アクション俳優

アクション俳優とは、主に身体的な動きや格闘、スタントを含む激しいシーンを伴うアクション映画で中心的な役割を果たす俳優を指します。しばしばアクション・スターやアクション・ヒーローとも呼ばれます。かつてはスポーツや武術の経験者が多く活躍しましたが、1990年代頃からのCGをはじめとする映像技術の発展により、必ずしも実戦的な技術が必須ではなくなる傾向も現れました。しかしその一方で、スタントやCGに頼らず自らの身体一つで危険なアクションをこなす、いわゆる「本物」のアクション俳優の存在感は、2000年代以降も変わらず重視されています。

歴史

アクション俳優の系譜は、映画史の黎明期にまで遡ります。サイレント時代のハリウッド西部劇では、ブロンコ・ビリー・アンダーソンやウィリアム・S・ハートらが人気を博し、初めて縦構図やパン撮影が用いられたと言われる『大列車強盗』(1903)のような作品で活躍しました。トーキー時代には、西部劇の傑作『駅馬車』(1939)に主演したジョン・ウェインがスターの地位を確立します。

冒険映画の一ジャンルである剣戟映画では、サイレント期にダグラス・フェアバンクスが『奇傑ゾロ』(1920)や『ロビン・フッド』(1922)などでスタントなしのダイナミックなアクションを披露し、冒険活劇ヒーローとして絶大な人気を誇りました。ギャング映画もサイレント期に始まり、1930年代のトーキー時代には『犯罪王リコ』(1930)や『暗黒街の顔役』(1932)が流行し、ジェームズ・キャグニー主演の『民衆の敵』(1931)なども注目されました。

1940年代から1960年代

第二次世界大戦後、戦争映画が多く製作され、近代戦を題材にした作品がアクション映画のカテゴリーとして捉えられるようになります。並行して西部劇の人気も続き、『真昼の決闘』(1952)や『捜索者』(1956)などの名作が生まれ、ヘンリー・フォンダやゲイリー・クーパーといったスターが活躍しました。ジョン・ウェインはこの時代も変わらぬ人気を保ちました。1950年代後半には元ボディビルダーのスティーヴ・リーヴスが『ヘラクレス』(1958)などで成功を収め、後のアクションスターたちに影響を与えました。

日本映画界では、敗戦後の占領期が明けると時代劇やチャンバラ映画が復活。『羅生門』(1950)や時代劇アクションの金字塔『七人の侍』(1954)が国内外で評価され、主演の三船敏郎は世界的な知名度を得ました。『七人の侍』はハリウッドで西部劇『荒野の七人』(1960)としてリメイクされ、スティーブ・マックイーンらがガンアクションを見せました。同時期には特撮怪獣映画の祖『ゴジラ』(1954)も誕生し、人気シリーズとなります。

1960年代には、古典的な西部劇が後退し、イタリア製マカロニ・ウェスタンが台頭します。三船敏郎主演の『用心棒』(1961)に影響を受けた『荒野の用心棒』(1964)に主演したクリント・イーストウッドがニヒルなアウトロー像で人気を獲得しました。スパイ映画も全盛期を迎え、ショーン・コネリーが007シリーズの初代ジェームズ・ボンドとして世界的なスターとなります。1960年代末の『ワイルドバンチ』(1969)は、多用されたスローモーション描写による暴力表現で後のアクション映画に影響を与えました。フランスではジャン＝ポール・ベルモンドがスタントなしの危険なアクションで人気を博しました。

1970年代から1990年代：ブルース・リーと肉体派スターの時代

1970年代、クリント・イーストウッドは『ダーティハリー』(1971)の刑事役でもヒットを飛ばし、シリーズ化。ジーン・ハックマン主演の『フレンチ・コネクション』(1971)は歴史的なカーチェイスでアカデミー賞を受賞しました。チャールズ・ブロンソンも『狼よさらば』(1974)がシリーズ化されるなど人気を博します。

