春日部氏

春日部氏について

春日部氏（かすかべし）は、古代から続く日本の氏族の一つです。その起源は、安閑天皇の皇后である春日山田皇女の生活を支えた人々にまで遡ると言われています。春日部氏は、武蔵国、陸奥国（会津）、伊勢国などに分かれ、それぞれ独自の歴史を刻んできました。

春日部氏の歴史

春日部氏の歴史は、奈良時代にまで遡ることができます。『続日本紀』には、陸奥国牡鹿郡の春日部奥麻呂という人物が登場します。春日部氏は、和珥氏と同祖であり、蝦夷征討のために陸奥国に移住したと考えられています。

平安時代には、『日本三代実録』に、上総国の春日部直黒主売という人物が節婦として記録されています。上総国は、春日山田皇后に献上された土地であり、春日部氏との繋がりを示唆しています。

現在の埼玉県春日部市は、かつて春日山田皇女の御名代部が居住していたという伝承がありましたが、確実な裏付けは乏しく、鎌倉時代の武家である春日部氏が市名の由来とされています。ただし、東武鉄道のウェブサイトでは、春日山田皇女説も併記されています。

春日部氏の系統

春日部氏には、大きく分けて以下の3つの系統があります。

1. 紀姓春日部氏（武蔵国）：現在の埼玉県春日部市周辺を拠点とした武家です。鎌倉幕府の御家人であり、春日部市の市名の由来となりました。
2. 会津春日部氏（陸奥国）：武蔵国の春日部氏が、戦国時代に会津地方に移住した系統です。上杉氏や蒲生氏を頼り、会津地方に定住しました。
3. 伊勢春日部氏（伊勢国）：平氏を祖とする進士氏の系図に登場する春日部氏です。伊勢国で活動し、北畠氏に仕えました。

これらの他に、赤松氏の分家が春日部氏を名乗っていたという記録もあります。

各系統の詳細

紀姓春日部氏（武蔵国）

紀姓春日部氏は、鎌倉幕府の御家人として活躍しました。吾妻鏡には、文治3年（1187年）に春日部兵衛尉という人物が、鎌倉幕府に出頭したという記述があります。また、元久2年（1205年）には、春日部実高が畠山重忠追討軍に参加したとされています。

紀姓春日部氏は、紀長谷雄の流れを汲む紀氏一族の実直が、12世紀初めに武蔵国に土着したのが始まりです。実直の子孫たちは、それぞれ大井氏、品川氏、春日部氏、堤氏、潮田氏を興しました。実高は、現在の春日部市浜川戸地区周辺を拠点とし、春日部氏を名乗りました。

実高の子の実平、孫の実景の代には、鎌倉幕府内での地位を上げ、有力氏族となりました。しかし、宝治元年（1247年）の宝治合戦で三浦氏側についたため、実景が自害し、嫡流は滅亡しました。

その後、南北朝時代の延元元年（1336年）に、実景の孫である春日部治部少輔時賢が、元弘の乱での戦功により、春日部郷の地頭職を与えられました。これにより、春日部氏は再び勢力を取り戻しました。

戦国時代末期には、後北条氏の支配下に入り、徐々に立場は弱くなっていきました。小田原征伐後、領地を没収され、各地に離散しました。

会津春日部氏（陸奥国）

春日部郷を没収された春日部氏は、慶長年間に、太田氏と縁の深い上杉氏や蒲生氏を頼り、蘆名氏家臣の平塚氏の協力を経て陸奥国会津地方に定住しました。江戸時代後期には、遠縁のいる伊勢国や美濃国などにも移住しました。

伊勢春日部氏（伊勢国）

伊勢春日部氏は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて、桓武平氏の平正度を祖とする進士家資一族が、伊勢国で春日部氏を名乗ったのが始まりです。春日部詮義は、伊勢国朝明郡を所領しました。

伊勢春日部氏は、北畠氏に仕え、神戸氏、関氏ら有力氏族と共に、北勢四十八家の一部勢力である「伊勢の六人衆」と呼ばれました。室町時代中期には、萱生城、伊坂城、星川城などを築城・居城とし、勢力を拡大しました。天正年間に織田信長に城を奪われ勢力を失いましたが、江戸幕末まで武家として存続しました。江戸時代後期には、全国各地の春日部氏が伊勢春日部氏を頼って移住してきました。

赤松春日部氏 (丹波国)

室町時代の赤松氏の分家で、足利尊氏に仕えた赤松貞範が丹波春日部庄を与えられ春日部氏を名乗った。赤松春日部家とも呼ばれる。

春日部氏の末裔

現在でも、春日部氏の子孫が、会津若松市や春日部市、鶴ヶ島市などに居住していることが確認されています。日本水彩連盟創設者の一人である春日部たすくも、その一人です。

参考文献

青木和夫他編『続日本紀』四、岩波書店、1995年。ISBN 4-00-240015-8。
太田亮「国立国会図書館デジタルコレクション春日部　カスガベ」『姓氏家系大辞典』第1、上田萬年、三上参次監修、姓氏家系大辞典刊行会、1934年、1490-1498頁。
落合義明『中世東国の「都市的な場」と武士』2005年。ISBN 978-4634523418。
庄和町史編纂資料
桑名市郷土史編纂資料