政治家将軍

政治家将軍：政治と軍事の交錯

政治家将軍（Political General）とは、軍事的な経験が浅いにもかかわらず、政治的な影響力や背景によって、軍の高位の指揮官に任命された人物を指す概念です。特に19世紀のアメリカ南北戦争において顕著に見られ、北軍・南軍双方でその存在が確認されています。

昇進の理由

政治家将軍が任命される主な理由としては、以下の点が挙げられます。

1. 政治集団の融和政策:
重要な有権者層との連帯を維持するため、特定の政治グループに属する人物を将軍に任命することがありました。例えば、エイブラハム・リンカーン大統領は、北部の中道派民主党の支持を得るために、民主党員を将軍職に抜擢しました。
共和党員も同様に、政治的理由で将軍に任命されるケースが見られました。

2. 地政学的な配慮:
特定の民族集団や移民の支持を得るために、その出身者を将軍に任命することがありました。ドイツ系移民が多い地域では、ドイツ系アメリカ人の文民指導者を将軍に任命することで、移民の支持を得ようとしました。同様に、アイルランド系移民の徴募に尽力した人物も昇進しています。
また、多数の兵を召集することに成功した人物も、その功績から昇進しました。これは、出身地や民族に関わらず、軍事的な組織力に対する評価によるものでした。

3. 境界州への影響:
南軍は、特に境界州における同調者を増やすために、その地域出身の政治家を将軍に任命しました。例えば、元アメリカ合衆国副大統領であった人物を将軍に任命することで、ケンタッキー州の支持を得ようとしました。ミズーリ州でも同様の戦略が用いられています。

4. その他の理由:
南北戦争では、双方の軍隊に非常に多くの志願兵が存在しました。実業家、弁護士、政治家など、著名な市民指導者が志願兵連隊の指揮官になることは、ごく自然な流れでした。

評価

政治家将軍は、その出自や政治的な背景から、兵士たちからの人気が高い場合もありました。しかし、多くの場合、正規の軍事訓練を受けておらず、軍事知識に乏しかったため、実際の戦場ではその無能さが露呈しました。特に、多数の政治家将軍が重要な指揮官職を与えられた北軍では、その影響が深刻な問題となりました。

著名な政治家将軍

以下に、両軍の著名な政治家将軍のリストと、その簡単な従軍記録を示します。

米墨戦争

ジェイムズ・ピンクニー・ヘンダーソン：テキサス州知事。少将として自ら部隊を率いました。
ジョセフ・レイン：インディアナ州選出の民主党員。「間に合わせのNo.2」と呼ばれました。
フランクリン・ピアース：そこそこの軍事技術を持つ政治家。戦場で負傷しました。

南北戦争

北軍

ナサニエル・バンクス：元マサチューセッツ州選出のアメリカ合衆国下院議員。多くの戦線で指揮を執りましたが、レッド川方面作戦の失敗で解任されました。
フランシス・プレストン・ブレア・ジュニア：ミズーリ州選出のアメリカ合衆国下院議員。ミズーリ州の確保に貢献しました。ウィリアム・シャーマン将軍の信頼を得た数少ない政治家将軍です。
ベンジャミン・フランクリン・バトラー：ニューハンプシャー州選出のアメリカ合衆国下院議員。南部人から嫌われており、ニューオーリンズを厳しく統治しました。バミューダ・ハンドレッド方面作戦やフィッシャー砦の戦いで指揮を執りましたが、解任されました。
トマス・レオニダス・クリッテンデン：ケンタッキー州の有力者の家系出身。カンバーランド軍に所属しましたが、チカマウガの戦いの敗北後に解任されました。
ジョン・C・フレモント：探検家であり、米墨戦争の英雄。ミズーリ方面軍の指揮を執りましたが、奴隷解放問題で解任されました。バージニア軍の設立時にも指揮官を辞任しています。
ジョン・A・ローガン：イリノイ州の民主党員。アトランタの戦いで軍の指揮官に昇格しましたが、後にオリバー・O・ハワードと交代しました。北軍の政治家将軍の中で最も優秀だったと評価されています。
ジョン・A・マクラーナンド：イリノイ州選出の民主党員。ビックスバーグ方面作戦に参加しましたが、同僚からの評判は悪く、グラント将軍やシャーマン将軍と対立しました。
ダニエル・シックルズ：ニューヨーク州選出のアメリカ合衆国下院議員。心神喪失を理由に殺人罪で無罪となった過去があります。ゲティスバーグの戦いで無許可で軍を進めて、片足を失いました。
フランツ・シーゲル：1848年革命から亡命したドイツ人。ドイツ系徴募兵から人気がありましたが、軍事的な能力は低いと評価されています。
ルー・ウォーレス：インディアナ州の政治家。ドネルソン砦、シャイロー、モノカシーの戦いに参加し、後に小説家としても活躍しました。

南軍

ウィリアム・バークスデイル：ミシシッピ州選出のアメリカ合衆国下院議員。ゲティスバーグで戦死しました。
ジョン・ブレッキンリッジ：ケンタッキー州出身で、元アメリカ合衆国副大統領。ニューマーケットの戦いでフランツ・シーゲルを破りました。
トマス・リード・ルーツ・コブ：ジョージア州選出のアメリカ連合国議員。フレデリックスバーグの戦いで戦死しました。
ジョン・ブキャナン・フロイド：元バージニア州知事、ジェームズ・ブキャナン政権で陸軍長官。ドネルソン砦で逃亡し、1863年に死亡しました。
ギデオン・J・ピロー：米墨戦争の古参兵。ドネルソン砦から逃亡しました。ストーンズリバーの戦いで兵士が木の陰に隠れているところを目撃されています。
スターリング・プライス：ミズーリ州出身。ミズーリ州兵隊を率い、プライスの襲撃は失敗に終わりました。
ロバート・トゥームズ：元ジョージア州選出アメリカ合衆国下院議員。アンティータムの戦いで負傷しました。

米西戦争

* ジョセフ・ホィーラー：南北戦争中の南軍騎兵士官。米西戦争中に「ヤンキー」と叫んだ逸話があります。

政治家将軍は、その政治的な背景と軍事的な無能さという二面性によって、複雑な評価を受ける存在です。彼らの存在は、軍事と政治の関係、そして戦争におけるリーダーシップのあり方について、深く考察する機会を与えてくれます。

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