そして香港から現れたのが、ブルース・リーです。『燃えよドラゴン』(1974)の世界的な成功により、「アチョー」という怪鳥音と共にカンフー映画が一大ブームを巻き起こしました。彼は截拳道の創始者でもあり、その格闘アクションは後のジャッキー・チェンやジェット・リーといった多くのアクションスターに影響を与え、マーシャルアーツの重要性を世界に知らしめました。彼の急逝は伝説的な人気をさらに高めました。

1976年のシルベスター・スタローン主演『ロッキー』の成功は、当時のハリウッドのトレンドであったアメリカンニューシネマに反し、「個人の可能性」や「アメリカンドリーム」への憧憬を再燃させました。そして1980年代に入ると、スタローンと、ボディビルダーから転身したアーノルド・シュワルツェネッガーという二大肉体派スターがアクション映画界を席巻します。スタローンは『ランボー』(1982)で単独で多勢と闘う「ワンマン・アーミー」像を確立し、シュワルツェネッガーは『コナン・ザ・グレート』(1982)を経て、『ターミネーター』(1984)や『コマンドー』(1985)で無敵の超人ヒーローを演じました。彼らの登場は、肉体的な強さを前面に押し出した新しいヒーロー像を生み出しました。この時期には、空手家のチャック・ノリスや、武道・格闘技経験を持つドルフ・ラングレン、ジャン・クロード・ヴァンダム、スティーブン・セガールといった俳優たちも活躍しました。

一方で、それまでアクション専門ではなかった俳優の参入も見られます。テレビ出身のブルース・ウィリスが『ダイ・ハード』(1988)で大ヒットを飛ばし、超人的ではない「普通の男」が危機に立ち向かう新たなヒーロー像を確立しました。この成功は、一般俳優がアクションに挑むきっかけとなります。キアヌ・リーブスやニコラス・ケイジなども、必ずしも肉体派ではないながらも頭脳や機転で危機を乗り越える役柄で人気を博しました。

この時期には、香港映画界で「香港ノワール」と呼ばれるジャンルが興隆し、チョウ・ユンファ主演の『男たちの挽歌』(1986)はスタイリッシュなガンアクションで後の作品に影響を与えました。1990年代末には、香港のワイヤーアクションとCGを融合させた画期的なSFアクション『マトリックス』(1999)が登場。主演のキアヌ・リーブスと共に大ヒットし、「バレットタイム」などの特殊撮影技術は後続の作品に広く取り入れられました。CG技術の普及は、アクション経験のない俳優の出演機会を増やし、アクション表現の多様性を高めることになります。しかしその反面、1980年代から1990年代前半にかけて活躍した肉体派俳優の人気は一時的に陰りを見せ始めました。

2000年代から現在：多様化と国際化

2000年代以降、CG技術の向上と普及は女優のアクション進出も後押ししました。アンジェリーナ・ジョリーは『トゥームレイダー』(2001)でアクション俳優としての地位を確立。ミラ・ジョボビッチは『バイオハザード』シリーズでゾンビと闘うヒロインを演じ人気を博しました。ユマ・サーマン主演の『キル・ビル』(2003)は、日本刀を使ったアクションで話題となりました。中国映画『グリーン・デスティニー』(2000)では、ミシェル・ヨーとチャン・ツーイーの迫力あるアクションが世界的に評価されました。

演技派俳優のアクション映画への参入も顕著になります。ラッセル・クロウは『グラディエーター』(2000)でアカデミー主演男優賞を受賞。マット・デイモン主演の『ボーン・アイデンティティー』(2002)は、細かいカット割とリアルなアクションで新たなスタイルを提示し、その影響はリーアム・ニーソンやデンゼル・ワシントンといった演技派俳優が主演する人気アクションシリーズに繋がります。アメコミ映画の隆盛もあり、ヒュー・ジャックマンやクリスチャン・ベールといった俳優が肉体改造を伴う役作りでヒーローを演じました。

