進士氏

進士氏の概要

進士氏（しんじし、しんしし、にいがたし）は、日本の歴史に名を残す氏族の一つです。その起源は、古代中国の科挙に由来する官吏登用試験の科目である「進士」に遡ります。この制度は、漢字文化圏である朝鮮半島やベトナムにも伝わり、日本においては律令制下の大学寮における試験合格者を指す称号として用いられました。その後、この称号は氏となり、今日までその名を伝えています。

進士の制度

日本の進士制度は、大学寮から推薦された挙人に対して、式部省が行う官吏登用試験の一環でした。試験では、時務策と呼ばれる政治の実務問題に関する論文2題と、文選の上帙7か所、爾雅3か所の暗誦が課されました。論文の論旨や文章が適切で、暗誦6か所以上をクリアした者が合格とされ、甲・乙の成績に分けられ、それぞれ位階が与えられました。

庶民から進士に合格し、下級官吏を経て貴族にまで昇りつめた人物として、勇山文継が知られています。また、進士試の廃止後には、文章生の別称として「進士」という言葉が使われるようになりました。

特筆すべきは、宝亀11年（780年）に追討勅府が「広募進士」と称して義勇兵を募集したことです。律令制下の軍団（国衙軍制）において、恩賞（五位）を約束し、「進士」という名目で諸国から義勇兵を募り、軍所に派遣しました。

進士を称した主な人物

進士氏を名乗った人々は、その出自や系統も多岐にわたります。以下に主な例を挙げます。

尾張[[氏]]流: 熱田大宮司家（のち権宮司）に、光保（藤進士）・奉秀（進士三郎）・廉忠（進士坊）の名が見られます。
藤原南家流: 藤原真作の子孫には、藤原清兼（中川[[氏]]の始祖、中河進士大夫）がいます。
藤原南家系熱田大宮司家: 藤原季範の子孫に、藤原範季（進士大夫）がいます。
清和源氏流: 源義光（新羅三郎）の子である源義業（佐竹[[氏]]、山本氏、武田[[氏]]、小笠原[[氏]]の祖、進士判官）や、その子の佐竹昌義（佐竹[[氏]]、佐竹冠者）、そして兄弟の行義（交野氏の祖、進士次郎）がいます。
橘氏流:橘能俊も進士を称しました。
菅原氏流: 菅原道真の子である菅原淳茂（秀才進士）がいます。
その他: 海野通広は進士蔵人通広と号し、その出自は中原[[氏]]ですが、海野氏の養子となったため海野を称しました。また、親鸞の弟子となった西仏は進士次郎左衛門尉の祖先であるとも伝えられています。勧学院に所属し、藤原通広と称することもあり、出自が藤原氏とも伝わります。

進士氏と武士

鎌倉時代には、鍛冶職人として進士三郎景政がおり、その銘が入った太刀が残っています。この太刀は、秩父国の出身で播磨国の地頭であった大河原時基が、景光とその弟子である景政に作らせ、広峯神社に奉納したものです。

また、吾妻鏡には、御家人として進士基度、進士光政、進士隆邦などの名が見えます。三日平氏の乱では、進士行綱が捕らえられましたが、主謀者ではなかったため無罪となりました。

室町時代には、進士氏一族が幕府の奉公衆として活躍していたことが番帳類からわかります。また、広島大学文学部に所蔵されている進士文書からは、足利将軍家ゆかりの地に所領を有していたことがわかります。

さらに、進士氏は将軍の食膳の調理を世襲しており、室町時代に畠山流の庖丁道を旗本進士次郎左衛門尉に伝えたことが、進士流という料理の流派の始まりとされています。

天文20年（1551年）には、将軍足利義輝の命により、進士賢光が三好長慶の暗殺を試みましたが失敗し、その場で自害しました。永禄の変では、進士晴舎が将軍を守るために御前で切腹し、その息子である進士藤延も戦死しました。進士晴舎の娘は、足利義輝の側妾となり、永禄の変で殺害されました。

戦国時代には、明智光秀の家臣として進士作左衛門（進士貞連）がおり、常山紀談には、松平康重の家臣として進士清三郎の名が登場します。

進士氏の分布

進士氏は、各地に広がっており、遠江国、伊豆国、伊勢国、越前国、山城国、丹波国などにその足跡が見られます。特に、静岡県掛川市大渕や菊川市富田の進士氏は、それぞれの地域で独自の歴史を刻んでいます。

遠江国: 常山紀談には、進士清三郎の逸話が残っており、諏訪原城の戦いで活躍した様子が描かれています。現在の静岡県島田市、菊川市、掛川市周辺に進士氏が多く分布しています。
静岡県掛川市大渕: 高室神社の由緒によると、長寛年間（1163年 - 1164年）に奥州から来た進士清蔵が、鹽竈神社の御写しを祀ったとされています。また、昌雲寺の由緒には、寛永年間（1624年 - 1643年）に地元の進士庄左衛門らが堂宇を建立したとあります。
静岡県菊川市富田: 菊川むかし話によると、京から来た落合権の守の従者である進士清蔵が土着したとされています。また、進士三左衛門が割腹して果てたという伝承も残っています。
伊豆国: 静岡県下田市吉佐美の進士氏は、清和源氏源義光の玄孫である義高を祖とし、多くの家系が存在します。
伊勢国: 三重県三重郡菰野町の進士氏は、伊勢平[[氏]]の平基度を祖としており、教願寺に梵鐘を寄進した進士久右衛門の記録が残っています。また、員弁郡東員町の猪名部神社には、春澄善縄の子孫である進士行綱の名が記載されています。
越前国: 福井県丹生郡朝日町の進士氏は、加賀藩給帳に載る進士氏との関係が示唆されます。田中郷の惣社である八坂神社の伝承にも進士氏の名が残っており、進士正家文書によると、進士家は近世に入って社家を退いたとあります。
山城国及び丹波国: 京都市内には大学寮址、大学別曹址、二条城があり進士氏が点在します。南丹市園部町南大谷野口には、広島大学所蔵の猪熊文書に、丹波国船井郡野口に関する文書や、進士氏の軍功を示す軍忠状が残されています。

進士氏の家紋

進士氏の家紋は多様であり、以下のようなものが見られます。

丸に頭合わせ三つ五三桐
丸に下り藤
丸に日の丸扇
丸に土岐桔梗
丸に笹竜胆
片喰
九曜
丸に立ち沢瀉

進士氏の著名人

進士氏からは、政治家、学者、軍人、俳優、スポーツ選手など、多岐にわたる分野で活躍した人物が出ています。

政治家: 進士國平、進士庄一、進士仁右衛門など。
学者: 進士晃、進士五十八、進士織平など。
軍人: 進士樸郎、進士正吉など。
俳優: 進士晴久。
* スポーツ選手: 進士海理、進士祝也、進士剛光など。

まとめ

進士氏は、古代の官吏登用試験「進士」に由来し、武士、文化人など、多岐にわたる分野で活躍した氏族です。その足跡は各地に広がり、様々な歴史や伝承を残しています。進士氏の研究は、日本の歴史や文化を理解する上で貴重な手がかりとなるでしょう。

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