国技館5000人の第九コンサート

国技館5000人の第九コンサート

「国技館5000人の第九コンサート」は、東京の両国国技館で毎年2月に行われる音楽イベントです。ベートーヴェンの交響曲第9番、通称「第九」の演奏をメインとしており、全国各地から公募で集まった約5000人の合唱団員が参加することが最大の特徴です。

イベントの背景と目的

このコンサートは、1985年に両国国技館の落成を祝う目的で初めて開催されました。当時、両国は相撲文化で栄えていましたが、戦後の旧国技館接収などを経て、地域が沈滞していました。新国技館の落成を機に、墨田区の活性化と文化向上を目指し、墨田区文化観光協会の職員であった石井貞光氏と、指揮者の石丸寛氏が中心となって企画されました。初回公演には「おかえりなさい国技館」というサブタイトルが付けられ、地域住民の期待が込められていました。

運営体制

コンサートの運営は、「国技館すみだ第九を歌う会」が主催し、墨田区が共催しています。この組織は、イベントの企画段階で墨田区文化観光協会によって設立されました。民間の放送局が主催する大阪の「サントリー1万人の第九」や広島の「第九ひろしま」と比較して、公的な性格が強いイベントと言えるでしょう。協賛企業は地元企業が中心で、過去にはライオンや日立製作所が単独で協賛していました。

コンサートの構成とプログラム

コンサートは通常、2部構成で行われます。

第1部: 名曲コンサート
第2部: 「第九」の演奏と『花』の合唱

コンサートの最後には、合唱団の「解団式」が行われ、都道府県別の合唱団員紹介や、恒例の「乾杯の儀式」が行われます。第1部は、過去には式典や創作作品の演奏、第九に関するトークなどが行われましたが、近年では名曲コンサートが中心となっています。第5回公演では、山本直純氏が指揮を務め、5周年記念委嘱祝典曲が演奏されたこともあります。また、第22回公演では、円光寺雅彦氏が指揮を執りました。このように、同一の指揮者が複数の大規模な「第九」イベントで指揮台に立つことは稀です。

合唱団とオーケストラ

合唱団は、首都圏だけでなく全国各地から約5000人が集まります。海外からの参加者もいます。オーケストラは、東京交響楽団が創設時から参加しており、第2回からは新日本フィルハーモニー交響楽団も参加しています。「5000人の第九」用には「国技館第九コンサート祝祭管弦楽団」という名称も使われています。さらに第16回からは、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団も加わりました。合唱団員は、事前のレッスンを受ける必要があり、9月下旬の「発会式」からレッスンが開始され、年明け以降は都内各地で練習を重ねます。本番前日には合唱リハーサルが行われます。

