月よりの使者

月よりの使者

『月よりの使者』は、文豪・久米正雄による小説作品であり、その物語を基に、幾度も映画化、ドラマ化されてきた名作です。舞台は長野県の高原に位置するサナトリウムで、複雑な過去を背負いながらも献身的に患者の看護にあたる看護師と、それぞれの事情を抱えた患者たちの人間模様が描かれています。

概要

物語の舞台となったサナトリウムは、長野県に実在した富士見高原療養所がモデルとされています。映画の撮影にも使用されましたが、現在は取り壊され、その跡地には「旧富士見高原療養所資料館」が設立され、当時の資料が保管・展示されています。この資料館は、富士見高原医療福祉センター内に併設されており、歴史的な背景を今に伝えています。

あらすじ

物語の中心人物である野々口道子は、過去の辛い出来事から逃れるように、サナトリウムで看護師として働いています。彼女は類まれな美貌を持ち、その献身的な姿から患者たちから「月よりの使者」と呼ばれ、慕われていました。物語は、転地療養のためサナトリウムにやってきた弘田進と橋田広の二人を中心に展開していきます。献身的な看護師である道子と、それぞれの過去を抱えた患者たちが織りなす人間ドラマが、物語の見どころです。

映画化

1934年版

1934年3月29日に公開されたこの作品は、入江プロダクションと新興キネマが製作を担当しました。長らく幻の作品とされていましたが、ロサンゼルスの全米日系人博物館に所蔵されていたフィルムが再発見され、2008年に98分版が再上映されました。その後、詳細不明のフィルムが同作品と判明し、147分版に修復され、国立[[映画アーカイブ]]に所蔵されています。

キャスト

野々口道子：入江たか子
弘田進：高田稔
山形弓子：水原玲子
弘田晴子：中野かほる
戸塚：菅井一郎
橘田：牧英勝
医師池内：見明凡太郎
北原：浅田健二
渡辺病院長：松本泰輔
高原病院長：沖悦児
刑務所長：荒木忍
女看守：浦辺粂子
看護婦チビ：江川なほみ

スタッフ

監督：田坂具隆
脚本：木村千疋男
撮影：伊佐山三郎

1949年版

1949年1月31日に公開された大映製作の映画です。

キャスト

野々口道子：花柳小菊
弘田進：上原謙
前島弓子：喜多川千鶴
弘田晴子：相馬千恵子
戸塚平介：菅井一郎
池内副院長：小柴幹治
ほか

スタッフ

企画：清水竜之助
監督：加戸敏
脚本：八田尚之
撮影：武田千吉郎
音楽：飯田信夫
美術：角井平吉
録音：大角正夫

1954年版

1954年9月22日に公開された大映製作のカラー作品。配給収入は1億6491万円を記録しました。

キャスト

野々宮道子：山[[本富士子]]
弘田進：菅原謙二
戸塚一郎：船越英二
小谷よう子：若尾文子
橋田広：根上淳
池内医師：高松英郎
前島弓子：沢村美智子
弘田晴子（進の妹）：八潮悠子
大下婦長：村田知英子
浅木院長：信欣三
成田弁護士：花布辰男
岡田院長：見明凡太朗
佐々副院長：丸山修
前島みつ：細川ちか子
取調主任坂田：夏木章
おふさ：響令子
桐生きよ：及川千代
検事：石黒達也

スタッフ

監督：田中重雄
製作：永田雅一
企画：中野繁雄
脚本：八住利雄
撮影：高橋通夫
色彩技術：横田達之
音楽：斎藤一郎
美術：柴田篤二
録音：長谷川光雄
照明：久保田行一
装置：原島徳次郎
装飾：雲居譲
小道具：神田一郎
背景：中村桂太郎
園芸：坂根音二郎
移動：諸星勇
工作：田村誠
俳優事務：奥村裕彰
結髪：田中つねへ
衣裳：高坂元治
音響効果：花岡勝次郎
スチール：坂東正男
電飾：横手三四郎
記録：古川耶千枝
助監督：寺島久
色彩助手：渡辺徹
撮影助手：山崎芳裕
録音助手：清水保太郎
照明助手：安田繁
美術助手：後藤岱二郎
進行係：大岡弘光
編集：辻井正則
メークアップ：牧野正雄
製作主任：熊田朝男
現像：東洋現像所

TVドラマ化

1961年版

1961年10月12日～10月19日に日本テレビ「武田ロマン劇場」枠で放送されました。

キャスト

有田稔
喜多道枝
穂積隆信
夏川かほる
荒木道子

スタッフ

演出：秋田英雄
脚本：八木隆一郎

1966年版

1966年7月11日～9月2日にフジテレビ「ライオン奥様劇場」枠で放送されました。

キャスト

長内美那子
園井啓介
吉田輝雄
沢本忠雄
永井秀明

スタッフ

演出：岩間鶴夫
脚本：芦沢俊郎
制作：松竹、フジテレビ

1972年版

1972年8月28日～10月27日にTBS「花王 愛の劇場」枠にて放送されました。

キャスト

北川めぐみ
大出俊
田崎潤

スタッフ

制作：C.A.L

主題歌

1949年版の映画では、佐伯孝夫作詞、佐々木俊一作曲による同名の主題歌「月よりの使者」が使用されました。歌唱は竹山逸郎と藤原亮子が担当しました。この曲は、佐々木俊一が作曲する際、古賀政男の「三百六十五夜」のイメージを参考に依頼されたとされています。実際、曲の出だし三小節目までが酷似していますが、佐々木が古賀の了承を得ていたため、著作権問題には発展しませんでした。

1966年版のドラマでは、1949年の映画版主題歌を三浦洸一と香山美子がカバーしました。

『月よりの使者』は、時代を超えて愛され続ける名作として、今後も多くの人々の心に残り続けるでしょう。

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