プブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカ

プブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカの生涯

プブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカは、共和政ローマ時代に活躍した政治家であり、紀元前191年に執政官（コンスル）を務めた人物です。彼の家系は、パトリキ（貴族）の名門であるコルネリウス氏族のスキピオ家であり、一族からは数多くの執政官が輩出されています。彼の名前にある「ナシカ」は、「高い鼻」を意味するアグノーメン（第四名）です。

家系と出自

ナシカの家系は、ローマの名門貴族であるコルネリウス氏族の中でも、特にスキピオ家という有力な一族です。彼の祖父はルキウス・コルネリウス・スキピオ、父はグナエウス・コルネリウス・スキピオ・カルウスです。また、兄弟にはグナエウス・コルネリウス・スキピオ・ヒスパッルスがおり、叔父にはプブリウス・コルネリウス・スキピオ、そして従兄弟には、かの有名なプブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス（大スキピオ）とルキウス・コルネリウス・スキピオ・アシアティクスがいます。

青年期と神託

紀元前205年、ローマでは度重なる石の雨に見舞われ、『シビュラの書』を解読した結果、ペッシヌスから「イーダ山の母」を迎えることで勝利が得られるとの神託が下されました。さらに、アポロンの神託でも勝利が予言されたため、ローマはアシアのアッタロス1世に協力を要請し、マルクス・ウァレリウス・ラエウィヌス率いる使節団を派遣しました。使節団がデルポイに立ち寄った際、「ローマで最も優れた人物が女神を歓待すべき」という神託を受けました。紀元前204年、元老院は判断基準は不明ながらも、グナエウス・スキピオの息子であるナシカを最良と決定し、ナシカはクラウディア・クィンタを筆頭とする女官たちと共にオスティアへ女神を迎えに行き、4月12日にウィクトーリア神殿に女神を持ち込みました。この出来事を記念して、後にメガレシアの祝祭が催されるようになったと言われています。

クルスス・ホノルム（官職歴）

ナシカは、紀元前204年から199年の間にクァエストル（財務官）を務めたと考えられています。紀元前200年には、ガイウス・テレンティウス・ウァッロ、ティトゥス・クィンクティウス・フラミニヌスと共に、ウェヌシアへの入植者追加のための三人委員会の一員を務めました。紀元前197年には、グナエウス・マンリウス・ウルソと共にアエディリス・クルリス（上級按察官）に選出され、ローマ大祭を盛大に催し、3度繰り返したと伝えられています。紀元前194年には、ヒスパニア・ウルテリオル担当のプラエトル（法務官）に選出され、エブロ川を越えて進軍しました。冬営時には、兵士の士気と規律を保つため、特に必要もない船を建造させたと言われています。翌紀元前193年には、プロプラエトル（前法務官）としてヒスパニアで戦い、ルシタニア人に勝利しました。帰国後、執政官選挙に出馬しました。

紀元前192年の執政官選挙ではマンリウス・ウルソ、ルキウス・クィンクティウス・フラミニヌスと争うも落選しましたが、翌年再挑戦して当選を果たしました。紀元前191年には、マニウス・アキリウス・グラブリオと共に執政官に選出され、ボイイ族に勝利して凱旋式を挙行しました。翌年もプロコンスル（前執政官）としてボイイ族と戦い、奪われた土地を取り戻しました。

落選とその後

紀元前189年のケンソル（監察官）選挙では、ティトゥス・クィンクティウス・フラミニヌス、同僚のグラブリオ、ルキウス・ウァレリウス・フラックス、マルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウス（大カト）、マルクス・クラウディウス・マルケッルスといった有力な候補者との争いに敗れました。紀元前184年の選挙にも立候補しましたが、ルキウス・フリウス・プルプリオ、従兄弟のルキウス・スキピオ・アシアティクス、同僚のウルソ、ルキウス・ウァレリウス・フラックス、マルクス・フルウィウス・ノビリオル、ティベリウス・センプロニウス・ロングス、マルクス・センプロニウス・トゥディタヌス、そして大カトとの選挙戦に敗れました。

紀元前183年には、ガイウス・フラミニウス、ルキウス・マンリウス・アキディヌス・フルウィアヌスと共に、アクイレイアに植民市を建設する三人委員会に選出されました。また、ビテュニアのペルガモン攻撃とハンニバルをかくまっていることに抗議するため、フラミニヌスが派遣された際、スキピオ・アシアティクスと共に同行しました。紀元前171年には、ヒスパニアの属州民が担当政務官による搾取を訴えたため、ルキウス・アエミリウス・パウッルス・マケドニクス、大カト、ガイウス・スルピキウス・ガッルスらと共に代理人となり、マルクス・ティティニウス・クルウス、プブリウス・フリウス・ピルス、ガイウス・マティエヌスを訴追しました。

人物像

キケロによると、ナシカはエンニウスとの間で面白い逸話を残しています。ある日、ナシカがエンニウスの家を訪ねた際、召使いに「いない」と答えさせて居留守を使われたため、後日エンニウスが訪ねてきた時に、ナシカは自身で「いない」と答えたという話が残っています。

参考文献

リウィウス『ローマ建国史』
T. R. S. Broughton (1951). The Magistrates of the Roman Republic Vol.1. American Philological Association
T. R. S. Broughton (1991). “Candidates Defeated in Roman Elections: Some Ancient Roman "Also-Rans"”. Transactions of the American Philosophical Society (American Philosophical Society) 81 (4): i-vi+1-64. JSTOR 1006532.
George Davis Chase (1897). “The Origin of Roman Praenomina”. Harvard Studies in Classical Philology (Department of the Classics, Harvard University) 81 (4): 103-184. JSTOR 310491.

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