沿革と過去の公演

過去の公演では、様々なテーマが設定され、ソリストや指揮者も多岐にわたっています。以下に主な公演のテーマと指揮者、ソリストをまとめました。

第1回 (1985年): 「おかえりなさい国技館」指揮：石丸寛、ソプラノ：中沢桂、アルト：伊原直子、テノール：五十嵐喜芳、バリトン：栗林義信
第2回 (1986年): 「かけがえのない地球そして生命」指揮：石丸寛、ソプラノ：中沢桂、アルト：伊原直子、テノール：五十嵐喜芳、バリトン：栗林義信
第3回 (1987年): 「音楽都市を目指して」指揮：石丸寛、ソプラノ：中沢桂、アルト：伊原直子、テノール：五十嵐喜芳、バリトン：栗林義信
第4回 (1988年): 「音楽都市づくり元年」指揮：荒谷俊治、ソプラノ：中沢桂、アルト：伊原直子、テノール：小林一男、バリトン：栗林義信
第5回 (1989年): 「一歩そして一歩」指揮：石丸寛、ソプラノ：大倉由紀枝、アルト：伊原直子、テノール：小林一男、バリトン：木村俊光
第6回 (1990年): 「歌う歓び、聴く歓び」指揮：石丸寛、ソプラノ：大倉由紀枝、アルト：伊原直子、テノール：小林一男、バリトン：木村俊光
第7回 (1991年): 「音楽それは平和への願い」指揮：三石精一、ソプラノ：大倉由紀枝、アルト：西明美、テノール：小林一男、バリトン：木村俊光
第8回 (1992年): 「わかち合おう、歓びを」指揮：石丸寛、ソプラノ：大倉由紀枝、アルト：伊原直子、テノール：小林一男、バリトン：木村俊光
第9回 (1993年): 「苦悩をへて歓喜へ」指揮：石丸寛、ソプラノ：大倉由紀枝、アルト：伊原直子、テノール：小林一男、バリトン：木村俊光
第10回 (1994年): 「第九との出会い10年」指揮：石丸寛、ソプラノ：大倉由紀枝、アルト：伊原直子、テノール：吉田浩之、バリトン：多田羅迪夫
第11回 (1995年): 「心新たに歓びの時を求めて」指揮：大友直人、ソプラノ：大倉由紀枝、アルト：伊原直子、テノール：錦織健、バリトン：勝部太
第12回 (1996年): 「明日のために感動をわかち合おう」指揮：大友直人、ソプラノ：澤畑恵美、アルト：伊原直子、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第13回 (1997年): 「歓喜の歌声響きわたる街すみだ」指揮：大友直人、ソプラノ：澤畑恵美、アルト：伊原直子、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第14回 (1998年): 「未来に輝く子どもたちに愛と音楽を -すみだトリフォニーホールの船出-」指揮：大友直人、ソプラノ：大倉由紀枝、アルト：秋葉京子、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第15回 (1999年): 「音楽都市すみだの道標」指揮：大友直人、ソプラノ：澤畑恵美、アルト：秋葉京子、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第16回 (2000年): 「新1000年に継げ、歓喜の歌を」指揮：大友直人、ソプラノ：澤畑恵美、アルト：秋葉京子、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第17回 (2001年): 「21世紀に夢をのせて」指揮：外山雄三、ソプラノ：大橋ゆり、アルト：竹田弥加、テノール：高橋淳、バリトン：高橋啓三
第18回 (2002年): 「平和と友情、アジアの願い」指揮：張允聖、ソプラノ：豊田喜代美、アルト：手嶋眞佐子、テノール：福井敬、バリトン：福島明也
第19回 (2003年): 「世界の自由と平和を願って…」指揮：ペトル・ヴロンスキー、ソプラノ：佐藤しのぶ、アルト：坂本朱、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第20回 (2004年): 「第九を世界平和のメッセージに…」指揮：荒谷俊治、ソプラノ：中丸三千繪、アルト：菅有実子、テノール：上原正敏、バリトン：稲垣俊也
第21回 (2005年): 「世界はひとつ、EUも友だち第九の世界連合へ」指揮：ローランド・バーダー、ソプラノ：大倉由紀枝、アルト：林美智子、テノール：井ノ上了史、バリトン：木村俊光
第22回 (2006年): 「Dona nobis pacem （我らに平和を与えたまえ）」指揮：円光寺雅彦、ソプラノ：佐藤しのぶ、アルト：林美智子、テノール：錦織健、バリトン：木村俊光
第23回 (2007年): 「第九はあらゆる人々の交流、交歓の広場」指揮：荒谷俊治、ソプラノ：佐藤しのぶ、アルト：坂本朱、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第24回 (2008年): 「世界は一つ!」指揮：円光寺雅彦、ソプラノ：佐藤しのぶ、アルト：井戸靖子、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第25回 (2009年): 「『共生』：人と自然が共に生きる」指揮：ケルスティン・ベーンケ、ソプラノ：佐藤しのぶ、アルト：坂本朱、テノール：ローレンス・バクスト、バリトン：福島明也
第26回 (2010年): 「全人類は兄弟・姉妹（Alle Menschen werden Brüder）」指揮：張允聖、ソプラノ：佐藤しのぶ、アルト：坂本朱、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第27回 (2011年): 「平和の絆～第九と共に～」指揮：松尾葉子、ソプラノ：佐藤しのぶ、アルト：坂本朱、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第28回 (2012年): 「復活の祈り～第九と共に～」指揮：円光寺雅彦、ソプラノ：佐藤しのぶ、アルト：坂本朱、テノール：吉田浩之、バリトン：河野克典
第29回 (2013年): 「明日への希望」指揮：松尾葉子、ソプラノ：佐藤しのぶ、アルト：坂本朱、テノール：錦織健、バリトン：福島明也
第30回 (2014年): 「スカイツリーの街“心でつなぐハーモニー”」指揮：松尾葉子、ソプラノ：澤畑恵美、アルト：菅有実子、テノール：大澤一彰、バリトン：福島明也
第31回 (2015年): 「届けよう　愛と平和のメッセージ」指揮：松尾葉子、ソプラノ：佐々木典子、アルト：増田弥生、テノール：大澤一彰、バリトン：福島明也
第32回 (2016年): 「歌おう第九　伝えよう感動」指揮：松尾葉子、ソプラノ：小林沙羅、アルト：増田弥生、テノール：山本耕平、バリトン：福島明也
第33回 (2017年): 「世界へ届け平和の願い」指揮：下野竜也、ソプラノ：半田 美和子、アルト：清水華澄、テノール：糸賀修平、バリトン：福島明也
第34回 (2018年): 「第九でつながる心と心」指揮：大友直人、ソプラノ：小林沙羅、アルト：鳥木弥生、テノール：西村悟、バリトン：与那城敬
第35回 (2019年): 「歌いつごう　すみだの第九」指揮：大友直人、ソプラノ：小林沙羅、アルト：金子美香、テノール：鈴木准、バリトン：福島明也
第36回 (2020年): 「令和へつなぐ　第九の心」指揮：大友直人、ソプラノ：市原愛、アルト：谷口睦美、テノール：福井敬、バリトン：福島明也（※新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、開催中止）
* 第37回 (2024年): 「復活の第九・未来への第九　初演から200年の時を超えて」指揮：大友直人、ソプラノ：市原愛、アルト：谷口睦美、テノール：宮里直樹、バリトン：福島明也（※新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、5年ぶりに復活。2023年12月17日現在「国技館すみだ第九を歌う会」の登録者は4,027名。）

交流実績と関連情報

「国技館すみだ第九を歌う会」は、国内外の様々な演奏会にも参加しており、「1万人の第九」や「第九ひろしま」といった国内のイベントに加え、ウィーン、ベルリン、ボン、シドニー、ロサンゼルスなど海外の都市でも演奏を行っています。関連図書としては、『歌った! 5000人の「第九」の記録』や『5000人の第九物語』、『〈第九〉と日本人』などがあります。

「国技館5000人の第九コンサート」は、地域に根ざした文化活動として、多くの人々に感動を与え続けています。このイベントを通じて、音楽の力で人々がつながり、平和への願いが共有されることが期待されています。

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