたといいます。

他にも、行灯に電球を仕込んで光らせたり、障子に湖面の揺らめきを描写したりするなど、多様な光の表現を駆使し、映画の映像美を追求しました。

撮影現場では、スタッフの安全にも気を配っていました。『キングコング対ゴジラ』の撮影中、ライトが倒れてきそうになった際、岸田は咄嗟の判断でスタッフをライトの根元に突き飛ばし、重いライトが頭を直撃するのを防ぎました。長年の経験に基づく機転で、スタッフは無傷で済んだというエピソードも残っています。

主な作品

本編
1939年 - 『はたらく一家』
1942年 - 『翼の凱歌』
1947年 - 『素晴らしき日曜日』
1951年 - 『悲歌』
1951年 - 『愛と憎しみの彼方へ』
1952年 - 『お国と五平』
1952年 - 『思春期』
1954年 - 『透明人間』
1955年 - 『生きものの記録』
1957年 - 『蜘蛛巣城』
1957年 - 『あらくれ』
1957年 - 『生きている小平次』
1957年 - 『地球防衛軍』
1958年 - 『花嫁三重奏』

特殊技術
1954年 - 『ゴジラ』
1958年 - 『大怪獣バラン』
1959年 - 『孫悟空』
1959年 - 『潜水艦イ-57降伏せず』
1959年 - 『日本誕生』
1959年 - 『電送人間』
1960年 - 『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦太平洋の嵐』
1960年 - 『ガス人間第一号』
1961年 - 『大坂城物語』
1961年 - 『モスラ』
1961年 - 『紅の海』
1961年 - 『ゲンと不動明王』
1961年 - 『世界大戦争』
1962年 - 『妖星ゴラス』
1962年 - 『紅の空』
1962年 - 『キングコング対ゴジラ』
1963年 - 『太平洋の翼』
1963年 - 『青島要塞爆撃命令』
1963年 - 『マタンゴ』
1963年 - 『大盗賊』
1963年 - 『海底軍艦』
1964年 - 『士魂魔道大龍巻』
1964年 - 『モスラ対ゴジラ』
1964年 - 『宇宙大怪獣ドゴラ』
1964年 - 『三大怪獣地球最大の決戦』
1965年 - 『太平洋奇跡の作戦キスカ』
1965年 - 『フランケンシュタイン対地底怪獣』
1965年 - 『大冒険』
1965年 - 『怪獣大戦争』
1966年 - 『ゼロ・ファイター大空戦』
1966年 - 『フランケンシュタインの怪獣サンダ対ガイラ』
1966年 - 『ゴジラ・エビラ・[[モスラ南海の大決闘]]』
* 1967年 - 『キングコングの逆襲』

岸田九一郎は、その卓越した技術と豊かな創造性によって、日本の映画史、特に特撮映画の発展に大きく貢献しました。彼の残した功績は、後世に語り継がれるべきものです。

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