イランのユダヤ人

イランにおけるユダヤ人の歴史

イランにおけるユダヤ人（ペルシア語: یهودیان ایران, Yahudi-ye Irani）は、古代アケメネス朝時代にこの地に定住したユダヤ人にルーツを持ちます。本稿では、イラン出身のユダヤ人を「ユダヤ系イラン人」、イスラエルやユダヤ文化全体を語る際には「イラン系ユダヤ人」と区別して表記します。

歴史

イランにおけるユダヤ人の歴史は、紀元前6世紀に遡ります。紀元前597年、バビロニアのネブカドネザル2世によってエルサレムが陥落し、多くのユダヤ人がバビロンへと連行されました（バビロン捕囚）。この時期、預言者ダニエルはスサ（現在のイラン領シューシュ）で没したとされ、「シュシャンのダニエル」と呼ばれています。

紀元前537年、アケメネス朝のキュロス2世がバビロニアを滅ぼすと、捕囚の民は解放され、故郷への帰還が許されました。約42,000人のユダヤ人がイスラエルへ帰還し、サマリアには総督が置かれました。ダレイオス1世の時代には、ゼルバベルの指揮のもと、エルサレムに第二神殿が再建され、ネヘミヤによって街の城壁が修復されました。さらに、預言者エズラの指導のもと、二度目の集団帰還が行われました。

エステル記

アハシュエロス王（クセルクセス1世と同一視される）の時代には、ユダヤ人モルデカイの養女エステルが王妃となり、後に大臣ハマンの陰謀を阻止し、ユダヤ人を救いました。この出来事は、ユダヤ教の祭日プーリームの起源となっています。

ヘレニズム時代

アレクサンドロス大王の侵攻とアケメネス朝の滅亡後、かつてのペルシア領内のユダヤ人は、セレウコス朝シリアの支配下に入りました。この時代、ユダヤ人の生活は政治的な混乱に翻弄されました。

ハスモン朝とパルティア

ユダ・マカバイによる反乱でユダヤ人は一時独立を果たすものの、後に再びシリアの支配下に入ります。紀元前129年、アンティオコス7世の死後、ハスモン朝は復活しますが、その頃からパルティアとの関係が深まっていきます。ローマ帝国の侵攻によりハスモン朝は弱体化し、パルティアの支援を受けたアンティゴノスによってヒルカノス2世が退位させられるなど、政治情勢は混乱しました。この混乱の中で、バビロンのユダヤ人がエルサレムに帰還するという動きも見られました。

パルティア時代

アルサケス朝パルティアは、広大な領域を支配しましたが、地方分権的な統治を行い、異民族に対して寛容でした。1世紀には、アディアベネ王国の指導層がユダヤ教に改宗し、エルサレム神殿の建設に資金を提供したという記録も残っています。ディアスポラのユダヤ人哲学者フィロンは、当時のバビロニアに多数のユダヤ人が暮らしていたと記録しています。ローマ帝国とのユダヤ戦争やエルサレム陥落後、多くのユダヤ人が東方へ亡命し、バビロンのユダヤ人はパルティアを支援しました。パルティアの君主は、ユダヤ人の長に「レシュ・ガルタ」の称号を与えました。3世紀には、パルティア領内の学院でタルムードが編纂されましたが、サーサーン朝の成立により学院は閉鎖されました。

サーサーン朝時代

サーサーン朝がゾロアスター教を国教とすると、ユダヤ教も弾圧の対象となりました。しかし、シャープール1世やシャープール2世の時代には、ユダヤ人への寛容政策が取られ、共同体の育成が進みました。特にシャープール2世は、母親がユダヤ人であったためか、ユダヤ人の信教の自由を認めました。

初期イスラーム時代

639年のカーディシーヤの戦いでペルシア軍がイスラーム教徒に敗れると、イランはイスラームの支配下に入りました。ユダヤ人は、キリスト教徒と共に「ズィンミー」として扱われ、信仰の自由は保護されましたが、ジズヤ（人頭税）などの税を課されました。イスラーム支配下のイランでは、ユダヤ人は医師、学者、職人として活躍し、天文学者マーシャーアッラーのような優れた学者も輩出しました。

モンゴル帝国時代

モンゴル帝国イルハン朝の時代には、宗教的に寛容な政策が取られ、ユダヤ人も一定の地位を保つことができました。フレグの子アバカは景教徒であり、アルグンはユダヤ人のサアド・アッ＝ダウラを宰相に起用しました。しかし、アルグンの死後、ガザンが即位するとイランのイスラーム化が進められ、異教徒への弾圧が始まりました。この時期、多くのユダヤ人がイスラームに改宗しました。

サファヴィー朝・アフシャール朝・カジャール朝時代

サファヴィー朝ではシーア派が国教とされ、ユダヤ人は差別的な扱いを受けました。行動が制限され、ユダヤ人であることを示すワッペンの着用も強制されました。ナーディル・シャーの時代には、マシュハドへのユダヤ人居住が認められましたが、シャーの死後、ポグロムが発生し、多くのユダヤ人が犠牲になりました。マシュハドの改宗者は、表面的にはイスラーム教徒として振る舞いながらも、密かにユダヤ教の信仰を守り続け、後にイスラエルに移住しました。

イラン・イスラーム体制

イラン・イスラーム体制下でもユダヤ人コミュニティは存在し、国会議員も選出されています。

主なイランのユダヤ人

旧約聖書時代～サーサーン朝

ダニエル
ハバクク
エステル
モルデカイ

中世

マーシャーアッラー
ラシードゥッディーン・ハマダーニー

近現代

イスラエル
モシェ・カツァブ（元イスラエル大統領）
ミハエル・ベン＝アリ（国会議員）
シャウル・モファズ（臨時イスラエル通産大臣）
リタ・クラインシュタイン（女性歌手）
アメリカ合衆国
ジミー・デルシャド（政治家、カリフォルニア州ビバリーヒルズ市元市長）
アイザック・ラリアン（実業家、MGAエンターテインメント社CEO）
ボブ・ヤーリ（映画プロデューサー）
ショーン・トーブ（映画俳優）
バハー・スーメク（映画女優）