新世代のアクションスターも登場します。ジェイソン・ステイサムは『トランスポーター』(2002)で頭角を現し、自らスタントをこなすリアルなアクションで人気シリーズとなりました。ヴィン・ディーゼルやドウェイン・ジョンソンらが活躍する『ワイルド・スピード』シリーズも世界的なヒットとなりました。スタントマン出身のトニー・ジャーは『マッハ!!!!!!!!』(2003)でCG・ワイヤーなしのムエタイアクションを披露し注目を集めました。タイからはジージャー・ヤーニンのような女性アクション俳優も現れました。

アジア圏の俳優の世界進出も進みました。ドニー・イェンは『イップ・マン』シリーズで詠春拳の達人を演じブレイクし、ハリウッド大作にも出演。韓国のイ・ビョンホンやマ・ドンソク、インドのアーミル・カーンやプラバース、そしてインドネシアの武術家イコ・ウワイスなど、様々な地域のスターが国際的なアクション映画で活躍しています。

2010年代には、かつてのアクションスターたちが再集結する『エクスペンダブルズ』シリーズが大ヒットし、シルベスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーらが再び存在感を示しました。また、キアヌ・リーブス主演の『ジョン・ウィック』(2014)は、ガンアクションとカンフーを融合させた「ガンフー」や日本の武術を取り入れたスタイルで大好評となり、新たな人気シリーズとなりました。プロレスラー出身のデイヴ・バウティスタやジョン・シナ、ジェイソン・モモアといった、かつての肉体派を彷彿とさせる俳優たちの活躍も見られ、アクション俳優の多様な系譜は現在も続いています。

日本のアクション俳優

日本映画におけるアクション俳優の歴史は、時代劇と共に始まりました。1920年代の剣戟映画では、阪東妻三郎、大河内傳次郎、市川右太衛門、嵐寛寿郎らが人気を博し、迫力ある殺陣を披露しました。戦後、時代劇が解禁されると、三船敏郎が豪快な演技で世界的なスターとなり、『七人の侍』(1954)や『用心棒』(1961)などで不朽の名演を残しました。仲代達矢も『切腹』(1962)などでその存在感を示しました。

1960年代には、勝新太郎が盲目の居合斬り名人「座頭市」役で国民的人気スターとなり、市川雷蔵と共に大映の二大スターを形成しました。東映の任侠映画では、鶴田浩二と高倉健のコンビが人気を博し、特に高倉健は『日本侠客伝』や『昭和残侠伝』シリーズなどでストイックなヤクザ像を演じ、海外でも知られる存在となりました。日活の石原裕次郎や小林旭、赤木圭一郎らは「無国籍アクション」で人気を博しました。東映の実録路線では、菅原文太や渡哲也らが従来の任侠スターとは異なるヤクザ像を演じました。

1970年代のブルース・リーブームの中、武道家の倉田保昭は香港映画で活躍し、帰国後も「和製ドラゴン」として人気ドラマ『Gメン'75』などに出演、アクションクラブを設立しました。スタントマン出身の千葉真一は、日本初の本格的なアクション監督としても知られ、『キイハンター』などで人気を得ました。彼の設立したジャパン・アクション・クラブ(JAC)からは、真田広之や志穂美悦子といったスターが誕生しました。真田広之は後に世界的な俳優として活躍の場を広げ、近年の作品でも高い評価を受けています。

海外で忍者ブームを巻き起こしたショー・コスギも日本の武道家出身です。現代日本では、肉体鍛錬と様々な格闘技訓練を積んでノースタントに挑む岡田准一や、高い身体能力とトレーニングで難易度の高いアクションをこなす佐藤健、そして父の系譜を継ぐ新田真剣佑など、様々なスタイルのアクション俳優が活躍しています。

アクション俳優の役割と表現方法は、時代の技術や社会背景、そして俳優自身の持つ個性や身体能力によって絶えず変化し続けています。それぞれの時代に、観客を熱狂させる強烈なキャラクターと息をのむアクションで、多くの俳優たちが映画史にその名を刻んでいます。

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