荀崧

荀崧（じゅん すう）

荀崧（生没年不詳）は、中国の晋代に生きた官僚であり軍人です。字（あざな）は景猷（けいゆう）。名門、潁川郡潁陰県（現在の河南省許昌市）の出身です。

生涯

羽林右監・安陵郷侯であった荀頵（じゅんきん）の子として生まれ、後漢末の重臣、荀彧（じゅんいく）の玄孫にあたります。西晋の泰始年間（265年 - 274年）に、兄に代わって父の爵位を継ぎ、濮陽王司馬允（しばいん）に仕えて文学を担当しました。永康元年（300年）には、趙王司馬倫（しばりん）に召し出されて相国参軍となります。翌永康2年（301年）に司馬倫が帝位を簒奪すると、荀崧は護軍司馬・給事中として重用され、その後も尚書吏部郎・太弟中庶子、侍中・中護軍と昇進を重ねました。

永嘉5年（311年）、王弥（おうび）率いる反乱軍が洛陽に侵入すると、荀崧は百官とともに密県（現在の河南省新密市）へ逃れようとしましたが、その途上で母親が亡くなってしまいます。それでも避難の旅を続けながら、車の中で喪に服し、悲しみに暮れました。しかし、反乱軍は荀崧の母の遺体を道に投げ捨て、車を奪って去っていきました。荀崧自身も四か所を負傷し、一時意識を失いますが、夜になって意識を取り戻し、母の遺体を密山に埋葬しました。喪が明けると、族父の荀藩（じゅんはん）の承制により、監江北軍事・南中郎将・後将軍・仮節・襄城郡太守に任命されます。当時、皇帝陵が暴かれるという事件が起きたため、荀崧は主簿の石覧（せきらん）に兵を与えて洛陽に入らせ、陵墓を修復させました。その功績により、舞陽県公に進爵し、後に都督荊州江北諸軍事・平南将軍に任じられ、宛（現在の河南省南陽市）に駐屯し、曲陵公に改封されました。

建興3年（315年）、杜曾（とそう）率いる反乱軍に宛を包囲されます。食糧不足に苦しむ中、荀崧は末娘の荀灌（じゅんかん）を襄城郡太守の石覧と南中郎将の周訪（しゅうほう）のもとに派遣し、援軍を要請しました。周訪は子の周撫（しゅうぶ）に3000の兵を与えて石覧と合流させ、共に荀崧を救援に向かわせました。援軍の到来を知った反乱軍は退却し、荀崧は包囲を脱出することができました。その後、南陽中部尉の王国（おうこく）や劉願（りゅうがん）らに軍を与えて穣県（じょうけん）を攻撃させ、杜曾の従兄で新野郡太守を自称する杜保（とほ）を捕らえて斬りました。

東晋の大興元年（318年）6月、荀崧は尚書僕射（しょうしょぼくや）に任じられ、刁協（ちょうきょう）と共に東晋朝廷の礼儀作法を定めました。後に太常（たいじょう）に転じます。当時、儒教の経典を伝授する博士は9人しかいませんでしたが、荀崧は博士の増員を上奏し、多くの賛同を得ましたが、王敦（おうとん）の乱が起こったために実現しませんでした。

永昌元年（322年）、王敦が建康（現在の南京市）を攻撃し占領すると、荀崧を尚書左僕射（しょうしょさぼくや）に任じるよう上表しました。元帝が崩御すると、廟号（びょうごう）を巡る議論が起こります。王敦は情勢が不安定であることを理由に議論の延期を主張しましたが、荀崧はこれに反対し、廟号を中宗（ちゅうそう）とすることを主張しました。王敦は以前から荀崧を高く評価し、司空（しくう）に引き上げようと考えていましたが、この一件で荀崧を恨み、その計画を取りやめました。

太寧元年（323年）、荀崧は散騎常侍（さんきじょうじ）の位を加えられ、後に太子太傅（たいしふ）を兼任しました。王敦の乱が鎮圧されると、平輿伯（へいよはく）に封じられます。しかし、儀仗兵を猛獣に食べさせた罪に問われて免職となります。その後、散騎常侍のまま金紫光禄大夫（きんしかこうろくだいふ）・録尚書事（ろくしょうしょじ）となり、次いで録尚書事のまま右光禄大夫（うこうろくだいふ）・開府儀同三司（かいふぎどうさんし）の位を加えられ、さらに秘書監（ひしょかん）を兼任しました。

咸和2年（327年）に蘇峻（そしゅん）の乱が起こり、翌年に蘇峻によって建康が陥落すると、荀崧は王導（おうどう）や陸曄（りくよう）と共に成帝（せいてい）を守りました。成帝に従って石頭（せきとう）に移り、常に成帝の側に仕えました。咸和4年（329年）、反乱の鎮圧において、成帝は乱軍の中を脱出し、温嶠（おんきょう）の船に避難しましたが、荀崧は老齢で病が重かったにもかかわらず、無理をして成帝に従いました。その後、病状が悪化し、亡くなりました。享年67歳。侍中（じちゅう）の位が追贈され、諡（おくりな）は敬（けい）とされました。

人物・逸話

荀崧は志操が清く、文学を愛好し、荀顗（じゅんぎ）・王済（おうさい）・袁侃（えんかん）といった人々から高く評価されていました。王敦・顧栄（こえい）・陸機（りくき）らとも親交がありました。

従弟の荀馗（じゅんき）が早くに亡くなり、その遺児である荀序（じゅんじょ）と荀廞（じゅんきん）が幼かったため、荀崧は二人を自宅に引き取って養育し、実子と同様に愛情を注ぎました。荀顗の後裔が途絶えていたため、東晋朝廷は荀崧の子に荀顗の爵位を継がせようとしましたが、荀崧は荀序に継がせるよう申し出ました。

子女

荀蕤（じゅんずい）：後を継いだ
荀羨（じゅんせん）
荀灌（じゅんかん）

伝記資料

『晋書』巻75 列伝第45

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