官職の唐風改称

官職の唐風改称とは

官職の唐風改称は、天平宝字2年（758年）に藤原仲麻呂（恵美押勝）によって推進された、中央の官司名や職名を唐風に改称する政策です。この政策は、当時の日本の政治や文化に大きな影響を与えました。

経緯

藤原仲麻呂は、光明皇太后の力を背景に朝廷での影響力を強めていきました。彼は、大陸の先進文化の導入に強い意欲を持っており、その一環として官職の唐風改称を推し進めました。紫微中台は、改称以前から存在した官司ですが、その名称は唐の玄宗時代の「紫微省」と、則天武后時代の「中台」に由来しています。紫微中台の長官は当初「紫微令」でしたが、天平勝宝9歳（757年）に「紫微内相」に改められました。

天平宝字2年（758年）に淳仁天皇が即位すると、仲麻呂は政治の実権を握り、朝廷の唐風化を積極的に推進しました。8月25日には、仲麻呂らの奏上によって百官の名号が改められ、8月28日付の文書では、新官職名である「左勇士衛督」（旧：左衛士府督）で署名されています。このことから、改称は即日施行されたと考えられます。

ただし、改称はすべての官司や官職に及んだわけではありません。省以下の寮司では、図書寮と陰陽寮のみが改称され、これは仲麻呂が儒教経典や暦算を重視したためと見られます。また、四等官の職名も太政官と中衛府のみが対象となり、仲麻呂が両者を行政・軍事の拠点としたことが理由と考えられています。

唐では、玄宗によって713年と752年に官号改正が行われており、この日本の改称は、これらの唐の先例に倣ったものと考えられています。また、八省に五常の徳目を用いている点については、渤海の六部に倣ったという見方もあります。

これらの唐風改称は、天平宝字8年（764年）の仲麻呂の敗死によって、すべて旧制に戻されました。

改称された官司・官職の一覧

以下に、改称された主な官司と官職の一覧を示します。

官司

太政官 → 乾政官
紫微中台 → 坤宮官
中務省 → 信部省
式部省 → 文部省
治部省 → 礼部省
民部省 → 仁部省
兵部省 → 武部省
刑部省 → 義部省
大蔵省 → 節部省
宮内省 → 智部省
図書寮 → 内史局
陰陽寮 → 大史局
弾正台 → 糾政台
衛士府 → 勇士衛
衛門府 → 司門衛
兵衛府 → 虎賁衛
中衛府 → 鎮国衛

官職

太政大臣 → 大師
左大臣 → 大傅
右大臣 → 大保
大納言 → 御史大夫
大将 → 大尉
少将 → 驍騎将軍
員外少将 → 次将
左右京職大夫 → 左右京兆尹

その他の唐風化

官職の唐風改称と関連して、以下の事柄も唐風化されました。

尊号奉献: 君主や祖先に対する尊号奉献が盛んに行われ、玄宗の施策に倣ったものとされます。孝謙上皇や光明皇太后、聖武天皇などに尊号や諡号が贈られました。
避諱の制度: 君主や貴人の名を避ける避諱の制度が唐に倣って導入されました。これにより、「不比等」や「鎌足」の名の使用が禁じられました。
四字年号: 天平以降、四字年号が採用されました。則天武后の四字年号使用が先例とされています。
官人の改名: 藤原八束・千尋兄弟が真楯・御楯に、藤原弓取が真先に改名するなど、有力な官人の改名が相次ぎました。
年号の呼称: 天平勝宝7・8・9年は「年」ではなく「歳」と呼ぶようになりました。これは唐の玄宗が「天宝3載」と改めたことに影響を受けたと考えられています。
問民苦使: 「民の患苦を親しく問う」ために問民苦使が各道に派遣されました。これは唐の観風俗使に倣った政策です。
新貨幣の発行: 開基勝宝（金貨）・大平元宝（銀銭）・万年通宝（銅銭）の3種が新たに発行され、旧銭に対し高い価値が付与されました。これも唐の貨幣制度を参考にしたものとされます。
『藤氏家伝』の編纂: 仲麻呂は父祖三代を顕彰する『藤氏家伝』を編纂し、鎌足の描写に中国的な逸話を盛り込みました。
正史編纂事業: 『続日本紀』の編纂が開始されました。
* 陪都の設置: 近江国に陪都として「北京」が置かれ、保良宮が造営されました。これは則天武后や玄宗の政策を意識したものです。

まとめ

官職の唐風改称は、藤原仲麻呂が主導した唐風化政策の一環であり、当時の政治や文化に大きな影響を与えました。この政策は、日本の律令制度や文化に新たな要素を取り入れる試みでしたが、仲麻呂の失脚とともに短期間で終わりました。しかし、この時期の様々な改革は、その後の日本の歴史に大きな影響を与えたことは間違いありません。

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