製紙用薬品

製紙用薬品：紙の品質と生産性を支える化学物質

製紙用薬品とは、紙の製造工程において、その効率化、品質向上、環境への影響低減、そして紙への付加価値付与を目的として使用される化学物質の総称です。古来より紙作りの技術革新と共に発展を遂げ、現代の多様な紙製品の生産を支える重要な役割を担っています。

紙の製造工程と製紙用薬品の役割

紙は、植物繊維であるセルロースを水中で分散させ、脱水・乾燥させることで作られます。この基本原理に基づき、書きやすさ、包みやすさ、拭きやすさといった基本機能に加え、強度、光沢、白さ、印刷適性、耐水性など、様々な特性や機能を付加することで、その用途と価値は大きく広がってきました。製紙用薬品はこのような機能の付与や、製造工程の最適化に欠かせない存在です。

歴史的には、小麦粉デンプンによるサイズ剤の使用から始まり、19世紀には水酸化ナトリウムを用いた化学パルプ製造法、硫酸アルミニウムを用いた酸性紙製造技術が開発されました。しかし、酸性紙の長期保存における問題点から、中性サイズ剤を用いる中性紙製造への転換が進みました。

近年では、環境規制の強化や古紙利用率の向上に伴い、排水処理、古紙からのインク除去、異物混入抑制といった課題への対応も重要になっています。そのため、多様な製紙用薬品が、複雑な工程における最適な配合バランスを考慮しながら使用されています。抄紙系内の電気伝導率やゼータ電位、パルプ繊維の濾水性などを測定しながら、添加量、順序、場所を綿密に調整することで、発泡やスケール付着などの問題を防ぎ、高品質な紙の製造を実現しています。

主要な製紙用薬品と用途

製紙用薬品は、その用途によって様々な種類に分類されます。以下では、主な工程とそれに用いられる薬品について詳細に説明します。

1. パルプ化工程

蒸解剤: 木材チップを化学処理してパルプにする工程で使用されます。亜硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどが代表的で、これらは回収・再利用されます。アントラヒドロキノンなどの助剤も用いられます。
漂白剤: パルプの漂白には、塩素、塩素酸ナトリウム、過酸化水素、水酸化ナトリウムなどが使用されます。環境への配慮から、塩素系漂白剤の使用は減少傾向にあります。オゾン漂白も存在しますが、コスト面から普及は限定的です。
染料・顔料: 漂白だけでは完全に黄色味を除去できないため、染料や顔料、蛍光増白剤などを用いて、白さを向上させたり、色付きの紙を製造したりします。

2. 古紙処理工程

脱墨剤: 古紙に付着した印刷インクを除去する薬品で、界面活性剤が広く用いられています。アルカリ液（水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム）も併用されます。

3. 抄紙工程

歩留向上剤: 抄紙工程でパルプ繊維の損失を減らし、歩留まりを向上させる薬品。硫酸アルミニウム、ポリアクリルアミド、デンプン類などが使用されます。
濾水向上剤: 水切れをよくし、乾燥時間を短縮するための薬品。ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、カチオン化デンプンなどが用いられます。
紙力増強剤: 紙の強度を高める薬品。湿潤紙力増強剤と乾燥紙力増強剤があり、それぞれ用途に合わせた樹脂やポリマーが使用されます。
粘剤: 機械抄き和紙において、パルプ繊維の分散状態を維持し、紙の重ね合わせを防ぐための薬品。ポリアクリルアミドなどが使われます。
サイズ剤: インクの浸透を防ぎ、耐水性を与える薬品。ロジン石鹸、アルキルケテンダイマー（AKD）、アルケニル無水コハク酸（ASA）、ポリビニルアルコール（PVA）などが代表的です。
かさ高剤: 紙の密度を下げ、嵩を増やす薬品。脂肪酸エステルエマルジョンなどの界面活性剤が使用されます。
填料: 紙の不透明性、白さ、平滑性を向上させる鉱物性粉末。タルク、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタンなどが用いられます。

4. 工程障害抑制用薬品

スライムコントロール剤: 微生物の増殖を抑制する薬品。塩素、有機臭素化合物、有機硫黄化合物などが使用されます。
ピッチコントロール剤: パルプ中に混入した樹脂状物質（ピッチ）を除去する薬品。界面活性剤、キレート剤などが用いられます。
消泡剤: 抄紙工程で発生する泡を除去する薬品。シリコン系消泡剤などが使用されます。
凝結剤: 抄紙系に蓄積した不純物を凝集させて除去する薬品。

5. 二次加工用薬品

塗工用薬品: 紙の表面に塗料を塗布する際に使用される薬品。バインダー、顔料、保水剤などが含まれます。
* 撥水剤: 紙に撥水性を与える薬品。ワックス、ステアリン酸、シリコン樹脂などが用いられます。

製紙用薬品の製造企業

製紙用薬品は、多くの化学メーカーによって製造・供給されています。日本国内では、荒川化学工業、ハリマ化成、星光PMC、三菱レイヨン、東邦化学工業、日華化学、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ、花王、栗田工業、旭化成、日本ゼオン、田岡化学工業などが主要なメーカーです。海外では、アッシュランド、ナショナル・スターチ、ナルコ、BASF、ケミラ、エカ・ケミカルズ、ロケットなどが挙げられます。

まとめ

製紙用薬品は、紙の製造工程において不可欠な存在であり、その種類と用途は多岐にわたります。環境問題への配慮や高機能化へのニーズに応えるため、更なる技術開発と改良が続けられています。

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