逗子開成中学校・高等学校

概要

逗子開成中学校・高等学校は、神奈川県逗子市に位置する私立の男子中高一貫校です。学校法人逗子開成学園によって運営されており、略称は「逗開（ずかい）」として知られています。神奈川県内では最も古い私立男子校の一つであり、現在は高校からの生徒募集は行わず、完全な中高一貫教育を提供しています。2024年4月現在、理事長は目黒泉氏、校長は小和田亜土氏が務めています。

歴史

創設期

1903年、東京府北豊島郡日暮里町（現在の東京都荒川区西日暮里）に、開成中学校の分校である第二開成中学校として設立されました。創設者である田邊新之助氏は、当時の開成中学校長であり、哲学者田邊元の実父でもあります。設立の背景には、大日本帝国海軍からの要請があり、横須賀海軍鎮守府の軍人の子弟教育を担う目的がありました。東京本校である開成中学校の生徒の中で、学業に遅れが見られたり、体が弱く自然の中で療養が必要と判断された生徒は、神奈川の分校である第二開成中学校へ一時的に転校することがありました。1909年には独立組織となり、逗子開成中学校と改称しました。

ボート遭難事故

改名翌年の1910年1月23日、休日に生徒12名が学校所有のボートを無断で使用し、七里ヶ浜沖で遭難するという痛ましい事故が発生しました。この事故では、生徒全員が死亡するという悲劇に見舞われました。捜索には地元漁船のほか、横須賀鎮守府の駆逐艦2隻も出動し、当時葉山御用邸で静養中だった皇太子嘉仁親王（後の大正天皇）も急遽逗子開成を訪問されました。この事故の責任を問われた社会科教師の石塚巳三郎氏は、当時学生寮の監督を務めており、艇庫の管理も担当していました。事故後、世論は石塚氏の管理不行き届きを厳しく非難し、実名報道によって社会的な批判に晒されました。遺族からの恨みも買い、石塚氏は学校を去ることになりました。田邊新之助氏は、東京本校の校長を引責辞任し、莫大な損害賠償による学校存続の危機に対応するため、数年間逗子開成の校長職に留まりました。この事故の補償のため、当時経営母体が同じであった鎌倉女学院が所有地を売却するなどしました。後に、同女学院の教諭であった三角錫子氏が作詞した鎮魂歌「真白き富士の根」（七里ヶ浜の哀歌）が作られ、遭難地点に近い稲村ヶ崎に慰霊碑が建立されました。石塚氏の息子である宮内寒弥氏は、この事件を基にした小説『七里ヶ浜』を1978年に発表し、平林たい子[[文学賞]]を受賞しました。

戦前・戦中期

太平洋戦争前は、帝国海軍の退役将官が校長を歴任し、学校の組織が軍隊式に変化しました。学年を「中隊」、学級を「小隊」と改称したり、「振武隊」という楽隊を編成して軍艦行進曲を演奏させるなど、学校全体が軍隊のような雰囲気に包まれました。このような海軍寄りの校風から、卒業生の多くが海軍兵学校に進学を志望し、逗子開成は終戦まで事実上、海軍兵学校の予備校のような存在となっていました。

戦後

戦後、学制改革により逗子開成中学校と逗子開成高等学校が設置されました。1953年には創立50周年を迎え、教職員86名、生徒数1910名という大規模な学校へと発展しました。しかし、帝国海軍の消滅とともにエリート校としての地位を失い、1960年には教育改革を巡り、経営側と教職員組合の間で紛争が発生し、神奈川県知事の仲裁を必要とする事態にまで発展しました。また、学校の経営方針に不満を持った生徒会が同盟休校を行うなど、校内の風紀も次第に荒れていきました。高度経済成長期における公立学校の充実も影響し、逗子開成中学校への入学希望者は減少し、1973年には中学校の生徒募集を中止せざるを得なくなりました。しかし、この時期でも運動部の活動は活発で、全国レベルの選手を多く輩出しました。当時は逗子開成にしかプールがなかったため、周辺地域の学校の水泳部がプールを借りていました。

八方尾根遭難事故

1980年12月には、山岳部が八方尾根で遭難し、生徒6名が死亡するという悲しい事故も発生しました。

近年

1984年、徳間康快氏が理事長兼校長に就任し、学校の改革に着手しました。その中心となったのが中学校の再開です。1985年に生徒募集を再開し、中高6年一貫教育を強化することで、エリート教育を推進しました。2003年からは高校からの生徒募集を廃止し、完全中高一貫校となりました。この改革により、逗子開成は横浜南部から湘南、三浦半島にかけて有数の進学校へと成長を遂げました。また、徳間氏は学校の立地を活かした「海洋教育」や、名作映画を活用した「映像教育」など、特色ある教育活動も推進しました。2003年の創立100周年に向けて、1990年代末から校舎のリニューアル、新プールの建設、全館冷暖房の設置など、大規模な改修工事が行われました。

教育の特徴

逗子開成では、海に近い立地を活かした「海洋教育」として、約1.5kmの遠泳やヨット実習（中学校のみ）が正規授業の中で行われています。また、校内の本格的な映写施設である徳間記念ホールで、世界の映画を鑑賞する「映像教育」も実施されています。中学3年次にはニュージーランド、高校2年次には日本を含む東アジア各国やオーストラリアへの研修旅行が実施され、国際交流を深める機会が設けられています。さらに、夏休みを利用した海外研修や1年間のカナダ長期留学など、希望者には様々な国際交流プログラムが用意されています。

