宇文逸豆帰

宇文逸豆帰（うぶん いっとうき）

宇文逸豆帰（生没年不詳）は、鮮卑宇文部の最後の大人であり、その生涯は激動に満ちていました。彼の行動は、当時の華北における複雑な政治情勢を色濃く反映しています。

生涯

元々、宇文部の別部である東部大人であった宇文逸豆帰は、333年8月に宇文部の大人であった宇文乞得亀を追放し、自らその地位を簒奪しました。この行動に対し、慕容部の大人慕容皝は討伐を計画しますが、宇文逸豆帰が講和を申し出たため、慕容皝は楡陰・安晋の二城を築いて帰還しました。

同年11月、慕容皝の弟である慕容仁が反乱を起こし遼東を占拠すると、宇文逸豆帰は慕容仁を支援しました。しかし、335年には慕容部の右司馬封奕が宇文別部の渉夜干を襲撃し、多くの資産を奪う事件が発生。渉夜干は追撃を試みるも、封奕に返り討ちに遭いました。

同年12月、宇文部と段部は慕容仁との関係を深め、平郭に館を置きますが、慕容皝の部下である張英によって襲撃され、宇文部の使者が多数殺害されるという事態に発展しました。

同時期、代王であった拓跋紇那が国を追放され宇文部に亡命していましたが、拓跋翳槐と諸部との対立を背景に、宇文部の支援を得て代へ侵攻し、再び王位に就きました。

336年6月、段部の大人段遼が慕容部を攻めると、宇文逸豆帰も安晋へ侵攻し呼応します。しかし、慕容皝が自ら軍を率いて進軍してきたため、宇文逸豆帰は退却を余儀なくされ、封奕の追撃を受け輜重を放棄して逃走しました。

同年、封奕による宇文別部への侵略により、宇文部は大敗を喫しました。

338年3月、段部が滅亡すると、慕容翰（慕容皝の庶兄）が宇文部へ亡命。宇文逸豆帰は彼を迎え入れましたが、次第に慕容翰の才能を妬むようになり、慕容翰は狂人のふりをして警戒を解いたと伝えられています。

339年10月、慕容皝の子である慕容恪と慕容覇（後の慕容垂）が宇文別部を攻撃しました。

340年2月、慕容翰は宇文逸豆帰の名馬を盗み、子供二人を連れて逃亡。追撃を受けましたが、慕容翰が百歩離れた場所に立てた刀を一発で射抜いたことで、追撃を断念させたという逸話が残っています。その後、慕容翰は前燕に帰還しました。

343年2月、宇文逸豆帰は相の莫浅渾に前燕を攻撃させますが、慕容皝は迎え撃たず、莫浅渾は敵を侮り警戒を怠りました。そこを慕容皝は慕容翰に出撃を命じ、莫浅渾を打ち破りました。

8月、宇文逸豆帰は逃亡中の段遼の弟である段蘭を捕らえ、後趙へ送り、併せて駿馬一万匹を献上。後趙への従属姿勢を貫きました。

344年1月、慕容皝は宇文部討伐の兵を挙げ、慕容翰を前鋒将軍とし、三道から進軍。宇文逸豆帰は渉夜干に迎撃を命じますが、慕容翰によって討ち取られ、宇文部の兵は恐れをなし潰走。前燕軍は都城を攻略し、宇文逸豆帰は漠北へ逃亡する途上で亡くなりました。これにより、宇文部は滅亡し、慕容皝は住民を強制移住させました。

その後、宇文逸豆帰の子である宇文陵は前燕に仕えましたが、彼の直系の子孫が北周を建国した宇文泰であることは特筆に値します。

参考資料

『魏書』（列伝第九十一）
『晋書』（成帝康帝紀、慕容皝載記）
『周書』（帝紀第一）
『北史』（列伝第八十六）
* 『資治通鑑』（巻九十五、巻九十六、巻九十七）

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