アクセス

JR横須賀線逗子駅、京急逗子線逗子・葉山駅から徒歩12分です。

部活動

演劇部は、2019年の全国[[高等学校総合文化祭]]で最優秀賞を受賞しています。

運動部には、空手道、剣道、硬式テニス、サッカー、柔道、水泳、卓球、バスケットボール、バドミントン、バレーボール、野球、ヨット、陸上競技などがあります。文化部には、囲碁、インターアクト、演劇、奇術、軽音楽、コンピュータ、サブカルチャー研究、社会科学、将棋、吹奏楽、生物、美術、鉄道研究、電気、フィジカルアート、フィッシング、物理化学、文芸、和太鼓、写真などがあります。

著名な出身者

逗子開成中学校・高等学校は、各界で活躍する多くの人材を輩出しています。

政治・行政
橋本龍伍（厚生大臣、大蔵省官僚、橋本龍太郎の父）
篠原豪（衆議院議員）
山田俊介（青森県知事、福岡県知事、逗子町長、逗子市長、逗子開成学園理事長）
廣枝音右衛門（台湾総督府警察官）
土田慎（衆議院議員）
冨吉榮二（農民運動家、逓信大臣、退学）

教育・学術
小畠郁生（古生物学者）
横尾義貫（建築学者、建築教育者）
吉野敬介（予備校講師）

企業・実業
徳間康快（徳間書店創業者・社長、逗子開成高等学校長・逗子開成学園理事長）
上村英輔（日本石油社長、逗子開成学園理事長）

文化・芸術
三村明（映画監督、カメラマン）
鈴木竹柏（日本画家）
奥村博史（洋画家、工芸家、平塚らいてうの夫）
徳山璉（声楽家、歌手）
竹田悠一郎（演出家、宝塚歌劇団）
瀧川鯉丸（落語家）
安部譲二（作家、中退）
平野威馬雄（詩人、仏文学者、中退）

芸能・マスコミ・エンタメ
hide（松本秀人）（X JAPANのギタリスト）
川地民夫（俳優）
小杉十郎太（声優）
谷啓（コメディアン、俳優）
円谷弘之（歌手）
長谷川康（テレビドラマのディレクター）
堀内賢雄（声優）
南川直（俳優）
三宅弘城（俳優）
吉村明宏（タレント）
門田和弘（山形放送アナウンサー）
岡田時彦（俳優、中退）
和田侑也（九州朝日放送アナウンサー）
大下哲矢（俳優）
橋山メイデン（お笑い芸人）

スポーツ・その他
荒岡昭（元プロ野球選手）
金彦任重（元プロ野球選手）
原田八州生（元プロ野球選手）
久保寺昭（元プロ野球選手）
棟居進（元プロ野球選手）
宮崎一夫（元プロ野球選手）
服部信雄（元バスケットボール選手）
小池一守（小池隆興）（元カヌー選手）
原貫太（フリーランス国際協力師、ジャーナリスト）
花山院親忠（神職、侯爵）

関連人物
田邊元（哲学者、創設者田辺新之助の息子）
橋健三（漢学者、三島由紀夫の祖父、第二開成中学校幹事）
国分三亥（検察官僚、朝鮮総督府官僚、逗子開成中学校理事長）
鹿江三郎（海軍軍人、教育者、逗子開成中学校長）
岡田三善（海軍軍人、政治家、逗子開成中学校長）
奥宮衛（海軍軍人、政治家、逗子開成中学校長）
三木愛花（ジャーナリスト、逗子開成中学校漢文講師）
逗子八郎（井上司朗）（歌人、逗子開成学園校歌作詞、逗子開成中学校講師（英語、国語、漢文））
弘田龍太郎（作曲家、逗子開成学園校歌作曲）
小長谷宗一（作曲家、逗子開成吹奏楽部演奏曲「Japanese tune」作曲）
團伊玖磨（作曲家、逗子開成讃歌「海」作曲）
三船久蔵（柔道家、逗子開成中学校柔道指導者）
高野佐三郎（剣道家、逗子開成中学校剣道指導者）
徳間康快（実業家、逗子開成中学校卒業生、逗子開成高等学校長、逗子開成学園理事長）
山田俊介（政治家、ボート事故の同乗を断念した小学生、逗子開成中学校卒業生、逗子開成学園理事長）
上村英輔（経営者、ボート事故の同乗を断念した小学生、逗子開成中学校卒業生、逗子開成学園理事長）
宮内寒弥（小説家、ボート事故で辞職した社会科教師石塚巳三郎の息子、ボート事件をもとに小説『七里ヶ浜』発表）
菅沼五郎（彫刻家、ボート事故慰霊像制作）
三角錫子（教育者、ボート事故鎮魂歌「真白き富士の根」作詞、弟3人が東京開成中学校出身、石塚巳三郎教諭と見合い予定があった）
神田鐳蔵（実業家、ボート事故の債務を引き受け校主（学校経営責任者）となる）
大浦兼武（政治家、ボート事故後の学校の経営難に神田鐳蔵を斡旋）
松尾寛三（実業家、ボート事故犠牲者松尾寛之の父）
松尾臣善（日銀総裁、ボート事故犠牲者松尾寛之の叔父）
東郷慎十郎（篤志家、共立学校卒業生、第二開成中学校に千円の寄付）

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